GEST ASIA 2014 報告
~豪華で充実した教育セミナー;討論があればもっと良かった~
IVRコンサルタンツ
林 信成
はじめに
平成26年12月19、20日の2日間、東京コンベンションホールで開催されたGEST ASIA 2014に参加した。当初予定されていた椿山荘に比べると、とても便利な場所にあり、近くにリーズナブルな価格のホテルも多く、よかったと思う。会場は数百人規模の学会にほぼぴったりの大きさだし、新しいおかげか学会場にしては珍しいほどWiFiの速度が早く、とても便利で過ごしやすかった。55,000円の登録費は高いと思われるかもしれないが、国際学会なので仕方なかろう。米国の教育セミナーはどれも10万円以上である。私はIVR学会総会の際に早期登録したので32,000円ですますことができた。
演者の顔ぶれは、たった2日間の会にしては驚くほど豪華であった。欧米における「本当に自分でもやっている」著明なInterventional Radiologistは、大半が参加していたと言っても過言ではないほどである。講演内容は、最先端の情報というよりは教育的なレベルのものが多かったが、これはGESTという教育が主力の学会(シンポジウム)の性格なので、ある程度は仕方なかろう。日本までわざわざ来てくれたアジアの若いIVR医への教育という意味が大きい会なのだから。私の隣の席では2日間ずっと、 タイの若いフェローの人たちが勉強していた。こういう人たちともフランクに交流できる場がもっとあっても良かったかもしれない。
かなり早口の演者もいたが、メインの会場では同時通訳も用意されていたので、英語が苦手な方も助かったのではないだろうか?同時通訳には賛否両論があるかとは思うが、そういう選択肢はあっても良いと、私は思う。もちろん、これを必要としなくなるようにみんなが努力するのが一番良い。
残念だったのは、討論がほとんどなかったことである。GESTのウリの1つであるハンズオンセッションも会場の都合からかなかった。教育講演の羅列なら、将来的にはほとんどがWeb経由で聴講が可能になるだろう。せっかく大物たちが集結しているのに、ちょっともったいなかった。症例検討会で補えるだろうと期待したのだが、何かしら演者同士がみんな仲間という感じで、Controversialなところでも対立を避けている様子があった。これも、この学会を最先端の場所として捉えるのか、アジア全体を見据えた若手の教育の場として捉えるのかというポリシーの違いなのかもしれない。
なお会場内は写真撮影禁止と掲示されていたが、講演中ずっとスライドの写真を片っ端から撮り続けている人たちが多数いた。気持ちはわからないでもないが、ずっとピコピコバシャバシャうるさくて、さすがに鬱陶しかった(音も消していない)。欧米ならすぐに係員が飛んできて注意されるところだが、そこは寛容な日本である。以下に私自身が聴講したセッションの内容を報告する。いつもながら誤りやご意見があればお知らせ下さい。
塞栓剤/塞栓デバイス
最初のセッションは塞栓剤/塞栓デバイス関連の教育講演であった。新しい知見はさほどないのだが、いずれもすべて教育講演としてのレベルが素晴らしく高く、知識の整理に役立った。まず大須賀先生がコイルについて、その種類、アンカリングやバルーン閉塞も含めた使い方、AVPやSpiderなどとの併用、18G針経由の留置、離脱式コイルの基本(フレイミング・充填・仕上げ)、Hydrocoilをはじめとする新世代コイルの紹介、合併症やピットフォールについて解説された。以前からずっと彼の講演はレベルが高いのだけれど、GESTをはじめとする多数の場でさらに完成度が増しているのを感じる。なかなか他の人では言いづらいだろうから失礼ながら書くが、ぶっちゃけ松井先生や荒井先生にしても、GESTという場をはじめとして多くの国際学会で経験を重ね、ずっとそれなりに苦労され、その結果として最近10年で英語力が飛躍的に向上したのが良くわかる。私はその過程をずっと見てきた。今はもう還暦を過ぎた彼らでさえそうなのだから、中堅・若手の人たちが英語に対して抵抗感を持つなど罰が当たるというものである。
