ぐぐるプロジェクトは、放射線の健康影響に関する情報発信を展開する環境省事業である。今年度の活動総括として、ぐぐるプロジェクトフォーラムを2022年2月28日(月)に星稜会館(東京・千代田区)で開催した。今回は放射線科医と診療放射線技師が中心になって講演されているのが大きな特長である。
開催にあたって、神ノ田昌博氏(環境省 大臣官房環境保健部長)より「環境省は原発事故後に福島復興に向けて様々な課題に取り組んでいる。その中で最も困難な課題が、根強く残っている放射線による健康被害に対する風評への対応である。今後も福島への風評払拭向けて、プロジェクトを継続する」と述べた。
第一部では、ラジエーションカレッジに参加した大学生が同世代に対して発信するプレゼンテーションの優秀賞が表彰された。
ラジエーションカレッジ優秀賞受賞者
プレゼン部門I | プレゼン部門II | 台詞作成部門 |
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大谷真輝(大阪大学) | 高橋彩乃(東北大学) | 大谷真輝(大阪大学) |
佐藤寿美(福島県立医科大学) | 橋本 碧(関西学院大学) | 田中留奈(佐賀大学大学院) |
原 彩乃(西九州大学) |
続く第二部では、差別や偏見につながる風評を払拭するための公開講座が6名の専門家によって行われた。まず、坪倉正治氏(福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座主任教授)より「福島の震災後に様々な検査を行ってきた中で、将来の子どもたちに後ろめたい感情を持たせないようにすることが我々の責務である」と述べた。そして、福島原発事故後の調査により確定的影響は観測されていない点、確率的影響についても国連報告書並びに20年の検査の結果、健康被害は将来的に予想されないとし、被ばくによる遺伝的影響が出る可能性が少ないことを説明した。
また、被ばくに対する差別偏見について、松本(名本)路花氏(国立病院機構九州医療センター 乳腺センター副部長・放射線科医長)は「福島県出身の方の発表であった、普通の人でありたいという言葉が胸に迫った。後々まで影響があると思われることは非常につらいことだ」という。続いて、東 美菜子氏(宮崎大学医学部病態解析医学講座 放射線医学分野教授)が、「目に見えないものに対しての恐怖は、人間なら誰しもある。しかし、恐怖の気持ちが差別偏見につながることは良くないということに対しての理解をそれぞれがするべきだ。また、今回のプロジェクトでは、自分ごととして考えることが大事ということが勉強になった」と述べた。
次に、五月女康作氏(福島県立医科大学保健科学部診療放射線科学科准教授)は「このプロジェクトにより学生が立ち上がったのはひとつの成果であると同時に、ここがスタート地点でもあると思う。漫画『ラジエーションハウス』の構想を始めた10年ほど前の気持ちを思い出した。これからも、放射線サービスに対する風評被害を払拭するため、大学人として、診療放射線技師を養成する立場として活動していく。さらに、科学的な難しいことだけでなく、学生たちのように気持ちに寄り添い、訴える活動もしていくことを考えさせられた」と語った。
また、講座ではCOVID-19による風評被害にも触れ、正しく知る姿勢を持つことと正しい知識を得ることの大切さを挙げた。