公益財団法人中谷医工計測技術振興財団は1月25日(金)、新たに設置した長期大型研究助成の対象に、田中 求氏(ハイデルベルク大学物理化学研究所)による研究題目「物理と臨床医学の融合を中核とする新たに国際ハブ拠点の確立」を採択した。
公益財団法人中谷医工計測技術振興財団は、医工計測技術の発展を目的に1984年に設立。これまで卓越した成果が期待でき、実用化が見込まれる研究に対する特別研究助成、独創的な研究に対する開発研究助成や、若手研究者を対象とした奨励研究助成を行ってきた。
今回新たに、国内外の研究人材交流による先進的な研究や既存の枠を超えた融合的な研究により、将来的に新しい技術や学術・応用分野を拓くための基礎を生み出すと同時に、次代を担うグローバルに活躍できる若手研究者の育成を対象とした長期大型研究助成を設置。採択した研究には年間最大6,000万円を最長5年間、最大で総額3億円を助成する。
近代医学の進歩は物理の基礎学理の応用展開なしには語れないと言われている。将来的な医学物理には、「細胞・組織の動態」を数値化し新たな医療を創出することが求められている。しかし数物・生物学の融合拠点は世界的に増加傾向にあるものの、臨床医学との融合を中心にした拠点は存在していない。こうしたことから京都大学は同高等研究院に医学物理・医工計測部門を開設。ヨーロッパのハブであるハイデルベルグ大学をはじめ、国内以外の大学との連携による研究開発、産業界との共同研究・開発などの研究体制を構築する。
具体的な研究計画では、細胞の力学特性や細胞と組織の間に働く力の変化を非破壊的に高スループットで精密計測する。この技術を応用することにより、敗血症誘因毒素や抗敗血症薬が、新生児と成人の赤血球の力学特性にもたらす変化を計測し、細胞の力学特性を指標にして病気の進行を数値化することが可能になる。
また、マラリアに感染した赤血球の力学的特性と胎盤への沈着のメカニズムを細胞接着強度計測から解明することにより、薬や遺伝子欠損が細胞の物性と機能に与える影響を定量化することが可能になる。
研究計画のもう一本の柱は、臨床薬剤や基質変化、遺伝子損傷のもたらす効果を細胞の動的表現型と集団秩序の数理解析で数値化すること。この応用により、角膜再生医療における移植細胞と再生角膜の診断を集団的秩序の数理解析で一元化し、移植後の再生組織の予後診断を早期に行えるソフトを開発する。
また、骨髄性白血病の臨床薬が、造血幹細胞の変形・運動といった動態に与える影響を数値化することで、細胞の「動的表現型」を標的阻害剤の効果・副作用の解明へと活用することが考えられるという。
4月11日(水)には、Anthony Hoハイデルベルグ大学教授、Thomas Holstein同教授、Martin Bastmeyerカースルーエ工科大学教授を招へいして、キックオフシンポジウムを開催する。