高瀬クリニック放射線部
高柳知也
リアルタイムの線量マッピング機能による線量把握
私のお気に入りの装置はキヤノンメディカルシステムズ社製のX線アンギオ装置Alphenixである(図1)。
ここ数年、医療放射線安全管理責任者の設置や患者の個人被ばく線量の管理、放射線従事者の眼の水晶体に対する被ばく限度の見直しがあり、放射線被ばくの関心が高くなっている。患者の個人被ばく線量の管理として、DRLs2020の線量以下で手技を終了することは重要であるが、同様に局所皮膚の被ばく線量低減も重要である。局所皮膚の被ばく線量低減において心臓カテーテル治療では、Dose Tracking System(以下DTS)が有用である。DTSは皮膚表面の入射皮膚線量の状況がリアルタイムに表示できる技術である。入射皮膚線量が仮想患者モデルにカラーマッピングとして3次元的に表示され、さらに患者モデル内で最大皮膚線量(Peak Skin Dose:PSD)も表示されるため、手技中において視覚的に局所被ばく線量の把握が可能である(図2)。手技時間が長くなり被ばく線量が高くなる可能性のある症例では、このDTSを活用することでワーキングアングルの変更や透視パルスの設定変更などを行い手技中に被ばく線量をコントロールすることができる。当院はPSDが1Gyを超えた場合にPSDのカラーマップ画像をレポートとしてプリントアウトし、心カテ後の皮膚の確認に役立てている。
また、検査前の仮想患者モデルの選択は性別、年齢、身長、体重を入力することで自動選択される。
コントラストの向上とモーションによる残像の少ない画像
最新装置であるAlphenixは、高電圧発生装置の改善により高出力および短パルス幅化が可能となった。従来の装置より管電圧を下げてコントラストを向上させている。管電圧を下げたことによる線量不足は管電流を高くすることで補っている。さらに1フレーム当たりのパルス幅を短縮することにより時間分解能が向上し、モーションによる残像の少ない高画像を得ることができる。
図3はAlpheni(x 1カテ室)と旧型のInfinix Celeve-(i 2カテ室)で撮影した右冠動脈造影の心房収縮期の画像である。InfinixCeleve-iではRV blanchでモーションによる残像が認められるが、Alphenixでは残像を認めず静止画像が取得できている。
ハレーションの抑制
AlphenixのダイナミックレンジはInfinix Celeve-i の12bitから16bitと16倍になり、広い濃度レンジの抽出が可能となった。その結果、ハレーションで高輝度となり表現できなかった心臓と肺野の境がしっかりと表現できるようになった(図4)。そのために補償フィルタを使用しなくてもハレーションが抑えられ、フィルタ操作が必要ないため診療放射線技師及びセカンドオペレーターの作業効率が向上した。
留置ステントの視認性
ステント留置後に拡張不十分で後拡張を行うケースや、オーバーラップしてステントを挿入する際、冠動脈に留置されているステントの位置確認は必須である。Infinix Celeve-iの透視モードでは留置ステントが認識しにくく撮影モードを使用することがしばしばある。しかしAlphenixではステント強調処理やゴースト補正機能、ダイナミックレンジの拡大により、透視モードで留置ステントの位置確認が十分可能であり、撮影モードへ切り替える必要はほとんどない。
さらに留置ステントの確実な位置確認方法としてAlphenixWorkstationのDynamic Device Stabilizer(以下DDS)がある。このDDSは拍動と連動して動いている冠動脈内のバルーンマーカーの2点を自動認識し、それらのマーカーを固定することで背景を動かし留置ステントを加算平均処理してステントのエッジを強調する機能である。しかしDDSの推奨透視パルスレートは15f/sで、使用するごとにパルスレートの設定変更が必要となる。さらに被ばくの増加もあることからDDSを使用していないのが現状である。当院では同様な技術であるPhilip社製SyncVisioinのDevice Enhancementで実施している(図5)。Device Enhancementは担当医からの信頼も厚く、当院で通常使用している透視パルスレート7.5f/sで使用できる点がメリットである。
心カテ中に留意する点
心カテ室内はアンギオ装置以外に周辺機器や心カテの物品などが多くあり、広く部屋を取っていても意外と手狭になる。患者様の急変時、寝台の周辺にIABPやPCPSなどの機器が置かれ、セカンドオペレーターが寝台を動かした際に寝台の側面に付いている緊急停止ボタン(図6)が周辺機器と接触してしまったことを数回経験した。心カテ中は全面が覆布で覆われていてボタンが見えないのが原因であった。緊急停止ボタンが押されるとCアームと寝台の上下動が制限されるため、手技が止まってしまう。復帰ボタンですぐに復帰できるが、接触が避けられるように常に留意している。メーカーには緊急停止ボタンの設置場所の再考を願いたい。
当院の線量管理システム
2020年4月から医療被ばくの線量記録と線量管理が義務づけられた。当院では2019年9月にキヤノンメディカルシステムズ社製の線量管理システムDoseXrossを導入し運用している。すべてのアンギオ装置とCT装置をDoseXrossに接続し日々の線量管理に利用している。アンギオ装置からは総入射線量や撮影時間、透視時間などの情報がDoseXrossに保存されるが、DTSとの接続は不可能であり、DTSからの情報は受信できていない。現状、DTSのレポートはキヤノンメディカルシステムズ社製の動画ネットワークシステムCardioAgentで保存している。今後、同一メーカーを使用する利点として、DTSのPSDや仮想患者モデルのカラーマッピングがDoseXrossでも保存できるように改善を願いたい。
Alphenix導入のメリット
DDSの推奨パルスレートなどの不満はあるが、Alphenixを導入する価値は高い。Infinix Celeve-iの画像と比較するとコントラストの違いが大きく抹消の抽出能に差がある。特にChronic Total OcclusionやDirectional Coronary Atherectomyなど高コントラストや残像の少ない画像が重要視される手技では担当医は必ずAlphenixを選択する。
また、装置を長年維持していくうえでFPDの通電は使用時だけでよく、24時間の通電不要であることはもう一つのメリットと思われる。24時間の通電不要による電気代の節約や長時間停電後に通電が再開すると同時に使えるのは強みである。
Alphenixは私を含め、当院の循環器内科医や診療放射線技師のお気に入りであることは間違いない。