ついで山門先生がゼラチンスポンジについて講演された。塞栓のメカニズム、期間、適応(TACE・術前処置・止血)、子宮筋腫や脾機能亢進症の治療、合併症(虚血や過敏症)などについて、わかりやすく解説し、スポンゼルを切る様子をビデオで呈示された。これは症例が脾動脈塞栓術だったので、細片も大きめであり、これなら他国の人たちもやってみようかと思ったのではないだろうか?日本はジェルパートがあって、実は世界で最も恵まれているのかもしれない。
PVAについては、UAEで有名なDr.Spiesが講演された。一番印象に残ったのは、「PVAはmisnomer(不適切な名称)だ」と述べたことである。なるほどPolyvinyl Alchoholなのだから、PVAはおかしい。全く同じことがIVRにも言えるのである。Interventional RadiologyをIVRと呼ぶのは日本だけで、世界標準はIRである。保険その他、難しい問題は多数あるのだが、そろそろ日本もIVRという名前を捨てることを考えるべきかもしれない。PVAに馴染みが薄いのも、日本の特異性かもしれない。血管にくっつき、血栓化や二次炎症を生じる。溶けはしないが、血管は再開通する。つまりゼラチンスポンジとけっこう似ているのである。子宮筋腫の治療に関して、Embosphereと比較したいくつかのランダム化試験の報告があるが、有効性や痛みに有意差はなく、劣る点はマイクロカテーテルがつまりやすいことくらいで、コストは3分の1である。
Microsphere(ビーズ)全般についてはDr.Golzarianが講演された。サイズが均質で圧縮性があるため、カテーテルがつまりにくく、注入がしやすく、塞栓の程度をコントロールしやすい。ただどれだけ圧縮されて小さくなるか、そして注入された場所でどれだけ大きさを回復するかは、製剤によってかなり異なる。炎症の程度にも差がある。問題は、それらが臨床的有効性にどのように相関するかがわかっていないことで、今までに明らかになったのは、初期のContour SEが子宮筋腫にあまり効かなかったことくらいである。動物実験の結果と臨床は異なるし、炎症は生じない方がよいのか、ある程度生じた方がよいのかもよくわからない。コストの問題もあれば、演者たちの利益相反もあるだろう。薬剤溶出性ビーズについても概説され、薬剤を吸収することで大きさや硬さが変わること、その変化が製剤によってかなり異なること、ビーズを壊さないように留意すべきことやフリーフローで注入すべきことなどを述べた後、「とにかく希釈が重要」と強調された。
リピオドールについては松井先生が講演された。動注のみでは塞栓効果は低いこと、選択的に注入してゼラチンスポンジを追加することで壊死が生じること、胆管周囲動脈叢から孤立動脈や被膜動脈などの側副血行路、類洞や門脈が満たされて閉塞すること、これによりコロナ濃染する腫瘍周囲のドレナージ領域の娘結節への治療効果が期待できることなど、日本のIVR医ならほとんどが何度も繰り返して教えられてきた内容である。個人的な感傷で申し訳ないが、30年近く前に福井に移り、その研究や成果が得られていく過程、それを成し遂げるまでの途方もない努力や時間をずっと身近に感じてきただけに、何度繰り返し聞いても、そのたびに嬉しい。
液体塞栓剤についてはDr.Razaviが講演された。同じNBCAといっても製品によって性状が異なることを、最初に強調された。そもそもNBCAが薬事承認されていない日本ではピンと来ないが、CIRSEなどに行くと数種類市販されているのがわかる。Onyxや最近市販されたPHILの初期経験も少し話された。ついで様々な硬化剤(エタノール、ポリドカノール、テトラサイクリンなど)の紹介や泡状での使用法、各種適応疾患(動脈瘤や偽動脈瘤、血管奇形、出血、エンドリーク、骨盤うっ血症候群など)について話された。硬化剤以外の液体塞栓剤では迅速で完全な塞栓がえられるが、有効性と合併症リスクを天秤にかけなければならないこと、明瞭なLearning Curveがあることを強調された。まさにその通りである。
プラグについてはDr.Szeが歴史的背景を含めて解説された。CTでアーチファクトが少ないのは、AVPの隠れた利点かもしれない。適応として血流改変、外傷、術前処置、シャントや血管奇形などに加え、BRTOも含められたのが印象的であった。今や欧米では、BRTOの最後にプラグを置くのが主流なのかもしれない。最後にMicrovascular Plug(電気離脱式)、Medusa(盛ったNesterみたい)、EOS(コンドーム形状)といった最新の製品についても簡単に紹介された。
