IVRコンサルタンツ 林 信成
平成23年7月9日に、コンファランスセンター品川にて開催された第6回日本IVR学会関東地方会に参加した。当日は梅雨が明けて猛暑が戻り始めたが、暑さはまだ許容範囲内だった。この会場では以前に、あまりの寒さにずっと震えていたことがあるので、老体の私にとって28℃(おそらく)というのはベストに近い設定である。そして会場は200人以上の参加者で満員に近かった。
関東地方会は年に一度なので、比較的凝った演題が多いように思うのだが、やはり総会疲れだろうか、リザーバー研究会と重なったからだろうか? 一般演題の数こそ43題と多かったが、そのほとんどは症例報告である。逆に症例報告が多すぎて、付加する企画に苦労されたようである。最近は総会があまりにも盛りだくさんで、ゆっくり症例報告やポスター展示を見ている暇がないので、これだけ多くの症例報告をまとめて聞けるのにはそれなりの意味があった。分野もPTA・ステント、門脈、非血管、出血など多岐にわたっており、最近の関西と比べても多彩に感じるほどである。報告の内容は、「よく頑張った」「上手い、見事」という症例がかなりあったのも確かだが、すぐにでも全国の皆さんに伝えたいと思うほどの報告は、残念ながら少なかった。ありふれた珍しくない報告も少なからずあった。正直、あまりワクワクしないままに過ぎていった。
ランチョンセミナーは保険診療に関する話だった。前半は水沼先生が、その仕組みについて話された。長い間ものすごく苦労されてきたことがよくわかるし、彼がいたからこそ、放射線科もその主張をきちんと伝えられる道筋が強化された。ただ講演内容は初心者向けで、特に目新しいものは無かった。いずれにせよ、政権がこのような異常状態では、保険診療の未来を描くのは困難だろう。後半は保険診療における審査の話だったが、これも「保険医登録票がどこにあるか知ってる? 何色?」といった初心者向けの話で、「保険医なのだから法令を遵守しなければならない」という教科書通りの説明であった。ただ、指摘されたように、「喧嘩は保険診療の対象とはならない」というのは、厳守していない現場が多いのではないかと思う。
症例報告の中で、伝えておいた方が良いかと思った情報は、Zenith Flexで屈曲部の外側にIV型リークが生じやすい(多くは保存的に消失する)こと、グローションカテーテルでスタイレットが体内に残る事故が25万例中16例ほど発生しているらしいこと、くらいだろうか?
ミリプラチンの初期成績の報告があった。比較的良い成績だったが、会場から反論も出た。すぐに抜ける症例が少なくないのは確かのようで、使うのを止めた施設がかなりある。以前にアイエーコールのような別のプラチナ製剤を使ったことがある症例では、もちろん奏効率が低い。どのような症例にどのように使うのがよいのか、標準化への道はまだ少し先のようである。
転落多発外傷の症例に関する討論が、今回の地方会のなかで、個人的には一番興味深かった。この症例は、まず骨盤骨折の塞栓を行い、次いで全身CTをしてさらなる出血部位を検討し、引き続いて再度出血部の塞栓に移っていた。これに対して、「まず全身CTを最初に行うべきではないか」との意見がフロアから噴出したのである。多くの放射線科医はそう思うかもしれない。しかし、メチャクチャの外傷の現場では、いかにCTがすぐ撮像できる体制にあっても、10分程度は時間をロスしてしまうことは確かだし、CT台の上で心肺停止になるリスクもある。「初期処置の一部として」骨盤のTAEを決断された救急医・IVR医の判断が正しかったように思う。もちろん、こちらも10分で終わるし、胸部など他の致命的な部分がコントロールされているからであるが。要は、ハイレベルな救急医とハイレベルな救急IVR医が密接にコラボしていることが大切であり、一般にIVR医は救急側のガイドラインに従うべきだと思う。IVRのこともかなり考慮した上で決められたガイドラインなのだから。
副腎静脈採血の際、腹部を用手的に押さえると、カテーテルの呼吸移動が減り、カテ先が外れづらくなる、という発表があった。参考になる工夫だが、手指が透視野に入らぬように十分注意する必要がある。それから以前にも書いたが、このような診断目的の血管造影は、あまりにもコストパフォーマンスが低いし、少なくとも私にとっては楽しくない(友人で、大好きな人はいるが)。このような病態は、画像だけで診断できるような時代に早くなって欲しいと思う。核医学の皆さん、どうかよろしくお願いします。
最後は「言いたい放題Appendix」であった。帰りかけたら呼び止められて発言を求められ、ちょっと困った。とにかく暗い発言が多かったのが残念だったし、放射線科医と血管外科医が寄ってたかって唯一人の循環器内科医を隠蔽体質と責めていたのも、ちょっと後味が悪かった。ただ私も、循環器内科医が「Our Patients」と言ったことにだけはカチンと来ていた。日本でも米国でも、テレビドラマで頻繁に、「俺の患者に何をするんだ!」というシーンが出てきて、不愉快に思う。言うまでもなく、患者は特定医師の所有物ではない。ただ若い放射線科医の方々には、もっと前向きになって欲しい、グローバルな視点を持って欲しい、外へ武者修行に出て欲しいと思う。
何はともあれ、前回の関西同様、イマイチ盛り上がりを欠く地方会だった。来年は総会の開催時期が5月末なので、総会からの期間は、やはり1ヶ月ちょっとしかない。暑い中を東京まで行く気になるかどうか、正直自信がありません。来いと言われているわけでもないし、もう来なくても良いと言われそうですが。