第43回日本IVR学会報告~IVRの聖地、奈良での素晴らしい3日間に感謝~

2014.06.12

第43回日本IVR学会報告
~IVRの聖地、奈良での素晴らしい3日間に感謝~

IVRコンサルタンツ
林 信成

 平成26年6月5日から7日まで、なら100年会館およびホテル日航奈良で開催された第43回日本IVR学会総会に参加した。学会場はJR奈良駅に隣接した便利な場所で、2つの会場の間は急げば5分以内である。蒸し暑い中でこの間をはしごするのは正直ちょっと辛いと思うこともあったが、それでも聞きたいセッションや演題が多く、良い運動と割りきって毎日3往復くらいしていた。今回は不幸にも肝癌研究会と日程が重なっていたので、京都と奈良を毎日のように往復された方も多数おられたようだ。日程調整はいつも難しい。ただ放射線科IVR医は他科医が主導権を握っている学会・研究会にこそ頑張って参加すべきと考えているので、奈良と京都なのでまだ良かったのかもしれない。両学会をはしごして頑張られた方たちには最大限の敬意を表したい。
 メイン会場がすごく大きかったので、参加者は少なめかと案じていたが、最終日に尋ねたら1600人を超えたとのことであった。大成功に一安心である。日医放と同様、スライドはすべて英語になっており、早口な先生の場合は少しついていくのが難しいが、国際化へ向かうためには仕方ないだろう。文句を言ってたらますます日本はアジアでも後進国になってしまう。スライドに多少のスペルミスがあるのは許容範囲と思うが、たまに全く意味不明な英文があってクラクラすることがあった。発表者は皆さん、難関の入試や国試を通ってきたのだから、もうちょっと頑張ってくれればと思う。
 ビデオでの症例提示をもとに討論するセッションやライブがいくつも組まれたし、会場に押しボタン型回答装置(アンサーパッド)が配られたインタラクティブなセッションも多く、意外な結果に驚かされることもあった。このような聴衆参加型のセッションは、特に人前での発言をためらう人が少なくない日本では貴重である。またメインの会場では講演の時間経過がデジタルで表示されていた。このためか、今回は与えられた時間を大幅に超過する講演が少なく、したがってシンポジウムでも討論の時間がかなりとれていた。最近は時間を守らない演者が多くて討論時間がなくなってしまうセッションが我慢ならないほど増えているので、とても良かった。是非ともこのまま続けて欲しい。
 今回は、さすが奈良医大主催と思わせる盛りだくさんな内容で、興味深いセッションが多数平行して走り、直前までどちらに行こうか迷うことも多かった。前述のように2つの建物に分かれているので、普段以上に決断が難しかった。個人的に聴講できて興味深かったセッションを中心に報告するが、能力不足は否めないので、いつもながら勘違いや聞き間違いがあれば、是非お知らせください。