カバードステントとFlow DiverterについてはDr.Sapovalが講演された。Wallgraft、Fluency、Viabahnといった自己拡張型、バルーン拡張型であるAtriumについて紹介し、適応疾患について述べ、CardiatisやPipelineなどのFlow Diverterにも触れられた。Flow Diverterというのは、今までにも何度か報告してきたが、メッシュの密なステントである。臨床の蓄積はほとんどがNeuroの領域なので、末梢動脈におけるエビデンスはまだほとんどない。期待はしているのだが、なかなかうまくいかないようである。
肝細胞癌
最初にDr.Parkが解剖について、破格や側副血行路を含めてわかりやすく解説された。ついで従来型TACEについてDr.Chungが講演されたが、ソウル大学病院では2010年に年間585例のTACEが施行されたそうである。31%が進行癌で、小さい腫瘤に対しては今もPEITがかなり施行されているようである。小さいと切除、複数だとTACE、できるだけ選択的塞栓など、リアルワールドは日本における現状とかなり類似している。切除とRFAとTACEで成績に大差はなく、併用も行われている。
次いで宮山先生が「TACEの限界」というテーマで話された。リピオドールによる肝障害、ゼラチンスポンジによる血管障害、腫瘍の大きさや組織型による予後の違いなどを解説され、進行した大きな腫瘍に対しても、可能な限り超選択的な塞栓を行うことの重要性を強調された。わかっていてもなかなかできないし、残念ながらレベルの高いエビデンスがないのも事実である。欧米でRadioembolizationに流れてしまうのは、仕方のないことかもしれない。
薬剤溶出性ビーズを用いたTACEについてはDr.Denysが講演された。EUでは36.1%、米国では39.7%がDCBを使用しているようであるが、100-300μmのDCBでは薬剤の約半分が腫瘍外にあり、薬剤の効果はビーズの周囲わずか1.2mmにとどまるとのことであった。Precision Vの成績に対し、「一次エンドポイントで有意差が無かったのだからダメ」と明確に述べられたのが気持ちよかった。ギリシャからもイタリアからも、DEB-TACEは従来型TACEに比べて優位性がないことが、すでに報告されている。高い材料なのだから、どのような疾患が適応となるのか、もう一度落ち着いて考え直す必要があろう。
RadioembolizationについてはDr.Szeが講演された。本製剤は1992年にFDAが認可し、2002年にCEマークが取得され、最近はMedicareの償還もあるようだ。しかしエビデンスレベルはIIが最高で、Iはまだ1つもない。ただ現在6本のランダム化比較試験が進行中なので、ひょっとするとどれかで何らかのIが出るかもしれない。Retrospectiveな検討でも、従来型TACEやSorafenibと差がないとする報告が多い一方で、1症例につき数百万円というべらぼうなコストである。スタンフォード大学では、TACEが2回失敗した例、TACE後の急性増悪例、巨大例や大血管浸潤例、ダウンステージ目的症例などが適応とのことで、これはリーズナブルな範囲であろう。
EBMについては荒井先生が講演され、多くの臨床的疑問それぞれについて、現在のエビデンスレベルを明快に示された。例えば、TACEの生命予後への寄与はレベルIaで証明されているが、抗癌剤の使用についてはレベルIbで差がみられていない。TACEに分子標的薬を加えることの有効性もレベルIaで否定されている。DEBによるTACEの従来型TACEに対する優位性もレベルIbで証明されなかった。それ以外のエビデンスはほぼすべてがIIかIIIであり、JIVROSGによるKorea-Japanの多施設共同prospective試験のIIaが光っている。
