磐田市立総合病院 放射線診断技術科 技師長
寺田理希
はじめに
磐田市立総合病院は、静岡県2次医療圏において地域がん診療連携拠点病院、救命救急センターおよび第2種感染症指定などの指定医療機関であり、多くの学会認定や施設基準を満たしている。日々の診療では、33診療科、500床、職員数約870名(放射線診断技術科35名)、入院患者440名/1日平均、外来患者1,222名/1日平均であり、地域の基幹病院として最新の医療を提供している(図1)。放射線関連設備は、単純撮影室5室、マンモ装置1台、X線TV装置4台、CT装置4台、MRI装置2台、RI装置1台、放射線治療器2台を有している。今回紹介するポータブル装置は、X-buggyの購入までは4台での運用であったが、昨年11月末にX-buggyを購入し5台体制となっている。ポータブル装置付属のDR装置には、全てにコニカミノルタ製のAeroDRを搭載して、ノートPCを使用したリモートデスクトップ方式で撮影を行っている。
当院でX-buggyとAeroDRを購入した経緯
当院では、昨年(2020年)11月より新型コロナウイルスの感染拡大にともない、発熱患者さん専用のコンテナハウスでの発熱外来を開始している。発熱外来では、発熱などの症状がある患者さんの診察、新型コロナウイルス患者さんの体調確認外来およびPCR検査などを主に行っている(図2)。発熱外来の運用開始に伴いコンテナハウス内の外来で胸部単純撮影の要望を受け、胸部単純撮影が行える環境構築の検討を行う事となった。
胸部単純撮影が行える環境を発熱外来内のコンテナハウス内に構築するため据付型X線装置も検討したが無理であると考え、ポータブル装置での検討となった。導入条件として大きさがコンパクトであること、重さが300kg以下であること、胸部単純撮影を行うためX線出力が高く準高圧での短時間照射ができることなどの条件が求められた。この3つの条件を満たす装置を検討した結果、X線出力装置としてX-buggyが最も適正であると判断し導入する事とした。また、DRシステムは当院での画質の統一性を考慮し、コニカミノルタ製のDRシステムであるAeroDR fineを選定し導入した。
発熱外来での運用状況
発熱外来では、感染対策として基本的にマスク、フェイスシールド、防護キャップ、防護服そして2重手袋の着用をして撮影業務を行っている。また、短い時間でスムーズな撮影も求められる。
実際の撮影時の場合、立位撮影、リーダー撮影台を常備し対応し、車椅子の患者さんは、養生したFPDを胸部の後ろに直接設置し撮影を行っている。X線発生装置であるX-buggy(図3)は、コンテナハウス内に常備している。
X-buggyのアームと管球の可動性は非常にスムーズであり、短い時間での撮影準備が可能である。FFD(Focus FPD distance)は、120cmに合わせて撮影しているため、装置を多少前進させるなど微調整が必要となる。電動でなく手動での移動であるが、あまり重さを感じさせずスムーズである。狭い空間での自由自在でスムーズな装置移動を可能としているのは、装置の重量が約100kgと軽量であること、4輪キャスターで、なおかつ大型のゴムタイヤであることでありX-buggyの特徴が生かされている。女性技師でも問題なく動かすことができ、重宝していることは言うまでもない事実である。
AeroDRシステムは、ノートPCを使用したリモートデスクトップ方式での運用を行っている。X-buggyへの取り付けキットを使用すれば常備可能だが、感染対策を考慮し別の放射線室に
FPD(Flat Panel Detector)を常備(図4)している。オーダー情報取得は、コンテナハウス内でも行えるように有線LANを設置しているが緊急時以外使用せず、ハウス内での作業時間短縮のためオーダー発生後に別の放射線室で情報取得を行い、ノートPCと養生したFPDを専用のキャリーバックに入れて、コンテナハウスに向かい撮影を行っている。FPDとノートPCは、曝射連動機能を使用しているためX線曝射すれば画像の確認がノートPCでリアルタイムに可能であり、速やかに撮影を終了することができる。高感度FPDと高出力のX-buggyの組み合わせであるため標準体型で90kV、2mAsでの撮影が可能であり、照射時間は約0.03secと非常に短く呼吸や体動による動きの影響はない画像を得ることが可能である。また、散乱線補正処理を行えるシステムであり、グリッドが未使用の運用が可能であることも大きなメリットとなっている。