肝細胞癌
 初日の朝にスポンサードシンポジウムがあった。日医放の時と似たようなメンバー構成だが、相変わらず彼らの講演は聞いていて楽しい。日本でもビーズが使用される症例が急増していて、会場のアンケートでも、すでに約半数が使用を経験していた。まだ多くの施設は従来型TACE不応例を中心に試行錯誤的に使っているようだが、すでに30症例以上経験している施設も5%くらい見られた。
 症例を提示して、これに対する治療の適切性を話し合われたのは楽しかった。前区域に複数の腫瘍がある症例では、栄養枝を1本ずつ選択してTACEされていたが、会場でのアンケートで4分の1弱が「前区域の根元で詰める」と回答したのには少し驚いた。司会の松井先生が「マイクロカテーテルを使わない先生がいるんでしょうか?」と不思議なコメントをされたほどである。宮山先生は複数の腫瘍のうちの1つについて、「さらにその2本の栄養枝を1本ずつ別に詰める」と発言されたし、山角先生は「RFAを併用する」と発言された。それぞれの治療ポリシーが具体的に見られて愉快だった。横隔膜直下に多発で再発した症例も呈示され、現実にはビーズが用いられていたのだが、残念ながら効き目は悪く、一部の腫瘍に奏功したのみで、その後は増悪したそうである。コメントとして、下横隔膜動脈をまず先行して塞栓することの重要性を、宮山先生が強調されていた。リーズナブルである。
 いわゆるTACE不応例への対応に関する討論も面白かった。ソラフェニブなのか、動注なのか、さらなる方法を変えたTACEなのか、という問いであったが、会場の回答はバラバラで、エビデンスも全くない。私自身は、選択肢の中に「何もしない」を加えて欲しかったと思う。言うまでもなく日本は全体が高齢化しているが、肝細胞癌の患者さんたちもまた高齢化している。老人主体の田舎の病院で患者さんたちをフォローしていると、肝細胞癌を持ったまま無治療で5年以上生存している患者さんがけっこうたくさんいる。外側区域に2センチくらいのがあって他院で綺麗にTACEしてもらい、その数年後に別の場所に再発したけど、もう年だからとやはり経過観察してそのまま2年以上たっている患者さんもいる。高齢者を相手に診療していると、症例さえ選べば、JIVROSGが世界に誇る日韓共同研究の成績に遜色ない生存期間が、「放置」で得られている患者さんも少なくないと感じることがある。講演される先生方は大学病院とかナショナルセンターなので、それだけそもそも患者さんにバイアスがかかっている可能性はあるだろう。
 肝細胞癌の一般演題のセッションも楽しかった。B-TACEについて、CTAとの対比や圧測定の報告があったが、結局のところ結論は何なのか、まだ謎が多くてよくわからない。B-TACEはこの数年で急速に普及し、多くの施設が追随しているのに、不思議なくらいまだ本道の成績がほとんど報告されていない。いまだに試行錯誤的な使われ方なのだろう。血管損傷に関して、「エピルビシンで強いのが多かった」との報告があり、司会の入江先生が、「それは抗癌剤を十分に押し流さないからでしょう」と指摘されていた。昔、SMANCSリピオドールでたくさん経験したのと同じで、腫瘍外の血管の中に抗癌剤が残っていることは、百害あって一利なしであろう。なおB-TACEはUltra-selective TACEの技術的困難性を乗り越える面のある治療法とも言えようが、だからといってバルーンの先端があまりにも近位過ぎるのはいけない。そのような状態でB-TACEが施行されている症例があることに、入江先生は「もう少し先まで進めて欲しい」と懸念する発言をされていた。近位ほど側副血行路は増えるので、当然だろう。
 なお「Aの方がBより優れていたが、両者の間に統計学的な差はなかった」という結果で、「AとBの有効性に差はない」というニュアンスの結論が見られた。これはいくつもの誤解を生む結論である。まず、ランダム化比較試験でもなく、レトロで患者背景もそろわない2群を比較して統計学的な差を論じること自体が誤解を生みやすい。それでも有意差を検討するのは、ランダム化比較試験をはじめとする臨床試験で検証する価値があるかどうかを見極めるためである。確かにいまだに多くの論文はレトロの解析だし、その中で「AよりBの方が効果は高そう」という目安にする価値はある。でも患者背景も揃っていない2群に統計を適応して有意差が無かったからといって、両者の治療効果に差がないという結論は全く導かれない。さらにはランダム化比較試験であっても、両者に有意差がないという結論が出た時、それはその両者が同等だということではない。「どちらかが優位であると証明できなかった」だけで、同等性や非劣性を証明することにはならない。
 ミリプラチンの中期成績の報告もあった。この製剤は、「すぐ抜けてしまう」と評判はあまりかんばしくないが、治療歴のない症例を対象に検討すると、奏効率は約75%で、1年生存率も80%くらいはあるようだ。演者の新槇先生にフロアで聞いたら、「初回例の方が薬剤感受性が高くて壊死に陥りやすく、それでリピオドールがたまりやすいのでは?」とのことであった。確かに過去の報告の対象は再治療例が多く、すでに種々の抗癌剤治療を受けていて難治性になっている例が少なくないので、プラチナ製剤が効かない腫瘍はリピオドールをすぐ排出してしまうのかもしれない。しかしながら、そもそもプラチナ製剤とアントラサイクリン製剤(エピルビシンなど)のどちらが肝細胞癌により有効なのか、どちらを先行させるべきなのかは、ずっと謎である。前述のシンポジウムでも、ほとんどの演者は片方がだめならもう片方を用いているが、その時期や順序にコンセンサスは得られてない。両者の比較をJIVROSGで臨床試験しようと提案されたことはあったが、背景因子の多彩さや種々の企業主導知見が進行中であることなどから、残念ながら実施にまで至らなかった。ちなみに欧米では、最初から一気に両方をごちゃ混ぜにして注入している施設が多い。これは日本のように何度も繰り返して治療できる患者さんの比率が少ないことにも影響されているのだが、いずれせよ、これだけ歴史があってこれほど素朴な疑問だらけの治療法は世界でも稀ではないだろうか。
 肝動脈塞栓療法研究会も充実した内容であった。肝癌研究会と日程が重なったのがものすごく残念だったが、多くの関係者の方が京都と奈良の間をピストン移動されて無事に盛会となったことは喜ばしい。本研究会の前半では、臨床研究部会の報告が続いた。最初はバルセロナ分類Stage Bを細分化する話で、個数は4個まで、大きさは7センチまでが境界となりそうである。Child分類でAかBかというのも、分類に影響するようだが、いずれにせよStage Bへの推奨治療がそれぞれ、局所療法±TACE・TACE・動注あるいは移植になる3群に分かれるようになりそうだとのことであった。まあリーズナブルで良かった。Stage B/Cを対象としたシスプラチン・リピオドール懸濁液動注療法の第II相臨床試験は、35人を対象に完遂された。63%がTACEの既往を有する患者で、mRECISTによる奏効率は57%、生存期間の中央値は8ヶ月だから、対象を考えれば特に凄いことも酷いこともない結果に思う。Stage Cの患者を対象に、ソラフェニブに対するTACEの上乗せ効果を検証するSTAB試験も始まっていて、予定35例で12例が登録済みとのことであった。韓国ではすでに第三相ランダム化比較試験が始まっているようなので、お互いどのような結果が出るか楽しみである。また従来型TACEが不応であった患者を対象としたDCBの臨床試験は、目標症例数18例で開始予定とのことであった。世界におけるソラフェニブのリアルワールドのデータを収集したGIDEONの概要も報告された。詳細はHPなどで確認されたいが、全世界で3371例が登録され、うち日本からは517例であった。日本の症例の特徴は、より早期であること、そのためもあってか生命予後が優れていること、TACEの対象となった例が多いことであった。まさにリアルワールドだろう。その他、転移に対するEmbosphereを用いたBland embolizationや神経内分泌腫瘍肝転移に対する塞栓術のレトロでの試験についても報告があった。
 肝動脈塞栓療法研究会の後半は、「TACEの実際」というテーマで、TACE併用RFA、ビーズ、B-TACE、尾状葉肝細胞癌に対するTACEについて、それぞれ講演があった。CT透視を活用したTACE併用RFAは、すでに報告されているように抜群の成績で、5センチまでなら100%、それ以上でも80%という驚異的なCR率である。外科手術とのランダム化比較試験では、5年生存率66%、10年生存率31%で、外科切除と変わらない成績である。ただいずれの治療でも5~10年の間に残る半数が亡くなるわけだから、背景肝自体の管理がますます重要になるかもしれない。ミリプラチン動注とRFAを併用する第二相試験は32例中25例が登録を完了しているし、大腸癌肝転移を対象にDSMとTACEを併用するDRAM試験も登録を完了して結果を待っている状態のようである。素晴らしいスピードに感服する。
 ビーズに関しては、薬剤を含浸させるとDCBは小さく硬くなること(イオン交換で自由水が出て行く)、一方でHepasphereは大きく柔らかくなること(生食を加えると少し抑えられる)などが、図を示して強調された。なお薬剤の放出時期は塞栓剤によって様々だが、どの時期がより有効なのかは、依然として謎のままである。B-TACEでは発案者である入江先生ご自身でも、使用する薬剤が時期によってかなり変遷してきているようであった。今はまずシスプラチン、ついでミリプラチン、最後にジェル圧入と、初回症例にはアントラサイクリンよりプラチナ系を、しかも2種類先行使用されているようである。前述したように、抗癌剤の使い方は、いつまでたっても解決しきれない謎が多すぎる。以前に提唱されていたバラマキB-TACEに関しては、2回までが限界と感じられているそうである。やはり多発例だと胆管周囲の腫瘍が生き残り、それが3回目以降の治療の際にはBilomaを生じさせるリスク因子となるようである。