肝細胞癌に関しては、2日目にゲルベ社のスポンサードシンポジウムもあった。松井先生が肝臓の微小循環について再度基調講演をされた後、Dr.Pellerinがフランスから、Dr.Kaufmanが米国から、宮山先生が日本から、それぞれの現況について述べられた。フランスでは100,000人中11.5人ぐらいの発症がみられ、90%が肝硬変を合併しており、その大半がアルコール性であるが、近年ではC型肝炎例が増えているとのことであった。米国でも近年はC型肝炎をベースとする症例が増えてきている。いずれの国も、日本より10~15年くらい遅れてピークが訪れているのだろう。米国では、移植待機例をミラノ基準内に維持する目的や肝切除の術前処置としてTACEが行われている例が少なくない。多発例には従来型TACEやRadioembolization、大型例や脈管浸潤例にはRadioembolizationや薬剤溶出性ビーズによるTACEが行われているそうだが、初回例だけは一泊入院させるものの、その後はすべて外来で治療されている。「塞栓剤は稀にしか使わない」と言われていたのが少し驚きであった。それならLp-TACEというよりはTAIに毛が生えた程度であろうが、かなり待ってしつこく注入はしているようである。宮山先生はいつもの超選択的TACEに加え、側副血行路への対応、門脈腫瘍栓(適応はビリルビン値3.0mg/dl以下)やAPシャントの症例への対応(まずゼラチンスポンジでシャント閉塞)、胆管腫瘍栓の症例などを取り上げられた。引き続いて症例検討会が行われ、宮山先生が3症例を呈示された。巨大肝細胞癌の症例、残肝再発の症例、尾状葉などの多発症例で、いずれも通常の施設では従来型TACEによる根治が困難と思われる症例であった。米国や韓国では、当然のようにRadioembolizationが第一選択となっているようである。全身化学療法やRFAとの併用も選択肢として議論されていたが、宮山先生は3例いずれも、徹底した分割超選択的TACEで治療されていた。ある意味愉快ではあるが、日本でも宮山先生のようなTACEを行える施設は多くない。Radioembolizationが選択肢に入れられないという日本の弱みが浮き彫りになったような気もする。ただ個人的には、あれだけ高価な治療が保険適応になってしまってよいのかという思いがある。そんなことを言うと、分子標的薬の多くに同じことが言えるのだが。
2日目のランチョンセミナーでは、Dr.Johnsonが薬剤溶出性ビーズと従来型ビーズの優劣について、「Confusing」と表現された。まさにその通りで、同じ7本(患者数700人)の論文を対象としたメタ分析の論文が2本あり、その2つが全く相反する結論を述べている。統計学というのは私たち素人にとって、いつまでも謎である。ただ有効性を巡ってこのような混乱が生じる大きな原因の2つは、やはり対象患者の層別化が不十分であること、従来型TACEがきちんと定義されていないことであろう。Sunitinibなど新たな薬剤を含有させたビーズの開発や小さなビーズ、放射線非透過性のビーズについても少し触れられたが、きちんとした臨床成績はまだ出ていない。そういう状況だから、欧米では多くを占める進行例の治療は、全体としてRadioembolizationに流れていってるような印象があった。
討論症例は、日本と韓国から多数提示された。胆管周囲動脈から栄養される多発性肝細胞癌、早期濃染に乏しい肝細胞癌、腹腔動脈狭窄を有する患者に生じた肝細胞癌、腎下部大動脈閉塞を有する患者に生じた肝細胞癌、横隔膜播種や下大静脈浸潤をきたした肝細胞癌、造影剤のプーリングが内部に多数見られた肝細胞癌などであるが、討論の盛り上がりがイマイチだったように思う。英語の問題が大きいのだが、やはり指定討論者を並べておく必要があったのかもしれない。
Tumor Board
これは腫瘍症例における症例検討会のようなものである。1例目は韓国からの最大短径5.6cmの単発肝細胞癌の症例で、「可能なら第一選択は外科手術」という点では概ねコンセンサスが得られていた。しかしながら手術は不能ということで、Radioembolizationが予定されたが、シャント率が30%あったためにTACEが選択された。5年後の現在も再発はないとのことであった。すかさずDr.Haskalが「こんな例は特別じゃない?」と発言し、Dr.Johnsonは「それほど特別ではない」と応じていた。まあそんなもので、ちょっとうまくいきすぎだけど、稀と言うほどでもない程度だろう。
