肺炎の病変定量化技術で治療効果判定の支援を目指す
富士フイルム(株)は、人工知能(AI)技術を用いた新型コロナウイルス肺炎の診断支援技術の開発を開始した。富士フイルム(株)と京都大学(大学院医学系研究科呼吸器内科学 平井豊博教授)が共同開発した間質性肺炎※1の病変を定量化する技術を応用し、新型コロナウイルス肺炎患者の経過評価や治療効果の判定などをサポートする診断支援技術の開発を目指す。本開発は、新型コロナウイルス肺炎の患者を受け入れている国内の医療機関との共同研究で推進する。まずは神奈川県立循環器呼吸器病センター(神奈川県横浜市)との共同研究をスタートし、今後、共同研究先を複数の国内医療機関に拡大していく予定だ。
新型コロナウイルスの感染拡大は国内外で深刻な問題となっている。現在、医師が行っているさまざまな治療について、その治療が有効であったかどうかの判断基準は未だ明確に示されていない。新型コロナウイルス肺炎は、間質性肺炎と同様の画像所見を示し、病変パターンが多岐にわたるとの専門家の意見がある。肺炎の進行や治療の効果を確認するためには、胸部CT画像から、徐々に変化する病変の性状を目視で確認しなければなりませんが、1患者あたり数百枚にもなるCT画像の読影は専門医でも非常に負担がかかる。
富士フイルム(株)の間質性肺炎の定量化技術は、AI技術を用いて設計したソフトウエアが、CT画像から肺野(はいや)※2内の気管支、血管、正常肺および、網状影やすりガラス影、蜂巣肺(ほうそうはい)※3など肺の7種類の病変性状を識別し、自動で分類・測定することで、間質性肺炎の病変を定量化するものである。さらに、肺野内における病変の分布と進行状態を詳細に確認できるよう、肺野を12の領域※4に分割し、その領域ごとに、病変の容積および割合を表示する。
本技術の開発にあたり、富士フイルム(株)は2018年春から京都大学と共同研究を開始。富士フイルムが開発した間質性肺炎の病変を分類および定量化するAI技術を、京都大学が保有する症例データに適用し、識別性能の評価と改善のフィードバックを繰り返し実施し改良することで、高精度な識別性能を実現した。
今回富士フイルム(株)は、この間質性肺炎の定量化技術を活用し、新型コロナウイルス肺炎患者の経過の評価、治療効果の判定を支援する技術開発をスタートした。今後開発が期待されるさまざまな治療薬の効果判定にも利用できる技術を確立することで、新型コロナウイルス肺炎の治療薬の開発・評価の加速にも貢献できると考えている。
富士フイルム(株)は、医療画像診断支援、医療現場のワークフロー支援、そして医療機器の保守サービスに活用できるAI技術の開発を進め、これらの領域で活用できるAI技術を、“REiLI(レイリ)”というブランド名称で展開している。今後も、医療現場のさまざまなニーズやワークフローに適したソリューションをご提供するため、医師の画像診断支援やワークフローの効率化を目指したソリューション開発をスピーディに進めていく。
※1 肺に炎症や線維化が生じ、肺が硬くなる病気の総称。アスベストなどのじん肺のように原因が判っている間質性肺炎から、原因が不明である特発性間質性肺炎まで多岐に亘る。特発性間質性肺炎の中でも、特発性肺線維症(IPF)が最も多いとされ、IPFの発症率は10万人対2.23人、有病率が10万人対10.0人と推定されている(出典:「北海道study(Natsuizaka M,et al.Am J Respir Crit Care Med.190:773-779,2014)」)。
※2 体の正面から胸部をX線で撮影した際、その左右に黒く写る「肺そのもの」のこと。
※3 ハチの巣のような輪状の陰影が集合したもの。
※4 肺野内を、左右、上中下、内外の計12の領域に分割したもの。
A:CT画像のアキシャル像(体を横に切った像)
B:サジタル像(体を縦に切った像)
C:コロナル像(体を前後に切った像)
D:3D画像それぞれに、病変の識別結果を表示
E:指定した病変がどの領域にどの程度発生しているかをグラフで表示
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