第46回日本膵臓学会大会ランチョンセミナー
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第46回日本膵臓学会大会ランチョンセミナー
日時:2015年6月19日
場所:名古屋国際会議場
共催:東芝メディカルシステムズ株式会社
司会
手稲渓仁会病院消化器病センター
真口宏介先生
演者
JA尾道総合病院消化器内科
花田敬士先生
【KEY Sentence】
●膵癌の早期発見に関して膵上皮内癌を短期間で多数拾い上げるために、ERCP、EUSは必須の検査である。
●Ultimax-iのパルス透視は、低線量の低レートであってもERCP手技に十分な高精細画質が得られる。
●X線システムのアンダーチューブ方式と遮蔽を組み合わせることで、術者などスタッフの被ばくを減らすことが可能である。
膵癌が予後の悪いがんであることは良く知られている。早期発見から早期治療につなげていくことは非常に重要である。膵癌のなかでも、膵管内のみにとどまる膵上皮内癌はきわめて早期の状態であり、これをいかに短期間で多数拾い上げるかが、患者の予後を改善する鍵となる。早期診断にはERCPとEUSが欠かせない。ERCPとEUSが早期診断にどのように貢献しているかを、当院の経験とともに紹介する。
膵液細胞診における内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)
膵癌に対する膵液細胞診の有用性については多くの文献がある。Nakaizumiは「上皮内癌8例中4例は分枝膵管に限局しており、唯一の診断法は膵液細胞診である」としている2)。また、Ikedaらは、上皮内癌診断におけるバルーンERPによる分枝膵管の描出と膵液細胞診の有用性について報告している3)。これらのことから、膵管の1本1本を吟味するとともに、複数回の細胞診による正確な診断が必須要素になるものと考える。
当院の、限局的膵管狭窄・尾側膵管拡張20例に対する、内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)下での複数回膵液細胞診を行った報告では、overnightの留置、平均5.3回の細胞診を行い、感度100%、特異度83%、正診率95%という成績であった4)。各種膵疾患に対するENPD下複数回膵液細胞診の有用性については、良好な成績が多数報告されている5、6)。
当院の膵液細胞診における検体採取法と標本作成法は次の通りである。まず、EUSとMRCPを行って、細胞診の適応となる①主膵管の限局的な狭窄(または尾側膵管の拡張)のある症例、②分枝膵管の拡張がみられる症例を拾い上げる。その結果抽出された対象69例に対して83回のENPDを留置している(2007年12月~2014年6月までの期間)。ENPD時には5Frのα型カテーテルを、先端が狭窄を越えるように留置し、翌日までに経時的に最大6回、新鮮膵液約2mLを採取。これを氷冷した容器に入れて直ちに細胞診に提出。22%牛血清アルブミン液を1滴加えて混和し、冷却遠心分離機にて1000G、3分間遠心を行う。沈渣を剥離防止コートされたスライドガラスに全量塗抹して湿固定をして、パパニコロウ染色を行う、という流れとなる。
その結果は、対象69例のうち陽性が23例、陰性46例であった(図5)。陽性23例のうち22例ががんであり、Stage0が13例、Stage1が5例、Stage2が2例であった。一方、細胞診では陰性となった46例のうち、画像診断でがんの潜在を強く疑う、あるいは主膵管狭窄が高じて食事のたびに閉塞性の膵炎を起こす、といった理由で手術を希望した方が3例あり、手術の結果はStage0が2例、Stage1が1例であった。当院では現在も継続して評価を続けているが、2007年12月~2014年6月までの期間における正診率は94%、感度88%、特異度97%という成績であった。留置後の合併症としては、アミラーゼが正常値の3倍以上上昇した例が10%(7/69)、留置後に腹痛のために抜去した例が7%(5/69)みられた。腹痛は、膵管自体が細いことに由来するものと思われるため、早めに膵液を採取してから抜去している。全例とも保存的に軽快している。
ここまでの検討で発見した膵上皮内癌は16例であった。臨床像の内訳を図6に示す。男性9例、女性7例。契機になったのは主膵管拡張が10例、主膵管拡張と嚢胞を併発しているのが5例であった。部位は膵体部が最も多く(11例)、局在は主膵管と分枝にまたがっている例が最も多かった(10例)。細胞所見からは、PanIN-1B、PanIN-2と比べると膵上皮内癌では核の細胞の不規則・重積配列がみられ、核の大小不同も多くみられる。また、クロマチンの異常も膵上皮内癌に特に多くみられる所見である。これらの特長を押さえることで、細胞診で膵上皮内癌を確実に診断することができる。
<文献>
1) 日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会(編):科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2013.金原出版,東京,2013
2) Nakaizumi A et al: Effectiveness of the cytologic examination of pure pancreatic juice in the diagnosis of early neoplasia of the pancreas. Cancer 76(5):750-757, 1995
3) Ikeda S et al: Diagnosis of small pancreatic cancer by endoscopic balloon-catheter spot pancreatography: an analysis of 29 patients,Pancreas 38(4):e102-113, 2009
4) Iiboshi T et al: Value of cytodiagnosis using endoscopic nasopancreatic drainage for early diagnosis of pancreatic cancer: establishing a new method for the early detection of pancreatic carcinoma in situ. Pancreas 41(4):523-529,2012
5) 木村公一ほか: ENPDチューブ留置での連続膵液採取による細胞診の小膵癌診断への有用性の検討.日本消化器病学会雑誌 108(6):928-936, 2011
6) Mikata R et al: Clinical usefulness of repeated pancreatic juice cytology via endoscopic naso-pancreatic drainage tube in patients with pancreatic cancer. J Gastroenterol 48(7):866-873,2013
(本記事は、RadFan2015年9月号からの転載です)