2例目は米国から、十二指腸癌の肝転移であった。荒井先生は、まず全身化学療法で様子をみるべきという意見であったが、左葉へのRadioembolizationと右葉の腫瘍へのアブレーションが施行されていた。これも結果オーライのような症例である。
3例目も米国からで、アルコール性肝硬変に両葉多発性の肝細胞癌が合併した症例である。Radioembolizationが予定されたもののシャント率が22%あったため、薬剤溶出性ビーズによるTACEが施行され、CRとなった例である。この例こそ「こんなの特別では?」という感想であった。よほど薬剤感受性が高かったのだろう。
4例目は日本からで、多発性肝細胞癌の破裂例であった。型どおり抗癌剤なしのTAEがまず施行され、2ヶ月後にTACE、5ヶ月後に内胸骨動脈からの再TACE、3年3ヶ月後にRFAおよびTACEが施行されていた。
振り返ってみれば結局、想定以上にうまくいった症例ばかりが揃ってしまったようで、ちょっとリアルワールドとの乖離が感じられた。
肝転移
最初にDr.Kaufmanが総論を述べられた。まず外科手術・全身化学療法・局所アブレーションそれぞれの利点と欠点について、引き続いて塞栓療法について、わかりやすい解説があった。TACEに関してはランダム化比較試験が存在せず、系統的レビューで生存期間中央値14.3ヶ月という報告があるものの、もちろん推奨される治療法とはなっていない。
ついでDr.Denysがイリノテカン溶出性ビーズについて講演された。この製剤はアドリアマイシン溶出性ビーズに比べて薬剤の溶出が速く、DEBIRIでの半減期はたった7分である(Hepasphereではさらに短い)。小規模なランダム化比較試験の報告があるのみで、有効性はきちんと証明されていない。このためにオキサリプラチンをはじめ、新たな別の薬剤を含有させた治療が模索中である。
RadioembolizationについてはDr.Johnsonが講演された。米国では毎年130,000人の新たな大腸癌患者が出現し、50,000人程度が亡くなっているそうである。そのうちの3割程度は肝転移を有している。切除された症例の5年生存率は41.9%と高いが、切除可能なのは20%程度にすぎない。Radioembolizationといってもガラス製剤とレジン製剤の2種類があり、大きさはかなり異なる。無進行期間の中央値は15.4ヶ月、生存期間の中央値は12ヶ月などの報告がある。ただ現在までに、レベルの高いエビデンスは得られていない。
動注化学療法については田中先生が講演された。現在までに施行されたランダム化比較試験はすべて否定的な結果に終わっており、抗癌剤の進歩もあって世界的な普及は見られていない。ただ肝動注併用全身化学療法についてJCOGで臨床試験を行ったところ、奏効率72%、生存期間50ヶ月と良好な成績であった。オキサリプラチンの動注がWFUより良さそうなことやDSMとの併用についても話された。動注化学療法に関しては技術的な側面が奏効率に大きな影響を与えるが、日本では先端固定法や右胃動脈塞栓術が定着している。残念ながらランダム化比較試験はいまだに施行されていないが、ライバルはあくまでもビーズではなく全身化学療法であることを強調されていた。
続いて神経内分泌腫瘍の肝転移について、Chuan先生と山門先生がそれぞれ講演された。ソウル大学病院における88人の患者に対する420例での成績は、生存期間の中央値が39ヶ月であった。日本における多施設レジストリー試験の結果は、13施設から97人(330例)が登録され、リピオドール使用の有無や抗癌剤使用の有無では様々な例が含まれているが、生存期間の中央値は98.8ヶ月、5年生存率は60%ということであった。塞栓術が施行された例の方が動注のみに終わった例より予後が良いのは予想通りで、肝外病変の有無や組織型が予後に相関したのも当然のことと思われる。
アブレーション治療については荒井先生が講演された。肝転移におけるアブレーションの成績は、肝細胞癌ほど良くない。腫瘍マージンをとることが重要なことは良く知られているが、5mmを超えてとれる症例は全体の24.5%程度しかない。Heat sink効果による有効性の減弱を補うために、肝動注やDSMによる一時動脈閉塞、バルーンを用いた肝静脈閉塞などの併用が行われている。全身化学療法や外科手術との併用療法も、もちろん臨床試験も含めて行われている。少し残念だったのは今回の学会を通じて、アブレーションというとRFAとほぼイコールであったことがある。塞栓術の学会だから当然かもしれないが、マイクロウエーブや凍結療法の浸透度が、実力に比してまだまだ低いように思われる。これは企業側のマーケティングの問題なのかもしれないが。
