第54回日本脈管学会参加報告

2013.11.08

10月10日~11日、東京ステーションカンファレンスで開催された第54回日本脈管学会レポートを渡邊 環先生にご執筆頂きました!

大手町側からみたこのビルが会場。
JR東京駅、都営地下鉄大手町駅と直結している。
会場は4Fから6Fまでのフロアとなり、
受付が5F。ビルは手狭でわかりづらい。

第54回日本脈管学会参加報告

日本IVR学会会員
渡邊 環

はじめに
 第54回日本脈管学会に参加しました。学術会議は、2013年10月10日~11日の期間、東京ステーションカンファレンスで行われ、引き続き土曜日12日にはHands-onを含む各種セミナー(医用近赤外線分光法研究会、血管無侵襲診断セミナー、日本血管外科学会教育セミナー、血管内レーザー焼灼術研修会)が開催されました。前半の10日と11日の学術大会に参加しましたので、ご報告いたします。
 この学術会議は英語名をJapanese College of Angiologyといい、参加者の科が多岐にわたることが特徴で、これは過去25年間の主管の専門科をみてもその多彩さと勢力図がおおよそ分かります。外科(主に血管外科)が10回、内科(主に循環器内科)が10回、放射線科2回、病理2回、生理1回という内訳です。放射線科医の参加は少ないものの、大動脈および静脈のインターベンションをされているIVR医の参加が見られました。ただし末梢動脈領域は、同時期に米国ラスベガスで開催されていたVIVA meetingsに多くの専門家が参加したためか、はたまた日本のIVR医で末梢動脈領域の治療に携わる医師が少ないためか、参加者は少ないようでした。
 以下、学術レポートなので文体が変わる点、ご了承ください。

肺高血圧症に対する血管内治療

i)概略
 成人の肺高血圧症で、原因が慢性肺血栓塞栓症に起因する病態に対する血管内治療の講演が岡山医療センター松原広己先生よりあった。この手技は、海外では米国San Diegoの病院でセンター化されて行われている治療であるが、本邦では数は少ないが治療成績はSan Diegoの成績を上回るものである。従来は、心臓手術として超低体温循環遮断を併用した手術により治療されており、手術死亡率は5%程度と報告されているが、耐術不能な患者も多く、たとえ成功しても非常に侵襲の大きな手術である。末梢血管に対するデバイス、冠動脈に対するデバイスを用いて複数回に分けて肺動脈の区域気管支以降を治療し肺動脈圧を予後の良好な30mmHg以下に低下させ、1年の生存率50%程度の患者群を90%前後まで改善できるという報告であった。

ii)技術的側面
 左v3(解剖学的にアクセス困難)以外はほとんどの症例でアクセスできるということであった。Femoral veinからでもJugular veinからでもアプローチ可能だ。海外ではSan Diegoのグループが既に1,000例以上行っているが(もともとacute PE、chronic PEは欧米に圧倒的に多い疾患)、岡山での180例程度ではあるが細かなテクニックは、日本の治療成績を優秀なものとしており世界から逆に注目を浴びているようだ。気になったのは、使用デバイスがcoronary用ではなく末梢血管用であることで、誰でも知っているとおり肺動脈は名前は動脈だが基本的に低圧系(この疾患では圧が80mmHg程度にも上がることがある)で、血流量は体循環と同じ、すなわち「low pressure, high flow」の系であり、この手技に専用の医療機器(先の繊細なガイドワイヤー、静脈用バルーンなど)が必要であると思った。 肺動脈の枝を傷付けたりしてfistulaを形成することがあるが、この場合はpulmonary artery-to-bronchus/alveolar fistulaであり、permanentではなくてtemporary occlusionが望ましいのでgelfoamを使用しているということであった。

iii)成人と小児
 慢性肺高血圧症は、成人と小児は分けて考える必要がある。
 成人の場合は慢性肺血栓塞栓症であり、急性肺血栓塞栓症を経て慢性となるが、岡山では急性肺血栓塞栓症のカテーテル治療は施行したことがないということだ。日本では急性肺血栓塞栓症はsystemic I.V. Urokinaseで治療されていて成績良好ということで、この領域のcatheter-directed thrombolysisがhot topicとなっている米国の実情とは随分隔たりがある。
 さらに興味深かったのは、小児の肺高血圧症で、これは成人の慢性肺血栓塞栓症とは全く異なる発症機序で、気管支の先天的な低形成があるため段階的治療で少しずつ血流を増加させてやり、気管支の成長を待ちながら根気強く治療を続ける、という点がポイントだ。気管支攣縮を起こしやすいという特徴があるが、NTG(ニトログリセリン)が著効するらしい。両肺にびまん性に病変が認められるため、最終手段は肺移植しかないが、ほとんどの患者は肺以外の臓器にも先天的な異常があることが多く、移植の適応とはならないことが多い。そういう意味でも、staged interventionで根気よく丁寧に治療する意義は計り知れないほど大きいものだと思う。成人用の、それも脚などのデバイスの流用ではなく、専用のデバイスの開発が待たれるところだが、採算が合わないという理由で国内のメーカーは相手にしてくれないそうだ。日本のメーカーは、相変わらずlow risk, high returnと考え、後発医療機器だけ出して新しいことには手を出さない、という「頭の良い」選択をしているようだ。

続きは「RadFan」12月号(2013年11月末日発売)にてご高覧ください。