従来3日以上かかっていた採血から薬剤感受性検査までの日数を1日程度に迅速化、敗血症への抗菌薬使用を早期に適正化し、患者の救命と薬剤耐性菌の蔓延防止へ貢献
国立大学法人富山大学大学院医学薬学研究部 仁井見英樹准教授の研究グループと、(株)日立製作所(以下、日立)は、敗血症患者に有効な抗菌薬の迅速選択が可能な新たな技術として、血液培養陽性検体から原因菌以外のATPを消去する簡便な前処理技術、高速なATP発光計測※1技術、および機械学習を用いた感受性判定(=有効な抗菌薬判定)技術を開発。今回、富山大学の患者血液検体と63種類の大腸菌株を使い、新規技術を用いた検査フローを検証。その結果、採血から感受性検査の結果が出るまでに従来は3日以上かかっていたが、本検査法では1日程度に迅速化できることを確認。これにより、敗血症に対し適切な抗菌薬の投与を早期に開始できるため、救命率の向上につながるほか、入院日数や投薬期間の短縮による医療費の抑制、および抗菌薬の乱用による薬剤耐性菌※2の蔓延防止が期待される。
敗血症患者の原因菌に有効な抗菌薬を調べるための従来の検査法は、血液培養、分離培養、感受性検査と3度の培養工程を経るため、採血から感受性結果が出るまでに3日以上かかる。一方、敗血症は重症化しやすく、数時間の治療の遅れが予後や救命率を左右しかねないが、検査結果が出るまでは医師の経験に基づいて抗菌薬が処方されているのが現状である。この結果、治療効果の無い抗菌薬を投与するリスクや、過剰な抗菌薬の投与による新たな耐性菌発生のリスクがあるため、敗血症に対し適切な抗菌薬を早期に選択できるよう、より迅速な薬剤感受性検査の技術が求められている。
そこで富山大学と日立は、有効な抗菌薬を迅速に選択できる新たな技術として、菌の分離培養工程を省略できる前処理技術、高速なATP発光計測を実現する装置、および機械学習を用いた薬剤感受性判定技術を開発した。富山大学では、検査開始直後からのATP消去試薬※3の投入と遠心分離による簡便な前処理で、薬剤感受性検査の妨げとなる血液由来のATPを大幅に低減し、分離培養工程を省略した迅速な薬剤感受性検査を実施可能とした。日立ではATP発光計測技術を用いた新たな薬剤感受性検査法を開発する目的で、多くの抗菌薬に対応する高速なATP発光計測装置を試作。本装置で測定した各抗菌薬に対する細菌のATP発光量の変化を機械学習を用いて判定することで、従来の検査法と同等の精度で迅速な薬剤感受性検査が可能となった。
実際に富山大学にて敗血症患者の血液検体を用いて本検査法を検証すると、血液培養陽性後から6時間という迅速さで薬剤感受性検査結果が得られた。また、日立は63種類の大腸菌株を用いてATP発光計測技術と機械学習による迅速な薬剤感受性検査を行った。その結果、抗菌薬12種類において、従来の薬剤感受性検査と比較して2時間で90%以上、6時間で97.9%が一致することを確認。これらの結果は、採血から薬剤感受性検査の結果が出るまでの日数を従来の3日以上から1日程度に迅速化できることを示している。
今後、富山大学と日立は、人々のQOL(Quality of Life)向上に貢献することを目指し、対象菌種および対象抗菌薬を拡大するとともに、複数施設と連携し、臨床検体を用いて、その有用性の検証を進める。
本研究の成果は、2019年10月2日「ScientificReports」(松井 篤氏、他)に掲載および2019年10月2日~6日に米国ワシントンで開催される「IDWeek 2019」にて発表される予定である。
※1 ATP発光計測:細菌を含むすべての生物のエネルギー源として用いられる化学物質であるアデノシン三リン酸(ATP)を、ホタルの発光酵素であるルシフェラーゼを用いて発光させて、細菌を検出する方法。生きている細菌由来のATPを選択的に発光させることで、細菌の活性を高感度に検出することができる。
※2 薬剤耐性菌:抗菌薬が効かない細菌のことで、近年耐性菌の増加が世界的な課題となっている。国連では耐性菌蔓延防止のためのアクションプランが採択されており、抗菌薬の乱用防止のための使用適正化などが盛り込まれている。
※3 ATP消去試薬:ATPを分解する酵素のことで、細菌外に存在する余分なATPを低減し、生きている菌由来のATPのみを高感度に検出することができる。
■お問い合わせ先
株式会社日立製作所研究開発グループ問い合わせフォーム:https://www8.hitachi.co.jp/inquiry/hqrd/news/jp/form.jsp