キヤノンメディカルシステムズ、国内初のジカウイルスRNA検出試薬Genelyzer KITの製造販売承認取得

2018.07.24

 国立大学法人長崎大学(以下、長崎大学)とキヤノンメディカルシステムズ㈱(以下、キヤノンメディカル)は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、AMED)の新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業において、従来法の3分の1以下の時間(核酸抽出後の検出時間が30分)で検出できる「ジカウイルスRNA検出試薬 Genelyzer KIT」注1を共同開発し、キヤノンメディカルが6月18日付で、体外診断用医薬品の製造販売承認を取得した。ジカウイルス感染症という地球規模での課題について、ブラジルと我が国の研究者の連携協力により成果に結びついたものである。
 Genelyzer KITは、国内初のジカウイルスRNA検出用の体外診断用医薬品であり、研究開発着手から2年間で承認取得となった。これは、AMED、国立感染症研究所のリーダーシップのもと、長崎大学の研究、および厚生労働省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の強力な支援により迅速に遂行された審査などによる、官民一体の成果である。
 今後、国内の検疫施設、病院などに配備されることを目指し、水際での感染症予防対策に貢献することが期待される。
 なお、本共同開発の詳細については7月26日、国立感染症研究所(戸山庁舎)で開催される「The 2nd Brazil-Japan Collaborative Research Workshop on Zika Virus」で報告を予定している。
(詳細はホームページから)

開発の経緯
 平成28年、ブラジルにおけるジカウイルス感染の流行と小頭症との関連性が世界的な脅威となり、WHO(世界保健機関)の国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC:Public Health Emergency of International Concern)宣言が出されていたなか、日本政府はジカ熱に関する関係省庁対策会議を設置した。リオデジャネイロオリンピック開催による流行地域への旅行者増加に伴う輸入感染例の発生に備えるべく、ジカウイルスを含む蚊媒介感染症への対策を強化。その一環として、ギニア共和国へのエボラ出血熱迅速検査キットの供与注2で実績のある長崎大学とキヤノンメディカル(当時、東芝メディカル)が、同年6月にAMED研究事業に参画することとなり、迅速検査法の開発に着手した。
 開発体制は、ブラジルのLaboratory of Immunopathology Keizo Asami(以下、LIKA)注3と日本の研究班による日伯共同研究の枠組み注4で、まず長崎大学が同年7~12月に検査法の基本性能試験をLIKAで実施し、その後、同年12月にLIKAとキヤノンメディカルは臨床性能試験委託契約を締結し、ブラジルでの臨床性能試験を開始した。

 LIKAは、ブラジル国内のネットワークを活用して延べ600を超える検体を収集。検体保有機関に試薬や測定用機器を自ら持ち込み、試験を実施した。一方、ジカウイルスの潜在化により陽性検体収集が難航したため、急遽、国立感染症研究所から検体が分与され、長崎大学にて日本での臨床性能試験を実施した。

 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「国内侵入・流行が危惧される昆虫媒介性ウイルス感染症に対する総合的対策に関する研究」(平成28年度)、「国内侵入・流行発生が危惧される昆虫媒介性ウイルス感染症に対する総合的対策に資する開発研究」(平成29年度~)(研究代表者:林 昌宏 国立感染症研究所)の支援により行われたものだ。ブラジル等中南米におけるジカウイルス感染の流行に対応し、平成28年度調整費により研究の加速を行った。

 長崎大学の安田教授らの研究グループは、キヤノンメディカルの開発チームと13年間にわたり生物剤検知システムや家畜感染症の検査システム、エボラ出血熱、ジカ熱の迅速検査キット等の共同開発を進めてきた。今後も新興感染症の研究分野で基礎・応用研究を進め、研究成果を通じた社会貢献を目指す。

 我が国でも、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、今後一層、海外からの観光客増加が見込まれており、それに伴う感染症侵入リスクに備える必要がある。長崎大学とキヤノンメディカル、AMEDは今後も、官民一体となって蚊媒介感染症や一類感染症注5などの新興・再興感染症に関する研究事業、検出試薬の開発と社会実装を進め、世界の感染症対策に貢献していく。

販売名:
ジカウイルスRNA検出試薬 Genelyzer KIT FGNK-0003A

承認番号:
23000EZX00035000

注1)ジカウイルスRNA検出試薬Genelyzer KIT栄研化学㈱が開発した核酸増幅法であるLoop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP法)を測定原理としたジカウイルスRNAの検出試薬。キヤノンメディカルにおいて初の病原体遺伝子を検出する体外診断用医薬品。

注2)2015年、西アフリカ諸国におけるエボラ出血熱流行に関し、日本国はギニア政府からの要請を受け、エボラ出血熱迅速検査キットを供与。 https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000088.html

注3)Federal University of Pernambuco /Laboratory of Immunopathology Keizo Asami (LIKA)
ブラジルのペルナンブコ連邦大学に属する研究機関。1986年、JICA技術協力プロジェクトの一環で設立された(当時の日本側責任者は慶応大学医学部の浅見敬三教授)。専門分野は、寄生虫学、免疫学など。

注4)ジカウイルスに関する研究協力について、LIKAと国立感染症研究所及び長崎大学の研究参加者間で交わされた協力覚書。ペルナンブコ連邦大学名誉教授で、LIKAとの長年に渡る信頼関係をもつ建野正毅氏(国立国際医療研究センター熱帯医学・マラリア研究部)が覚書署名の立会人(witness)となった。

注5)エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱及びペストの7疾病が規定されている。

●お問い合わせ
キヤノンメディカルシステムズ㈱ 広報室
TEL:0278-26-5100
URL:https://jp.medical.canon

国立大学法人長崎大学 広報戦略本部
TEL:095-819-2007
URL:http://www.nagasaki-u.ac.jp/index.html