治療改善効果や医療費低減効果を検証し、患者のQoLを向上させる医療サービスの実現に貢献
ユタ大学(The University of Utah、President: David W. Pershing)は、株式会社日立製作所(執行役社長兼CEO:東原 敏昭/以下、日立)と共同で開発した「処方薬選択支援システム*1」の前向き臨床評価*2を2019年2月からユタ大学の関連クリニック13施設において開始した。糖尿病患者の大部分を占める2型糖尿病*3の治療方針を決定するにあたり、患者は、処方薬の種類ごとの効能や副作用、費用などを確認して、医師と話し合いながら、自分に合った治療方針を決めることができるようになる。ユタ大学と日立は、本臨床評価を通して、治療改善効果や医療費低減などの経済的効果を検証し、患者のQoLを向上させる医療サービスの実現に貢献していく。
医療機関に蓄積された膨大な医療データを利活用することで、医療の高度化や効率化を図る、ヘルスケアインフォマティクスが注目されている。特に臨床現場で機械学習などの人工知能技術を活用する場合、多種多様な項目のデータを電子カルテからリアルタイムに取得可能な仕組みが必要となる。ユタ大学と日立は、2018年3月に、次世代医療情報通信規格であるHL7® FHIR®*4のRESTful*5 APIに対応したユタ大学の診療判断支援システムOpenCDS*6と、日立の機械学習技術を組み合わせた「処方薬選択支援システム」を開発し、システムの可用性を向上するための研究や過去の症例データを用いた検証を進めてきた。
本システムを実用化するためには、過去データでの検証ではなく、実際の患者に適用した場合の治療効果を評価する前向き臨床評価が必要となる。そこで、臨床現場で使用するため、臨床的知見と機械学習を融合する日立の「Hybrid Learning」*7コンセプトに基づき、糖尿病治療で重要な体重管理によるHbA1c値*8低減効果の予測モデルや患者の病態を細分化する機能、さらに診療ガイドラインに基づく薬剤の組み合わせを選定する機能を追加し、前向き臨床評価を開始した。
本臨床評価では、ユタ大学の関連クリニック13施設において、本システムを2型糖尿病患者の治療方針決定に使用する。システムを使用しない患者の治療効果と比較することで、本システム利用による治療の改善効果や医療費負担の低減効果を検証する。
今回の臨床評価を通じて、ユタ大学と日立は引き続き協力し、患者のQoLを向上させる医療サービスの実現に貢献していく。
*1
患者と医師の共有意思決定をサポートする「糖尿病治療の処方薬選択支援システム」を開発(2018年3月12日)
*2
前向き臨床評価: 被験者に対して医療機器の使用などの介入行為を開始してから新たに生じる事象について調査する研究。過去の事象について調査する後ろ向き研究と区別する。
*3
2型糖尿病: 膵臓からインスリンがほとんどまたは全く分泌されなくなる1型糖尿病とは異なり、インスリン分泌量が低下したりインスリンの作用が小さくなる病態。生活習慣の影響が大きいと考えられている。
*4
HL7® FHIR®: Health Level Seven Fast Health Interoperable Resources: 国際HL7協会が開発している迅速な医療情報相互運用のための次世代の医療 IT 標準仕様
国際HL7®協会はこの医療APIの普及に向け、医療情報の共有を目的とした標準仕様である「FHIR」(迅速な医療情報相互運用のためのリソース:Fast Healthcare Interoperability Resources)の策定を推進していいる。
*5
RESTful: REpresentational State Transfer (REST)と呼ばれる、Webなどの分散型システムにおける複数システム間の連携に適した設計に基づいていること。
*6
OpenCDS: ユタ大学が開発しているオープンソースの診療判断支援システム
*7
「Hybrid Learning」 : 従来知識と機械学習を融合する日立の技術開発コンセプト。
*8
HbA1c(ヘモグロビンA1c)値: 血液内の1~2カ月間の血糖値の平均を反映する検査値。糖尿病治療の代表的な指標であり、低減目標は、年齢や患者の状態を考慮して医師が個別に設定する。
●お問い合わせ先
株式会社日立製作所 研究開発グループ公式WEBサイト
http://www.hitachi.co.jp/recruit/newgraduate/field-navi/rd/