みなみ野循環器病院放射線科
望月純二
CTによる心筋遅延造影
心筋遅延造影は心筋障害を評価する撮影であり、従来MRIによって行われていた。遅延造影MRIは現時点で最も高精度に心筋梗塞に侵された領域や心筋症を診断できる検査といえる。
CTにおいてもMRIと同様に遅延造影で染まる領域は心筋梗塞もしくは線維化を疑う所見を示している。正常な心筋細胞では間質の割合は少なく、wash outも早いため、後期相で造影されることは少ない1)。一方心筋内の線維化されている領域は、間質の増大とwash outが遅いために障害領域は遅延造影として描出され、心筋症の診断や心筋梗塞症例においては病変領域を区別することが可能となる。しかし、CTではMRIと比較し健常部と病変部のコントラストが得難いため、冠動脈CTに使用する造影剤をはるかに超える量が必要であった。また、被ばくが伴う検査であることや解析方法が確立されていないため、普及していなかった。
しかし、Dual energy CTの登場により、CTによる心筋遅延造影は注目されている。Dual Energy CTはCTの画像診断の概念を変えたと言っても過言ではない。従来はCT値のみで計測され画像化していたが、実効原子番号や密度画像など多岐に渡るパラメーターを基準とした画像を得ることが可能となった。特に低エネルギーの仮想単色X線画像(virtual monochromaticimage:VMI)はヨード造影剤が入っている領域のCT値が上昇するため、正常領域と遅延造影領域に十分なコントラストを得ることができる。筆者はPhilips社製 I QonスペクトラルCTを用いて心臓CTを施行しているが、従来画像では得られない、コントラストを体重当たり450mgIの造影剤量で得ることができている。
しかし、VMIによる評価には課題もあり、心筋内の造影効果は症例によって異なるため、WWとWLの設定により画像の見え方は大きく変わってしまい、定量評価は困難であった。
そこで注目されているのがヨード密度強調画像である。ヨード密度強調画像は、表示するピクセル値を組織内のヨード密度値(mg/ml)により画像化しているため、ヨード量の定量値を計測できるだけでなく、ヨード密度の増強効果に比例して画像の視認性が向上する特徴がある。AZE Virtual Placeではヨード密度強調画像を用いたECV解析が可能である(図1)。
Dual Energy CTによるECV解析
CT及びMRIによる心筋遅延造影で注目されているのが、心筋障害を定量評価する指標である細胞外壁分画(extra cellularvolume fraction:ECV)である。ECVにおいてもMRIが先行し行われており、T1 mappingを用いて評価されてきたが近年ではDual energy CTを用いた評価が報告されている2)。ECVはMRIやsingle energy CTは単純の画像をもとに算出する必要があるため、造影前後でサブトラクションが必要である。しかし、Dual energy CTでは、単純画像のヨード値はゼロであることから、ヨード密度強調画像を用いれば遅延相のみで障害心筋を評価することが可能である(図2)。
これにより単純画像との比較で算出するMRIやsingle energyCTよりも再現性は高いといえる。しかし、ヨード密度強調画像を用いたECV解析ソフトウエアは存在していなかった。
AZE Virtual PlaceによるECV解析について
ECVは先に述べた方法でROIを用いて算出することができる。しかし、この方法で算出されるのはROIの領域のみであり、全体を計測するには労力と時間が掛かる。また、バイアビリティを評価する際は、造影領域を正確に評価する必要がある。ここで、キヤノンメディカルシステムズ株式会社AZE Virtual Place「ECV map」解析方法について三つのポイントを述べて紹介する。
【POINT 1】
AZE Virtual Placeでは、ROIを用いた計測ではなく、ピクセル単位でECV値を算出するECV mapを作成することができる。解析方法は、①自動作成された短軸画像の左室内腔にROIを設定しヨード密度値を計測する。②症例のヘマトクリット値を入力する。③ECVを算出(図3)。この作業のみで、各ピクセル当たりにECV値を算出し画像化することができるのだ。つまり、ECV mapでは任意の領域を用いて計算することなく、値をROIで計測した値がECV値となる。またECV値に合わせたカラーマップを用いることにより、視認性を高めることが可能となる。
