日本私立学校振興・共済事業団 東京臨海病院
藤井雅代
はじめに
私の勤務している東京臨海病院では、専門外来は別として心臓と一部血管系以外の超音波検査は放射線科で行っている。放射線科では、2014年に購入したキヤノンメディカルシステムズ株式会社製超音波画像診断装置Aplio500(TUS-A500)と乳腺専用に使用しているさらに古参のキヤノンメディカルシステムズ株式会社製超音波画像診断装置Xario XG(SSA-680A)の2台が稼働している。
1年間で腹部領域・表在領域・血管領域合わせて4000件以上の検査をこなす相棒「Aplio500」が私のお気に入りの装置である(図1)。
超音波検査は簡便かつ無侵襲に断層像が得られ、また血行動態を把握でき腹部、乳腺、血管など様々な部位での画像診断が可能となる。その一方、被写体の体型、消化管のガスや残渣等の影響を受けやすい検査である。もちろん技術的な工夫や体位変換、呼吸などで軽減はできるが、装置の機能や利便性が高いのに越したことはない。
画質:高分解能画像と高感度
Aplio500は二つの回路を装備しフルデジタル処理をすることにより、従来の装置2台分の送信を同時に行えるためBモード、カラーモードとも分解能・リアルタイム性が大幅に向上し鮮明画像が得られる上に広帯域・高感度のマルチ周波数プローブを採用することで1本のプローブで送受信周波数を最大14周波(THIを含む)に切り換えられるので、浅部から深部まで最適な周波数を用いて高分解能画像と高感度なドプラ血流表示が得られる。
さらに生体からの反射信号に含まれる2次高調波を用いて画像を構成するTHI表示が可能であり、二つの周波数を合成して送信し、差音と2次高調波をPulse Subtraction法により抽出できる。これにより卓越した分解能とペネトレーションを実現し、アーチファクトが少なく、組織内部や境界エコーを鮮明に描出する画像表示が行える。また、空間コンパウンド技術と周波数コンパウンド技術を併せ持ったApliPureは、コントラスト分解能と画像の深さ方向における均一性を大幅に向上させ、超音波画像特有のスペックルと呼ばれる粒子状のパターンやランダムなノイズを低減している。
Aplio500には、生体内での音速のばらつきにより、方位分解能が劣化する場合にばらつきを補正して、画質劣化を改善するTissue Specific Optimizationという機能がある。複数の音速で計算を行い、コントラスト比が最も高くなるよう音速を推定して設定することで、画質の劣化を防ぐ機能である(図2)。
これらの機能がプローブを握る私の知らないうちに働いてくれて、体格の良い被検者の腹部など(15cm以上の深部)を描出するときに深部減衰に負けず高分解能で鮮明な画像を提供してくれるのである。
腹部超音波検査では、各臓器の層構造や、脈管を描出することが必要であるが、近接する臓器や脈管を鮮明に描出することは簡単ではない。
Aplio500は、近接する複数の超音波ライン信号を高速で処理し、組織構造を強調し境界や構造物の視認性を高める機能があり、臓器や腫瘍の辺縁、消化管等の層構造、脈管等構造物の明瞭化とスペックルの詳細情報維持を同時に実現している。この機能と高精細プローブのおかげで消化管病変や総胆管病変が鮮明に描出できるようになった。
豊富なプローブバリエーション
Aplio500で、私が常に使用しているプローブは、下記の5種
類である(図3)。
図3の上部から順に
1. コンベックスプローブ PVT-375BT(中心3.5MHz、視野角約70°)(図3-a)
主にスクリーニングの腹部検査に用いる。
2. 高周波コンベックスプローブ PVT-674BT(中心6.0MHz 視野角約65°)(図3-b)
胆嚢壁や総胆管、膵臓の微細な病変などを見たい時、また体厚のある被検者の消化管や、血管系(特に下肢深部静脈)に用いる。
3. リニアプローブ PLT-704SBT( 中心7.5MHz 視野幅約38mm)(図3-c)
血管系(頸動脈、下肢深部静脈)に用いる。
消化管検査、小児の腎臓、胆道系の描出にも用いる(図4)。
4. リニアプローブ PLT-1005BT(中心10.0MHz 視野幅約58mm)(図3-d)
乳腺、甲状腺など表在領域に用いる。
消化管検査(特に消化管の壁辺縁や周囲リンパ節の描出)などにも用いる(図5)。
5. リニアプローブ PLT-1204BX(中心12.0MHz 視野幅約38mm)(図3-e)
表在領域、末梢血管、リウマチ検査の手指関節描出に用いる。
