MY BOOKMARK No.20 3次元画像解析システムボリュームアナライザーSYNAPSE VINCENT

2021.12.25

山梨大学医学部附属病院放射線部

相川良人 先生

はじめに

 320列 Area detector CTが当院に導入されてから早くも10年がたとうとしている。この間CT画像のThin slice dataの活用に関して、臨床サイドからは、特に手術前のシミュレーションの要望が多く寄せられた。
 以前の3次元画像を作成するワークステーションは、作成者の職人的な技術に結果が委ねられ、作成手技も煩雑で、作成までの時間もかかり夜中までの作業が当たり前であった。この状況を一変させたのが、3次元画像解析システムボリュームアナライザーSYNAPSE VINCENT(富士フイルム株式会社)である。10年前、Version 4xからの付き合いになるが、常に共にあったといっても過言ではない。今回、Version 6.1が導入されより使いやすくなった。私の推しの1台として紹介する。

図1 3次元画像解析システムボリュームアナライザーSYNAPSE VINCENT
サーバークライアント型の3次元画像解析システムであり、外来、手術室、病棟、CT室、読影室、MRI検査室、血管撮影室の読影用端末、電子カルテ端末、専用ワークステーションにより、院内の各部署において3次元画像解析が可能である。

3次元画像解析システムSYNAPSE VINCENT(Version 6.1)

 SYNAPSE VINCENTは、CTやMRIなどの画像から高精度な3次元画像を作成し、さらに作成した画像より臨床にマッチした専用の解析アプリケーションを用いて、画像解析を行う高機能な3次元画像解析システムである。 2008年に心臓・肝臓解析機能を中心としたシステムとしてスタートし、Version upの都度、臨床サイドからの要望に応え、特殊な技術が無くても呼吸器、頭部、泌尿器など、解析アプリケーションを充実させ適応領域を広げてきた。2018年には、膝関節など整形外科領域のアプリケーションも追加され、整形外科領域においても手術前の解析が可能となった。 このようにSYNAPSE VINCENTは、多様化する医療現場のニーズに常に耳を傾け、3次元画像解析の作業者が装置に合わせるのではなく、ユーザーフレンドリーな環境を提供してくれる3次元画像解析システムとして、いろいろな場面で活用されている。
 2020年8月には、今回紹介するSYNAPSE VINCENT Version 6.1がリリースされた。この装置の特徴は、AI技術(ディープラーニング)の技術を搭載したことである。以前から、富士フイルムのディジタルカメラには顔認証の技術が使用されており、この技術がSYNAPSE VINCENTにも応用され、各種3次元画像解析において、複雑な作業を自動で行ってきた。しかし、細かい部分での修正やイレギュラーな幾何学的配置を伴う症例ではこの機能が十分発揮されない場合があり、その場合は解析に時間を要したり、元画像の確認を入念に行ったりする必要があった。この問題を解決するために、富士フイルムが「REiL(I レイリ)」という名称で展開しているAI技術(ディープラーニング)を活用して設計したアプリケーションを搭載しており、新たに追加された特長的な4つの機能を持っている。

1. 鏡視下シミュレータ

 今まで自動での抽出が難しいとされていた膵臓自動抽出機能が追加され、手動で膵臓のマスクを作り、元のマスクから画像演算を繰り返し膵臓、動脈系、門脈、周囲臓器を描出する手技をAI技術にて、セグメンテーションを行う事により高い精度で、短時間に行う事が可能となった。

2. MRIにおける腰椎部の神経抽出機能

 単純MRI画像より腰椎部の脊髄神経の走行をAIにより判断し自動抽出しCT画像とのフュージョンにより腰椎の骨と椎間板、神経の幾何学的関係が把握可能となった。整形外科領域は件数も多く、多様なバリエーションがあるため以前はこの手技も手動で行っていた方法であり自動化により短時間での作成が可能となった。

3. 脳解析ソフトウェア

 脳神経外科領域においてMRI画像から15区域を自動抽出し体積の定量を行う解析が可能となった。以前は手動での部分的な区域抽出を行っていたが、解剖学的に明瞭に区域分割が可能となったので、手術前のシミュレーションや急性期の脳血管疾患におけるIVR前の責任血管と脳区域の関係およびその領域が簡単に把握できるようになった。また、今後は、JRC2021で発表された頭部CT画像から、周辺組織と比較して高信号および低信号領域をAI技術にて判別し、脳内の出血領域や虚血範囲をカラー表示にて強調する手法、脳梗塞における血管内治療(静注血栓溶解法)の適用可否の判断に使用する虚血領域の広がりを定量化するスコア法であるASPECTSの算出をアシストする手法等さらなる発展が期待される。