運用上、特殊な環境下ではあるが、スムーズな運用が可能となっており非常に重宝しているシステムである。
X-buggyの基本性能と魅力
1. コンパクト
幅571mmで非常にコンパクトであり、狭いスペースでの収納や設置・撮影まで非常に快適である。また、バッテリー内蔵で重量が約100kgで、通常のポータブル装置と比較しても超軽量であり、コンテナハウスなど床の耐加重の制限がある場合でも問題なく使用できる。
2. 高出力
ジュネレーター出力5.6kwとハイパワーなX線発生器を有していることが大きな特徴である。呼吸苦などの患者さんが対象での胸部撮影が求められるため、0.1sec以下での短時間での条件設定で照射ができることは、今回の発熱外来での使用に大変に適している。
3. 高い操作性
撮影時のアーム部分の上下操作は直線移動で最高位が1,830mmであり立位撮影やベッドでの臥位撮影時のFFD確保も容易である。また、パンタグラフタイプでないため管球・照
射口部分は装置自体を前後左右に動かす動作が必要であるが、非常に軽く動かすことができる。
操作パネル(図5)は、8通りのプリセット登録が可能であり、撮影条件の変更時はデジタルディスプレイのダイヤルを動かすことにより可能であり、感覚的にそして容易に撮像条件を合わせることができる。また、内臓バッテリーのDC撮影(約30回程度撮影可能)とAC電源100Vの両方での撮影が可能であり、色々な局面に対応できる。
AeroDR fineの画質
1. AeroDR fineの基本性能と魅力
カセッテ型デジタルX線撮影装置「AeroDR fine」は、高解像度ワイヤレスタイプの可搬型DRである。AeroDR fineは、高感度化によりDR画像の高画質化、低被ばくを実現している。
高画質化の特徴は、画素サイズを従来モデル175μmから100μmへとし、高解像度に対応していることである。高解像100μmでは、従来モデル175μmに比べ画素数が3倍で取り扱うデータ量が3倍となる。このデータ量を削減する技術として、縦横2×2の画素の合計4画素を1画素として扱うビニング処理を行う事ができる。この処理により100μm/200μmを撮影プロトコルに応じて使い分けることが可能となる。現在の運用は、胸部撮影中心であり200μmを使用しているが、今後の他の運用に対しても拡張性が大きいシステムである。
画素サイズが小さくなると、TFTセンサーパネルのS/N比およびDQEが低下する。これに対し、シンチレータの膜厚化、TFT/フォトダイオードの構造改善、新型低ノイズ読み出しIC採用などの新規技術を行い、センサーの感度向上とノイズ低減を行うことで、DQE向上を実現している。線量は従来モデルと比較して約25%の線量低減となり、患者への被ばく量を抑えることが可能となっている。
2. 散乱線補正処理(Intelligent Grid)
ポータブル撮影では、撮影ごとにX線発生器に対するグリッドの位置や傾きを確認・調整する必要がある。グリッドのアラインメントがずれると、画像の左右に濃度差が生じる。特に胸部画像の場合、左右の肺野で濃度差を引き起こし、読影時の病状判断を難しくする。このシステムでは、グリッドを使用しない撮影において、散乱線で低下した画像のコントラストを改善する画像処理「散乱線補正処理(Intelligent Grid)」を活用することが可能である。また、今まで、散乱線補正処理を行う際に事前に設定した撮影条件に合わせて撮影を行う必要があったが、体厚推定モードを使用し、管電圧とグリッド比の情報のみ設定することで他の撮影条件は設定不要、かつその他パラメータの変更も容易となる。
最後に
今回紹介した大林製作所製可搬型X線撮影システム「X-buggy」とコニカミノルタ製DRシステム「AeroDR fine」の組み合わせでの装置購入は、コロナ禍におけるコンテナハウスでの撮影依頼がなければ、当院では実現しなかった。現在、6か月の運用で60件程の撮影を行い、コロナ禍での非常事態に対応できている。操作性の良いこれらの装置を私は大変に気に入っている。また、特殊な環境における撮影で、診療放射線技師に新型コロナウイルスを感染させないため、短い時間で撮像が可能できる装置であることは必須条件であったが、それらの条件をクリアーしている現状にも大変に満足している。
新型コロナウイルスが収束し、コンテナハウスが撤廃された場合、これらの装置は非常時や院内でも活躍できる能力を持ち合わせた装置である。そして、そのような日が1日でも早く来ることを私は待ち望んでいる。