子宮動脈塞栓術
最近あまり新鮮な話題がないと思って国際学会では他のセッションを聴いていたため、久しぶりにまとめて講演を拝聴した。最初にDr.Spiesが現況について話された。手術との比較では19本のランダム化試験の成績が報告されているが、うち3本がREST試験、10本がEMMY試験の成績である。前者は英国で行われた試験で、5年QOL率に両者で有意差は見られていないが、再治療率はUAEの方が多い。後者はオランダで行われたもので、5年後のQOLに有意差は見られていないが、やはり再入院や再治療はUAEで多い。その後の出産についてはチェコで核出術とのランダム化比較試験が行われており、妊娠率・出産率のいずれも核出術が有意に高く、将来的に出産を希望される場合には核出術が第1選択と考えられるとのことであった。つまりUAEは、子宮を温存できるし大半の症例で卵巣機能も保たれるが、妊娠の可能性は減少するし、流産となる例も多い、ということである。
引き続いて曽根先生が、ゼラチンスポンジによるUAEについて講演された。ゼラチンスポンジは米国のレジストリー試験では3%の症例にしか使われていないが、日本の症例は97%がゼラチンスポンジを用いて治療されている。勝盛先生の成績や曽根先生が報告されたJIVROSGの臨床試験の成績が紹介された。
ついでDr.Siskinが腺筋症の治療について述べられた。長期的な有効率は61%、有効期間は40ヶ月程度であるが、筋腫との合併例が少なくなく、筋腫を合併している例に限れば有効率は81.9%に上昇するとのことであった。まあ無理やりの感じがないではないが、本疾患は画期的な薬物治療法がないだけに、有効な選択肢の一つではあろう。
前立腺動脈塞栓術
Dr.Golzarianがまず総論を述べられた。術前検査、適応(手術禁忌、凝固障害、巨大例、手術拒否例、放射線照射後、尿道バルーン留置例など)、解剖について解説した後、患者が高齢であることや栄養動脈が複数であること、直腸や膀胱との共通幹が多いことなど技術的な困難点について触れられた。彼の施設では、尿道バルーンを留置せずにコーンビームCTを必須とし、これによって的確で完全な治療をされているのが印象的であった。Dr.Sapovalは「どのように始めるか」というテーマで話されたが、どの施設でも泌尿器科医の説得には苦労するだろう。子宮摘出術と同様、彼らにとって研修医の教育に必須の手術であり、大切な飯の種なのだから。今回は今までに聞いた講演の中では初めて、「逆行性射精が生じない」ことをとりわけ強調されていた。以前にも書いたと思うが、私は個人的には、これが最も有力な適応だと思う。十分な説明なく経尿道的手術を受けてショックを受けている患者は少なくないようだから。
精索静脈瘤
Dr.Machanが講演された。不妊や鼠蹊部痛に加え、adolescent testicular atrophyというのも適応に加えられていた。恥ずかしながらよく知らない概念だったが、そういうのも適応かもしれない。全例が頸静脈アプローチで行われており、ナッツクラッカー状態の患者はステント治療を行うことなく外科手術にまわしているとのこと、真っ当だと思う。この疾患は平行して走る細かな側副血行路が想定外に多く、コイルと硬化剤が併用されているが、完治しない例も少なくない。最近ではFoamに加えてNBCAも用いられているが、7~10日間くらい痛いとのことである。問題はむしろエビデンスがないことであり、コクランレビューでも外科手術に比べての優位性は証明されていない。最近、「前立腺肥大症の症状を改善させる」との報告があるようだ。骨盤うっ血症候群と同じ理屈だろうが、高いエビデンスで有用性を証明するのは難しそうである。
M&Mセッション
