第22回日本定位放射線治療学会参加レポート

2013.07.11

5月24日から三重県で開催された第22回日本定位放射線治療学会の参加レポートを神戸低侵襲がん医療センターの馬屋原先生にご執筆いただきました!

神戸低侵襲がん医療センター放射線治療科
馬屋原 博

はじめに
近年の高精度放射線治療技術の進歩には目を見張るものがある。今回、筆者はサイバーナイフG4を本年4月に新規導入した施設の代表として、初めて日本定位放射線治療学会に参加させていただいた。私事で強縮であるが、前任地では汎用型リニアックのみで定位放射線治療を行っており、特に呼吸性移動を有する肺・肝腫瘍や、頭蓋内腫瘍に関する照射技術に大きな限界を感じていた。筆者を含めた担当スタッフ全員がサイバーナイフの使用経験が無かったものの、約3週間の研修と数日間の施設見学を経たのち、自施設において新たにサイバーナイフの実地臨床を開始した。治療開始前には大きな不安を感じていたものの、初期経験症例から大きな成果が挙げられている。
以下、定位放射線治療専用装置を自施設に新規導入した放射線腫瘍医の目線で、今回の日本定位放射線治療学会に関して報告させていただく。

学会開催の概要
本学会は、ガンマナイフを専門とする脳神経外科医が中心となって開催されてきた経緯があり、3回の開催につき、2回は脳神経外科医が、1回を放射線腫瘍医が大会長を務める内規がある。今回の大会長は放射線腫瘍医として、名古屋市立大学の芝本雄太教授が務められた。芝本教授の粋な計らいにより、東海地区随一のリゾート地である長島温泉のホテル花水木にて2013年5月24日夕方より25日にかけて開催された(図1)。学会宿泊参加者には、学会期間中の2日間、ホテル付属温泉施設(図2)とナガシマスパーランド(図3)へ自由に入場できるという特典が付与された。
今回の学会のテーマは「放射線腫瘍学のモダリティとしての定位照射の発展」と題して、頭蓋内の定位放射線治療のみならず、体幹部の定位放射線治療についても、さまざまなモダリティによる治療技術・成績が発表された。学会テーマとも関連するが、一部の脳神経外科医の間にはガンマナイフを、放射線腫瘍学から独立した別のモダリティとして扱う風潮もあると思われるが、あくまで放射線治療の一つのモダリティであることを再認識していただく良い機会になったのではないかと思う。
以下、本学会で取り上げられたトピックに関して、順不同に紹介させていただく。
10個までの転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ単独治療の前向き多施設共同研究(JLGK0901)結果発表
本学会のハイライトは、日本ガンマナイフ研究会(以下JLGK)によって行われた転移性脳腫瘍に対する前向き多施設共同研究の結果発表である。Primary/Secondary endpoint、 認知機能、有害事象評価の3部構成で発表された。本年2月に開催されたJLGKを除き、放射線腫瘍医も参加する対外的な学会で本試験の結果が発表される、初めての機会と評された。
試験概要:頭蓋内の腫瘍個数が10個以下の転移性脳腫瘍患者が対象
腫瘍数5~10個の症例に対するガンマナイフ単独治療の有効性が、2~4個の症例に対する有効性と同等である、という仮説を検証するために試験が計画された非劣性試験。JLGKにより治療方針への介入を伴わない、前向きの多施設観察研究として行われた。

1.方法
2009年2月より症例登録開始、23施設が参加した。主要な適格基準は、1)新規に脳転移と診断、2)転移個数10個以下、3)最大病変の最大径30mm未満かつ腫瘍体積10㏄未満、4)総腫瘍体積15㏄以下、5)髄膜炎所見なし、6)KPS70%以上。腫瘍個数2~4個群に対する5~10個群の非劣性マージンは0.3と規定された。Primary endpointはガンマナイフ治療後の全生存期間。
2.結果
2012年2月に登録が終了、1,194例が解析対象となり、うち原発巣が肺の症例が912例と大部分を占めた。転移個数によりA(1個:455例)、B(2~4個:531例)、C(5~10個:208例)の3群に分けて全生存期間が解析された。生存期間中央値(MST)はA:13.9M、B:10.9M、C:10.8Mであり、BC間に生存期間の有意差はみられなかった(p=0.78)。Secondary endpointである新病変出現、追加治療施行、神経死に関しても有意差はみられなかった。12カ月以降の髄液播種のみC群で有意な増加がみられた。また、認知機能評価、放射線障害の頻度に関してもB/C群で差を認めなかった。以上の結果が報告され、JLGK研究者により、5-10個の転移性脳腫瘍症例に対するガンマナイフ単独治療の新たなLevelⅡエビデンスと評された。

3.会場の反応と私見
事前に予測されていた通りの結果であり、放射線腫瘍医の間にも特に驚きの反応はみられなかった。研究者も言及されていた通り、介入もランダム化も伴わない試験であったため、多くのバイアスが含まれた結果であることを考慮する必要がある。C群(5~10個)の転移性脳腫瘍に対する標準的治療はあくまで全脳照射であるので、ガンマナイフ施設へ紹介となった時点で、紹介医の強い選択バイアスがかかることになる。総腫瘍体積の規定があることから、必然的に腫瘍径が総じて小さめの症例がC群に登録されることになる。腫瘍個数が多ければ多いほど予後が不良であることは腫瘍学的に自明のことであり、B/C群間の予後に差がないということ自体、C群内に予後良好な症例が多く選択されていることを示していると思われる。MRI画像評価に関しても、紹介元施設の標準的スライスMRIと、ガンマナイフ施設の薄切スライスMRIで微小な脳転移の個数評価が大きく変わる可能性もある。このように多様な選択バイアスを孕んだ結果であることを考慮すると、5~10個の転移性脳腫瘍症例で、ガンマナイフ施設に到達し単独治療を行い得た、一部の選択された症例に限定されたエビデンスと解釈するべきと思われる。ともあれ、国内で1,200例もの膨大な症例を前向きの臨床試験で集積し得たことは放射線腫瘍医側も敬意を払うべきであり、我々の転移性脳腫瘍に対するスタンスに一石を投じたと言えるであろう。多発性転移性脳腫瘍に対する治療個別化の流れの中で、常に考慮すべき重要な試験結果である。すでに論文化されているとのことで、今後どのような雑誌に論文が掲載されるかで本試験の評価が定まってくるであろう。


図1 日本定位放射線学会 口演会場の様子


図2 湯あみの島


図3 ナガシマスパーランド、園内の様子

※続きはRad Fan8月号(7月末発売)にてご覧ください!