MY BOOKMARK No.21 ルーチン使用から最先端技術を使用した検査まですべてに対応する Aquilion ONE GENESIS Edition

2022.02.07

広島大学病院 診療支援部
木寺信夫

進化したArea Detector CT

 本稿では当院で使用しているキヤノンメディカルシステムズ社製のX線CT装置Aquilion ONE GENESIS Editionの魅力について紹介させて頂く(図1)。Aquilion ONEGENESIS Editionは2007年に登場した320列160mmの検出器を搭載したArea Detector CT(ADCT)であるAquilionONEの後継機となるCT装置である。本装置はX線出力、検出器、画像再構成などをさらに機能アップさせることにより、一層の被ばく低減、画質向上、スループットの向上が図られている。

 本装置はガントリの新たなプラットフォームとしてPUREViSION Opticsと呼ばれる独自の X線光学系技術を搭載している(図2)。X線の出力部では、従来よりも低エネルギー側の成分を低減する等、X線エネルギー分布の最適化が行われている。また、X線の検出部では、極小切断技術と検出器素材の最適化により、従来比で光出力を40%向上、電気ノイズを28%低減させたPUREViSION Detectorを実装している。本装置ではこれらの技術により従来装置と同様の撮影条件の設定を用いても大幅な被ばく線量の低減が可能である。医療被ばくの低減を目指す我々にとって、通常の運用を行うだけで被ばく線量の低減が行える今回のプラットフォームの刷新はAquilion ONE GENESIS Editionの最大級の魅力ではないかと考える。
 また、より幅広いニーズに対応したユーティリティの高い機能が追加されている。寝台は左右動機能を搭載し、左右それぞれに42mm、合計84mmスライドさせることができ、ガントリチルト角は±30°まで可能となっている。救急検査時などの体を動かせない場合のポジショニングや、整形領域撮影などの様々な撮影体位の対応に重宝している。新たな機能であるSUREPositionでは、スキャン計画時に位置決め画像をコンソール上で任意に移動させ、その移動量を装置が認識し、寝台を移動させることができる。従来であれば、再度位置決めを行い位置決め画像を取得するか、目測による寝台移動で調整を行うことにより、検査室内への移動や、位置決め画像と実際の取得画像の位置の違いが発生していたが、SUREPositionを用いることにより、より正確な位置決めを維持しながら、高いスループットで検査を行うことが可能となった。当院ではより高い空間分解能が求められる冠動脈CTA検査、四肢などの整形領域撮影、スキャンFOVを狭めて撮影する頭頚部撮影などで積極的に応用している。

Deep Learningを用いた新たな画像再構成技術
─Advanced intelligent Clear-IQEngine(AiCE)─

 CTの画像再構成方法の技術発展は著しく、2011年には逐次近似応用再構成法(Hybrid-IR)であるAdaptive Iterative Dose Reduction3D(AIDR 3D)、2015年には逐次近似再構成法(MBIR)であるForward projected modelbased Iterative ReconstructionSoluTion(FIRST)が開発され臨床応用が行われている。そして近年、AI技術の一つであるDeep Learningを用いて設計された画像再構成技術Deep Learning Reconstruction(DLR)であるAdvancedintelligent Clear-IQ Engine(AiCE)が開発された。DLRは高品質な教師画像を設定し、「低品質画像」を「高品質画像」に変換するトレーニングを行ったディープコンボリューションニューラルネットワーク(DCNN)を再構成プロセスに用いることで、低線量な条件でも高画質な画像を取得することが可能な画像再構成技術である。従来のMBIRでは低コントラスト分解能に関係する低周波数領域のノイズ成分の低減は困難であり、低コントラスト領域の画質向上効果は十分ではない可能性が報告されているが1)、DLRの画質特性は、特に低線量な条件で画像ノイズや粒状性が改善されており、高い頑健性を有した画像再構成法であることが報告されている2)。また、DLRはDCNNのトレーニング時に複雑なモデルや繰り返し演算の結果を組み込んでいるため、再構成時間はMBIRの1/3~1/5程度であり、十分にルーチン使用に対応可能なワークフローを達成している。
 当院ではさらなる撮影線量の低減を行うため、従来のHybrid-IRを使用した撮影プロトコルから、新たにDLRを用い
た撮影プロトコルを作成し運用を行っている(図3)。体幹部のルーチン1相撮影は主にフォローアップや転移検索などで用いられるプロトコルであるが、CT-AECのSD設定値(5mm slice)を12から15に、再構成をDLRであるAiCE Body Sharpに従来の内容から変更している。また、大動脈3相撮影では単純と平衡相におけるCT-AECのSD設定値を15とし、動脈相ではSD設定値を20としている。動脈相のSD設定値は従来の条件からすると挑戦的な設定値ではあるが、高コントラストな条件でAiCEは高い画質特性を有すること2)、大動脈が比較的大きい構造物であることなどを鑑みた上で放射線科の医師と協議し、上記の撮影条件が決定された。