B型解離のリークの治療で片麻痺が生じた例、カルチノイド肝転移の胆道出血例、腎外傷の治療で2本目の腎動脈を見逃しちゃった例、妊娠女性の喀血例、多発性肝転移に対するRadioembolizationで肝不全死した例、腹部大動脈瘤のⅡ型リークを治療後に感染が生じた例、腎動静脈瘻治療の際にコイルが逸脱した例、腎動脈ステンティングの際にガイドワイヤーが(おそらくカテーテル交換時に)穿通して医原性出血を生じた例、胆管拡張を伴う巨大肝細胞癌を薬剤溶出性ビーズで治療してBilomaが生じた例などが紹介された。米国では年間に数万人が医療ミスで死亡すると推定されているそうである。ただ米国では、多額の賠償金は求められても、通常の医療行為で刑事責任を問われることはない(FDAも刑事免責)。安易に書類送検までされてしまうことがある日本からみると、この点だけは羨ましい。Bilomaの症例では複数の演者が、「血管腫で生じた」と反応していた。肝硬変患者に比べて肝動脈が発達していないから当然なのだが、そのことが彼らのレベルでも、まだ十分には理解されていないようである。血管腫の治療症例が少なくないことも驚きの一つであった。ちなみに10月号のCVIRでは「有症状」の血管腫に対するアブレーション治療の報告があったが、その大きさは平均たった7.6cmであった。
出血
最初に清末先生がBRTOについて講演された。CIRSEでのものと内容はほぼ同じである。前回も述べたように、日本でのretrospectiveな症例集積の研究は素晴らしい成績を示しているが、やはりprospectiveな成績でないと、なかなか信じてもらえないだろう。韓国からはプラグを併用するPARTOで12人中2人が死亡している(手技との関連はなし)ということだったから。
下部消化管出血に関してはDr.Parkが講演され、MDCTの有用性を強調された。またNBCAの使用が増えてきているが、安全性について動物実験できちんと検証されている。出血源が同定できない例への対応についてフロアから質問があったが、誘発試験まで行うことはなく、一旦終了して様子を見られているとのことであった。
喀血についてのDr.Pelageの講演も良かった。MDCTの有用性、脊髄動脈や冠動脈との吻合、肺動脈が関与している可能性などについても触れられていた。Thyrocervical trunkからの供血で食道枝と共通幹を有する症例についてのフロアからの質問には「難しいけど、700-900μmの大きめのPVAを使用する」と答えられていた。
ついで曽根先生が産科関連の出血について講演された。産後出血の疫学、緊急出血への対応(大動脈バルーンで止血、ついでTAE、だめなら手術)、塞栓剤(ゼラチンスポンジ、NBCA、コイルそれぞれの適応)、異常胎盤例に対する手術の際の予防的バルーン閉塞(内腸骨動脈か総腸骨動脈かでは少し意見が分かれる)などについても触れられた。技術的成功率は90~100%と高いが、臨床的成功率は72~100%で少しばらつきがある。合併症の頻度は少ないが、内膜炎(Asherman症候群)を生じる例がある、生理は91~100%の症例で保たれ、その後の妊娠率も69~100%と報告されているとのことである。「何よりも大切なことは、そういう治療法があることを産科医全員に知ってもらうことである」と強調されていたが、まったく同感である。また「ガイドラインはくれぐれも、訴訟の可能性を考慮して作成すべきである」ことも述べられた。素晴らしいの一語である。
ついで中島先生が多発外傷について、外傷の基本から解説され、救急医・外科医とのコラボレーションの大切さを何度も強調された。これもその通りだろう。
引き続いてDr.Haskalが脾損傷に対するTAEについて講演された。時間が無くて質問できなかったが、この手技は日本と欧米で大きく異なっており、欧米では最後に脾動脈近位をコイル塞栓するのが標準である。これは直接的な止血というより減圧の意味であり、側副血行路はただちに開くし、脾臓の機能は温存され、膵炎も生じない。ただそれが本当に必要なのか、日本式に徹底して出血部を丁寧に塞栓するのが良いのか、こういうのはランダム化比較試験を行うのが不可能に近くて難しい問題である。どちらも熟練した術者が行えば、技術的成功率も臨床的成功率も高いのだから。
最後は上部消化管出血についてDr.Razaviが講演され、凝固障害や虚血性合併症などについて述べられたが、やはりNBCAの症例が増えているようだ。ここでもまた、「NBCAについては明瞭なLearining Curveがある」ことを強調されていた。
カテーテルその他