産科出血
 ワークショップに参加した。この領域は、緊急でものすごくIVR医が役に立つ領域なのだが、残念ながらそのことをご存じない産科医がまだ少なくないし、近くに有能なIVR医がいない例やIVR医を呼ぶ前に、あるいはIVRをつくしてもDICなどで失う例が稀でない。そして患者さんが若いだけに、不幸な転帰となった場合に訴訟に至る頻度が高いのも特徴である。日本にとって少子化対策は最も大切な案件なのだから、高齢者の医療に投じる莫大な医療費を少しくらい削っても、もう少しスポットライトがあたって良さそうに思う。ワークショップなので内容的にさほど目新しいものはなかったが、聖マリアンナ医科大学では塞栓剤として積極的にNBCAを使用されているのが印象的であった。若い女性の子宮にNBCAを注入するのに抵抗のあるIVR医はまだ多いかもしれないが、AVMをはじめとしてその使用の歴史はかなり長く、その後の妊娠や出産も少なからず報告がある。今回の講演でも、その後の出産例が含まれており、これらは世界でも最も先進的なデータだと思う。臨床試験が組みづらい領域だけに、レトロで良いから多数例の集積が早く文献になってほしいものである。

続きは「RadFan」8月号(2014年7月末日発売)にてご高覧ください。
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