日本医学放射線学会・日本学術会議は市民公開シンポジウム「医療被ばくを考える-エックス線CTによる被ばくの現状とその軽減のために-」を、7月20日に、東京大学山上会館(東京都文京区)にて共同開催した。座長には石口恒男氏(愛知医科大学教授/日本医学放射線学会放射線防護委員会委員長)と遠藤啓吾氏(京都医療科学大学学長/日本学術会議放射線臨床検査分科会委員長)が迎えられた。
冒頭、栗林幸夫氏(慶応義塾大学教授/日本医学放射線学会理事長)は「今日、CTにおいて望まれているのはALARAの原則に則った、診断能を損なわず線量を低減する技術である。診断情報による便益はリスクより高くなくてはならない。大切なのはCTの現状を把握し、今後を考えていくことである」と挨拶をした。
挨拶の後、基調講演が行われ、甲斐倫明氏(大分県立看護科学大学環境保健学研究室教授)は「医療被ばくの健康リスク」というテーマで、「全身CT検査による被ばく線量は約10mSvであり、胸部単純撮影のおよそ100倍にあたる。日本原子力研究開発機構と共同開発した「WAZA-ARI」はCT撮影による被ばく線量を評価するWebシステムである」と語り、線量管理の重要性を述べた。また、「英国の研究では小児CT検査においては、検査後に白血病と脳腫瘍のリスクが増加。検査理由は熟考しなくてはならない。肺がん発症喫煙者の場合、CTスクリーニングが死亡率を20%低減。30歳から79歳の乳癌死亡率も年々減少しており、早期発見のベネフィットがある。大切なのは線量を把握しつつ、リスクとベネフィットを比較することである」と語った。
続いて、遠藤啓吾氏による「日本におけるCT被ばくの現状」が講演され、群馬県における実地調査と厚労省のデータを基に「日本では2003年よりCT撮影件数は横ばいだが、64列CTの登場に伴い、被ばく線量が増加している可能性はある。今後は日本医学放射線学会が中心となってCTの診断参考レベルを設けつつ、管理体制を築いていくべきである」と語った。
伊藤友洋氏(JIRA放射線線量委員会委員長/GE・ヘルスケアジャパン)は「米国における医療放射線管理の現状」について講演。「米国ではX線CTの過剰照射への懸念に対し、関係団体が集まって会議を開催。対応策としてCT線量の管理が挙げられた。IAEAからは患者の放射線被ばく管理(PRET)に対する共同宣言も出されている。具体的な線量管理としては線量レジストリ(DIR)が提案され、現在標準化要求へ対応中である」と米国の現状について言及した。
続く赤羽恵一氏(放射線医学総合研究所医療被ばく研究推進室室長)による「放医研における取り組み」として、放射線診断のデータをデータベース化し、患者個人の放射線診断履歴を追跡可能とするスマートカードプロジェクトへの取り組みについて講演した。
花井耕造氏(複十字病院)による「肺がんCT検診における取り組み」では線量と画質のバランス点について語り、線量と画質の管理システムであり国際標準規格準拠の「CADI」について講演した。
柳田祐司氏(JIRA放射線線量委員会委員/東芝メディカルシステムズ)は「低線量高画質CT装置の開発」について、逐次近似再構成手法による低線量高画質CT画像の作成法によるCT線量の軽減や、DoseチェックなどによるCT線量への注意喚起について述べた。
大岩ゆり氏(朝日新聞社科学医療部)による講演「マスコミから」では、放射線医療の均てん化や、治療技術の集約化について述べた。また、患者の安心のため正確な情報を提供してほしいと語った。
総括として、米倉義晴氏(放射線医学総合研究所所長/日本学術会議会員)は「いまだに医療被ばくについては実態把握が不十分である。線量の管理体制を整え、現状を把握していくことが課題である」と述べた。