 DLRプロトコルを用いた運用における撮影線量として、図4に体幹部のルーチン1相撮影(撮影範囲:胸部~骨盤部)について日本の診断参考レベル(DRLs 2020)に準拠した線量データを示す。従来のHybrid-IRプロトコルでは中央値:8.5mGy、75%タイル値:9.0mGyであるのに対し、DLRプロトコルでは中央値:6.3mGy、75%タイル値:6.9mGyとなり、24%の線量低減効果が確認された。また、Aquilion ONE GENESIS Editionは前述したPUREViSION Opticsにより低被ばくの撮影が可能な装置である。当院では第一世代のAquilion ONEも同時に稼働している。Aquilion ONEのHybrid-IRプロトコルでは中央値:11.8mGy、75%タイル値:13.0mGyであり、Aquilion ONE GENESIS Edition
のDLRプロトコルと比較すると47%の線量低減効果が確認された。DRLs 2020における胸部~骨盤1相撮影は16.0mGyという値が示されており、第一世代のAquilion ONEの線量データが過度に高い値ということでなく、Aquilion ONE GENESIS EditionのDLRプロトコルが非常に優れた線量低減効果を有しているものと考える。線量低減を行った場合、画質への影響が懸念されるが、DLRプロトコルではHybrid-IRプロトコル以上のノイズ低減を実現できており、ノイズ低減による画像の質感の変化も小さいものとなっている(図5)。大動脈3相撮影における撮影プロトコルの比較について、動脈相におけるHybrid-IRプロトコルでは中央値:8.5mGy、75%タイル値:9.2mGyであるのに対し、DLRプロトコルでは中央値:3.4mGy、75%タイル値:4.7mGyとなり、同一機種におけるプロトコルの刷新により49%の線量低減効果が確認された。本プロトコルはCT-AECのSD設定値が20であり、やはり画質への影響が懸念されるが、DLRプロトコルでは優れたノイズ低減を実現できており、十分に診断可能な画質を担保できている(図6)。当院では、大動脈3相撮影のDLRプロトコルはあくまで大動脈の観察を対象とした撮影で用いており、末梢血管などを観察する場合では上記のDLRプロトコルでは十分な描出が達成されない可能性があるため、目的に応じた使用が重要であると考える。DLRは他の画像再構成法と比べ、低線量な条件で高い頑健性を有しており、被ばく線量の低減に向けてより広く普及することを期待する。

Deep Learningを用いたDual Energy Technology
─Spectral Imaging System─

 当院のAquilion ONE GENESIS EditionにはSpectral ImagingSystemというDeep Learningを用いた新たなDual Energy CT(DECT)技術が搭載されている(図7)。Spectral Imaging Systemは、独自の撮影技術「Spectral Scan」と再構成技術「SpectralReconstruction」から構成されている。Spectral Scanはスイッチングにより高低2種の管電圧を高速で切り替えての撮影(Rapid kV Switching)および、kV Switching方式でありながらAECとの併用が可能な撮影法となっている。また、ADCTの特徴である1回転で160mmの撮影ができるSpectral Volume Scanと、連続回転して撮影できるSpectral Helical Scanに対応し、体型や部位に応じて適切な撮影モードの選択と線量調整を行うことが可能である。Spectral ReconstructionはProjection baseでDeep Learningを用いて設計された新たな画像再構成法であり、Spectral Scanによって得られたデータに対して、実際に収集したFull viewデータを教師データに用いてSparse領域をDCNNにより復元することで、高いノイズ/アーチファクト低減効果を得ることができる。Spectral Imaging Systemはこれら
の技術により、高精度なMulti Energyデータ収集をより最適な条件で行うことができ、低侵襲で確信度をより向上させる情報を提供することが可能である。
 当院では主に肝臓のダイナミック検査と骨転移が疑われる症例において、画像診断医の指示のもとSpectral Imagingを積極的に行っている。通常のSingle Energyの撮影と同様にSpectralImagingでもCT-AECを使用している。出力機構の関係からSpectral ImagingではAECの下限値が230mAとなっており、この下限値が最大管電流となるような体格の小さい方や、撮影線量の不足が懸念される患者(BMIが30以上)などはSingleEnergyでの撮影を優先している。また、再構成画像は基本的にCNRが優れ、120kVの画像に近いコントラストを示す70keVの画像を出力しており、症例に応じて低keV画像や物質弁別画像などを作成している。図8にSpectral Imagingを用いた臨床例を示す。門脈内に血栓が認められ、これが血栓なのか腫瘍栓なのかの鑑別が必要となる。本症例ではSpectral ImagingによるIodine Mapや物質弁別画像(Iodine画像)を用いることで、ヨード成分を強調した画像表示が可能となり、血栓か、腫瘍栓かの鑑別(診断)の一助となる情報を得ることができた。SpectralImagingはSingle Energy CTでは得られない診断情報をレトロスペクティブに提供することが可能であり、今後はよりルーチン的な使用を展開できるポテンシャルを十分に有した技術であると考える。

Aquilion ONE GENESIS Editionの魅力

 Aquilion ONE GENESIS EditionはADCTとしての魅力はそのままに、さらなる低線量撮影と高いユーティリティ、DLRやSpectral Imaging Systemの最新技術が搭載された、まさにAllin Oneな装置となっている。この装置一台でルーチン検査から最先端技術を使用した精査までを高い水準で対応することが可能であり、間違いなく魅力あふれる装置であると考える。

<文献>
1) Euler A et al: Impact of model-based iterative reconstruction onlow-contrast lesion detection and image quality in abdominal CT: a12-reader-based comparative phantom study with filtered backprojection at different tube voltages. Eur Radiol. 27: 5252-5259, 2017
2) Higaki T et al: Deep Learning Reconstruction at CT: Phantom Studyof the Image Characteristics. Acad Radiol. 27: 82-87, 2020