上記のごとく5本のプローブを見たい領域、被検者の体格に合わせて使い分けている。プローブを変更したときにもクイックスキャンのボタンを押すだけで、患者の体型や検査目的に応じて、組織とノイズ信号を識別し、組織信号のみを最適化してモニタ上に適正な画像を提供してくれるのだ。
鮮明な画像を得るための工夫として、乳腺や表在領域の検査には、プローブにアタッチメント式の水袋を装着して使用している。アナログ装置の時代には、キテコ(半固形状伝達媒質)を使用した思い出もあるが、利便性は比較にならない。
プローブと体表との密着を良くし、アーチファクトの軽減、コントラストの向上がみられ鮮明な画像が得られる(図6)。
装置の操作性
装置の操作性の良さも、検査をする上では重要である。
パドルスイッチ機能を持ったロータリーエンコーダによって、メインパネルのスイッチの機能は自由にカスタマイズができ、タッチパネルも同様に、ページレイアウトやボタンの配置を自由に変更することができる。トラックボールを中心に指が届く範囲のところに頻繁に使うボタンを設置しており、タッチパネルのボディーマークも使う頻度の多いものから順にタッチしやすいところに配置している。
モニタは、上下左右に可動し固定ができる。メインパネルも高さと前後左右に可動させ固定することができ、モニタと合わせて調整することで、プローブ走査する時の不自然な姿勢の負担を軽減することができる。プローブケーブルを掛けるケーブルハンガは、購入後にアーム(正規品)を付けて操作しやすくした。
下肢血管など走査範囲が長い場合、走査しながら装置を移動することも多々ある。以前の装置には、キャスタ一つ一つにストッパーがついていたが、Aplio500には、キャスタロック一か所で全てのキャスタの解除と固定ができる。また、ストッパーの角度で進行方向だけの解除を行うこともでき検査中の移動が楽になった。
豊富なアプリケーション
何時も使用するわけではないが、まだまだたくさんのアプリケーションがある。
使用している一部を紹介する。
乳腺領域ではMicroPure、リアルタイムStrain Elastographyなどのアプリケーションがある。MicroPureは微細な構造物を抽出し、その視認性を向上させることのできるモードであり、微細石灰化等の視認性を向上させる。
リアルタイムStrain Elastographyは乳腺領域および腹部領域において、リニア・コンベックスプローブを用いて組織を数回圧迫し、組織の硬さ(組織の歪み)を計測することで、腫瘤の良悪性を判別する一つの目安になる。
特殊検査時のアプリケーション
1. Biopsy Enhancement Autoモード(BEAM)機能
複数の異なる角度の超音波ビームを用いることで、2D画像内の穿刺針を強調表示できるモードであり、針本体の視認性が向上し、穿刺の精度が向上した。
2. 造影(CHI)機能
微弱な超音波を連続的に照射し、バブルの流れる様子をリアルタイムに描出する。また、強い超音波でバブルを消失させ、新たなバブルの流入をリアルタイム観察できる。
Replenishmentモードも搭載している。さらに、造影剤の軌跡を表示するMicro Flow Imaging(MFI)や、スキャン面内の画像のぶれを補正するImage Stabilizer機能もある。
3. SMI機能
新しいカラードプラ技術としてはSuperb Micro vascular Imaging(SMI)モードが搭載されている。SMIは従来のカラードプラ法に比べ、低流速領域でのモーションアーチファクトが抑制され、さらに高フレームレート化した画像で、微細な血流が視認性よく描出でき診断に有用である。
上記のアプリケーションで乳腺領域のMicroPure、リアルタイムStrain Elastographyは意識して使用することがあるが、造影機能、SMI機能に関しては普段特に意識して使用しているわけでもなく当たり前に使用していたが、今回この原稿を書くにあたり改めて装置の性能を知ることになった。
新しいAplio(i-serise)は、設計段階でDeep LearningやMachin Learningなどを使用し、先進の画像技術、ワークフロー、アプリケーションを装備しており、是非使用してみたいと思うところではあるが、Aplio500を使用して7年もたっているのに、まだまだ活用しきれていないことを実感し反省するとともに、装置の持つ力をフルに引き出し診断に役立てようとこれからも精進する所存である。