4. 嚢胞腎セグメンテーション

 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)症例では、これまでCT画像から長さ、幅、厚さ求め、楕円体容積計算法、回転楕円体容積計算法により容積を求めていたが、すべての嚢胞腎は楕円ではなく複雑な形をしているので正確に容積を導き出すのは困難であり、測定者によっても誤差が大きかった。CT横断像( I mm厚/1mm間隔)をトレースし面積を積算する方法は、正確だが時間がかかる方法であった。嚢胞腎セグメンテーションは、簡単に嚢胞腎を自動抽出し容量を測定可能であり、測定者の技量によらないため経時的観察も安心して行うことが可能である。

肝臓解析における装置の進化とワークフローの変化

1. 肝臓解析ワークフロー

• 早期動脈相(肝動脈)、後期動脈相(腫瘍、門脈)、門脈相(肝静脈)を選択し肝臓解析アプリケーションを起動する。
• 非剛体位置合わせにより、各造影位相が連結される。
• 肝臓抽出画面にて、肝臓全体を自動抽出する。
• 周辺臓器抽出画面にて、下大静脈、肝動脈、門脈、肝静脈、胆管、胆嚢、腫瘍を選択し自動抽出する。(自動抽出しない場合は、マウスで方向を示し経路を追加する。)
• 作業工程を保存
• 観察画面にて、外科医と共に切除範囲、残存肝容積の測定を行う。腫瘍の位置や門脈のクランプ予定部位を基に複数のバリエーションの手術シミュレーションを行い保存する。
• 仮想超音波画面では、仮想超音波上で距離計測等を行う。
• 手術シミュレーション画像に必要に応じて、MRI画像、核医学画像(アシアロ糖蛋白受容体シンチグラフィー)をフュージョンする。
 このワークフローはVersion4(10年前)のものである。Version 5になって精度が上がりすべての工程がスペシャリスト(診療放射線技師)の介在なしでも可能となった。
• 診療放射線技師→基本的な読影用3次元画像の作成(脈管系と肝臓実質の横回転、縦回転画像)と最終的な画像が画像サーバーに転送されているかを確認する。
• 医師→サーバー/クライアント型のワークステーションにより、診療放射線技師の作業時間、放射線部門の空いている時間に左右されることなく、医局、外来、病棟、手術室で3次元画像をもとに手術用画像解析が可能となった。

2. 肝臓解析3次元画像作成のPOINT

 肝臓切除術は門脈枝を把握し区域的に切除を進めていくため、門脈枝の抹消までの描出が重要である。門脈枝の支配領域を正確に描出するためには第4分枝以上が必要となる。第4分枝以上は、正確に肝静脈との分別をする必要があるが、門脈と肝静脈の分離は手技的に煩雑で困難である。理由としては、造影された門脈と静脈はCT値も形状も局所的には同じであり区別がつかないためである。
 一般的な3次元画像処理装置では、CT画像から、ある連続したCT値の物体を抽出する際、信号値の連続性を利用したリージョングローイング法が使われている。この方法は、信号値への依存が大きく、抽出した結果に対する編集作業がかなり煩雑になる問題があった。
 SYNAPSE VINCENTではリージョングローイング法に加え、画像認識技術を応用したアルゴリズムを用いている。画像認識技術は、データベース化された情報に基づいて、画像の特徴をアルゴリズムに反映させることで高精度な抽出を実現している。Version 6.1ではさらにAIによる処理を加え描出の正確さ、処理時間の短縮を行っている。
 このアルゴリズムを有効に機能させることが肝臓解析3次元画像作成のPOINTとなる。実際には、撮影時の状況を把握し低管電圧撮影や造影剤注入法の工夫、逐次近似・ディープラーニングを応用した再構成法による画像ノイズの低減等により、末梢門脈、肝静脈の描出を向上させることが重要である。

図2 3次元画像解析技術の進歩
富士フイルムの顔認証の技術が応用され、複雑な3次元画像解析を自動で行ってきた。Version 6.1では、AI技術(ディープラーニング)を活用して設計したアプリケーションを搭載し精度向上と作業時間短縮が行われた。
図3 手術支援画像 肝臓3DCTアシアロシンチフュージョン
肝臓解析により得られた肝臓3DCT画像に核医学検査のアシアロシンチをフュージョンし肝切除時の予備能を推測する。複雑な手術支援画像作成において、臨床現場の声とSYNAPSE VINCENT開発チームとの結びつきにより簡便で正確なアプリケーションが実現した。

おわりに

 15年前は、肝臓手術支援用3次元画像作成に熟練者が6時間程度かかっていたが、VINCENTを導入した10年前に20分程度になり、現在は10分程度で3次元画像作成作業が終了するため、医師は診療放射線技師の作業を待っている必要がなく、手術シミュレーションに時間をかけることが可能となった。手術前のカンファレンス、患者さんへの3次元画像を利用した説明など臨床利用されている。
 今後、タスクシフティングにより診療放射線技師業務も増加することが予想される。SYNAPSE VINCENT Version.6.1でAIが関与し業務の効率化が行われることを実感した。SYNAPSEVINCENTは、いつも臨床現場の「こんなことが簡単に出来るようになったらいいな」に耳を傾け進化してきた。本当に使いやすい製品として取り上げた理由はここにある。