島津テクノリサーチ社、下水とヒトの2階建てPCR検査「京都モデル」の受託事業を開始  下水PCR検査から新型コロナ感染者の発症当日の発見に成功

2021.05.14

島津製作所の受託分析子会社である島津テクノリサーチ(以下STR、京都市)は、5月13日に下水のPCR検査によって対象集団における新型コロナウイルスの感染状況を監視し、陽性反応がある場合にはヒト検査で感染者を特定する検査システム「京都モデル」の受託検査事業を開始した。高齢者施設や学校など教育機関、宿泊施設、保育所といった個別施設に向けてサービスを提供していく予定だ。

新型コロナウイルス感染者の糞便には発症前からウイルスが存在すると考えられている。そのため個別施設のトイレ排水を調べることで、施設利用者を集団として捉えた監視が可能だ。排水の検査は、通常のヒト検査に比べて個々人の負担がなく、集団全体の感染状況を評価できるうえに、定期的なモニタリングの実施が容易である。下水検査とヒトPCR検査からなる2階建ての検査システム「京都モデル」は、クラスター(集団感染)の発生防止に役立ち、建物単位での定期的な検査に適している。下水PCR検査の結果は、原則として採取後の検体がSTRラボに到着した日の翌々日の午前にメールもしくは電話で連絡される。

STRが4月中旬まで約1カ月かけて京都府・京都市の協力のもとに、中等症患者が入院する医療機関および軽症患者が滞在する療養施設で実証実験を行った。その結果、STRが独自で開発した「PoP-CoVサンプラー」(特許申請中)をマンホールに設置し、採取した下水試料から陽性反応を捉えられた。さらに個別施設(111名が利用するオフィスビル)の下水PCR検査から陽性反応を捕捉した追加実験では、後日実施された行政のヒト検査において利用者1名が新型コロナウイルスに感染していたことが判明。下水PCR検査の実施が発症日(陽性確定日の4日前)あるいはその前日¹⁾だったため、「建物単位での下水PCR検査が感染の早期発見に有効」であることを示すことができた。

下水PCR検査は日本水環境学会COVID-19タスクフォース・日本下水道新技術機構による「下水中の新型コロナウイルス遺伝子検出マニュアル」に従って、ポリエチレングリコール沈殿法(PEG沈殿法)で試料を濃縮したうえで、島津製作所製の「新型コロナウイルス検出試薬キット」(研究用試薬)を使用して実施しました。今後、島津テクノリサーチ社は「変異株の検出」や「高感度・ハイスループットな前処理方法」について検討を重ねていくと発表している。

 

島津テクノリサーチ社は、京都市の衛生検査所として登録されており、ヒト唾液を用いたPCR検査事業に取り組んできた。今年2月には下水処理場の下水に含まれる新型コロナウイルスのPCR検査の受託事業を開始(下水調査は衛生検査所での業務ではありません)。同社は京都大学の田中宏明名誉教授、井原賢助教、金沢大学の本多了准教授、富山県立大学の端昭彦講師と「京都モデル」の基礎技術の確立に取り組んできた。

マンホールに設置する島津テクノリサーチ開発の「PoP-CoVサンプラー」

「PoP-CoVサンプラー」をマンホールに設置する島津テクノリサーチ社員

 

サービス概要

PCR検査システム       :京都モデル
下水PCR検査1回当たりの価格  :7万円(税別、別途サンプリング費用として数万円および交通費など諸経費が発生します)

¹⁾PoP-CoVサンプラーは連続24時間マンホールに設置するため、採取期間は2日間に渡る。

下水から陽性反応が出た際には、実施するヒト対象の検査は、施設で提携されている医療機関などに相談をしてください。