【POINT 2】
Dual Energy CTによる心筋遅延造影の課題の一つに、左室内腔と心筋内遅延造影領域の分離の難しさがある。心臓MRIでは心筋内の造影領域が高信号を示すため、容易に認識する事が可能であるが、CTでは、左室内腔と心筋が造影剤で満たされると、ほぼ分離する事は困難である。その対応策として、華岡青洲記念病院の山口先生がSMILIE(subtraction myocardial image forlate iodine enhancement)を考案された。この手法は、遅延相から動脈相をサブトラクション処理し、遅延造影領域の認識を高める事が可能となる。当院でも取り入れているが、使用する画像はVMIでありヨード密度強調画像では対応できない。
ECV mapでは、左室内腔を確認する目的で、遅延相のヨード密度強調画像とともに、冠動脈相の画像も取り込み解析する。方法は、まず冠動脈相で左室心筋をマニュアルで抽出する。この範囲を遅延相に当てはめることにより、遅延相においても左室内腔を特定することが可能となる。また、冠動脈相から作成した冠動脈VRとECV解析結果fusionできることはメリットの一つである。
症例1は心電図変化があり心臓CTを試行し、心筋症の評価を目的に遅延造影も追加撮影した。解析は遅延相と共に冠動脈相を用いて行った。ECV mapでは冠動脈相画像をカラーマップ表示させることも可能であり、安静時画像においても灌流異常を明瞭に描出する事ができる。本症例でもカラー表示させることで、微慢性に低灌流領域を確認することができる。また、遅延相では、その領域に造影効果を認めた。しかし、fusion画像から遅延造影領域と冠動脈の走行が一致しないことが分かり、心筋梗塞であることは否定できる。本症例では、遅延造影パターンから肥大型心筋症と診断された(図4)。
【POINT 3】
ECV mapでは遅延造影のバイアビリティ評価においても大きなアドバンテージがある。
バイアビリティとは、左室壁運動異常を伴う心筋虚血もしくは梗塞後において、冠動脈の血行再建を行うことで壁運動の回復が望めるかの指標となり、遅延造影の壁深達度を評価することが重要となる。
指標として造影領域が心内膜から心筋の50%以内に留まっているとバイアビリティは有ると評価している。ECV mapでは、心内膜と外膜を描出すると自動で心筋の50%の領域を特定できる(図5)。また、bulls eyeと冠動脈相とのfusion画像の作成、更には全体評価だけでなく、内膜測と外膜側の画像を作成できるため、精度の高い評価が可能となる。
症例2は亜急性心筋梗塞疑いで心臓CTを施行した症例である。ECV画像では心内膜炎測有意ではあるが完璧性に淡い造影効果を認める。しかし、本手法を用いた評価では外膜側では一部は外膜側にも造影を認めるものの、ECVは30%前後であり、血行再建により左室機能の改善は望めると診断された(図6)。本症例では、1年後のフォロー心エコー図において左室機能の改善が確認されている。
さいごに
本稿ではAZE Virtual PlaceのECV解析ソフトウエア「ECV map」について述べた。遅延造影CTから得られる情報は冠動脈相からは得ることができない情報である。しかし、その情報をどのように引き出すのかは、解析に依存するところが大きい。ECVmapにより簡便な解析が可能となることでDual Energy CTによる心筋遅延造影の臨床的意義が高まることに期待したい。
〈文献〉
1) Kim RJ et al: Myocardial Gd-DTPA KineticsDetermine MRI Contrast Enhancement and Reflect the Extent and Severity of Myocardial Injury After Acute Reperfused Infarction.Circulation94(12): 3318-26, 1996
2) Seitaro Oda et al: Myocardial Late Iodine Enhancement and Extracellular Volume Quantification with Dual-Layer Spectral Detector Dual-Energy Cardiac CT. Radiology:Cardiothoracic Imaging1(1), 2019