原爆被爆者の後障害
放射線影響研究所
大久保利晃
放射線影響研究所(放影研)は、ABCC(Atomic Bomb Casualty Commission)が開始した原爆被爆者の長期間にわたる各種の健康影響調査の継承を主要な使命としている。中でも寿命調査(LSS)と呼ばれる約12万人の固定集団を対象とした死因調査と、その一部約2万人に対する2年に1回の成人健康調査(AHS)が研究活動の基盤となっている。放影研は、同時に母親の胎内で被爆した集団と両親又は片親が被爆者である被爆二世集団の追跡調査も行っている。
これらの集団を対象とした信頼性の高い個人別被ばく線量推定システムが確立されており、それに基づく放射線被ばくによるがん主要部位別リスクの研究結果は、放射線防護基準確立の根拠として国際的に重視されてきている。
これまでの追跡結果では、固形がんの死亡は、被ばく線量1Gy換算で約47%の過剰リスクが認められ、被ばく線量とがん発生の間には直線的な量反応関係が認められている。部位別の解析では、女性乳房、膀胱、食道などでリスクが高い。がんのリスクは、被爆時年齢が若いほど高く、男女間では女性に高いリスクが認められた。
現時点でLSS対象者の約40%が生存しており、これからの数年間でがん死亡数がピークを迎えると予想されていることから、観察死亡数の増加によりリスク推定の信頼性が高まると期待される。
AHS調査で過去30年以上にわたり収集、保存されている血液などの試料は、LSS、被爆二世の疫学資料とともに、放射線の長期慢性影響のみならず、多くの慢性疾患の研究にとって世界遺産ともいえるほど貴重なものである。