最後のセッションも楽しかった。まず荒井先生が、新しく開発されたステアリング可能なマイクロカテーテルの報告をされた。手元のダイヤル操作でカテーテルの先端を自由に曲げられる。外径は2.4-2.9Fで、耐圧は1000Psiまでとのことである。展示場でも一部屋を借り切って、血管模型で有用性を実感できるように展示されていた。
ついで宮山先生が、B-TACEについて講演された。本手技は現場でかなり普及しているし、今回のシンポジウムで受賞に至った演題もある。しかしながらまとまった臨床成績は、開発者である入江先生の初期経験の報告しかまだないし、地方会その他でも驚くほど普及のわりに発表が少ない。宮山先生自身も、どのような症例が対象となるのかまだ試行錯誤のようであった。
石口先生は、先端側をバルーン閉塞して手元側から動注塞栓療法を行えるカテーテルの報告をされた。それほど対象症例は多くないが、どの施設でも確実に一定頻度で役立つ例があるだろう。もう少し全体が細くなって塞栓剤の注入が楽になればなお良いかもしれない。
穴井先生は、手技後の出血に対する止血について講演された。日本では末梢動脈に使えるステントグラフトの選択肢が限られているのが大きな問題だと思う。Flow diverterがこの領域に役に立つのかどうかはまだ不明だが、個人的には期待している。
Dr.Tanは腎臓angiomyolipomaの治療について講演された。本疾患はCTの普及で無症状の段階で見つかる例が増えているが、治療適応についてレベルの高いエビデンスは存在しない。一般に4cmが一つの目安とされているが、それは4cmを超えると約半数が出血などの症状を来たすこと、4cm以下では大半が無症状であることが理由である。山門先生らの報告も紹介され、23人(29病変)を対象にした検討で、出血8例は全例が4cm以上であり、動脈瘤の大きさが5cmを超えていたとのことであった。動脈瘤の大きさ5cmというのも1つの指標かもしれないが、現場ではもう少し小さい動脈瘤も、見つかれば治療されているかもしれない。シンガポール総合病院で4cmを超える患者を平均40ヶ月経過観察したところ、13%が治療を必要とするようになったとのことである。また32人に対する塞栓術の結果は、69%で縮小、13%で不変であり、16%は増大したとのことであった。なお本疾患は、Everolimusの投与で約50%が縮小するとのことであった。やはり薬物治療は強力なライバルである。
Dr.Siskinは減量目的の左胃動脈塞栓術について話された。これについては今までに報告している通りで、臨床成績はわずかに5人、体重の減少は128kgから114kgで、いずれにせよまだまだ肥満であることには違いない。「患者は大満足していた」と述べられていたが、これで満足していてはダメでしょ。
三村先生は多発嚢胞腎に対する治療について講演された。透析患者の約3%が本疾患を有しているとのことで、腫大による不快感や痛み、血尿に苦しんでいる患者は少なくない。過去に金属コイルによる成績が日本から報告されて少しブームになったことがあるが、時間とコストの問題もあってあまり普及していない。北海道大学からは、エタノールを使用して24ヶ月後で32.1%にまで縮小が得られたとの報告がある。最近ではNBCAやビーズの報告も散見される。本治療法についてはJIVROSGでも多施設共同prospective試験が予定されている。また肝嚢胞の治療やネフローゼ症候群の治療(エタノールを用いた機能廃絶)についても、少し触れられた。
最後に田中先生が脾動脈塞栓術について全般的な講演をされたが、私は帰りの電車の都合があって途中で退席した。申し訳ありません。
おわりに
以上、二日間にわたって極めて濃密に、レベルの高い講演がぎっしりつまった素晴らしい学会であった。すごく新しいことは無かったし、討論に乏しかったのは残念だったが、このような会を通じて日本がアジアとさらなる交流を深め、アジア全体のIVRの底上げを図るという点では、大成功でとても良かったと思う。もちろん、日本の若手IVR医の学習や中堅の知識整理にも最適であったろう。頻繁に開かれるものではないだろうが、参加して本当に良かった。荒井先生をはじめ準備された関係者の方々に、深く感謝し、心からの敬意を表したいと思う。広くアジアから世界を見据えて、明日からも頑張りましょう。