MY BOOKMARK No.41 放射線治療装置Halcyon〜「痒いところに手が届く」デザインと機能〜

2022.03.14

1)国立がん研究センター東病院 放射線技術部放射線治療技術室

  大吉 一、有路貴樹、 横山和利

2)国立がん研究センター東病院 放射線品質管理室

  茂木佳菜

はじめに

 私が所属している国立研究開発法人国立がん研究センター東病院は千葉県柏市に位置するがん診療連携拠点病院であり、がん治療の選択肢の一つである放射線治療にも力を注いでいる。放射線治療は年々高精度化し治療対象の拡大や治療精度の向上が認められ、その役割が大きくなりつつある。当院は放射線の種類として陽子線と光子線があり、光子線では高精度治療と呼ばれる定位放射線治療(Stereotactic RadiationTherapy:SRT)や強度変調放射線治療(IntensityModulated Radiation Therapy:IMRT)から従来の照射方法である三次元原体照射(Three-Dimensional Conformal Radiation Therapy:3DCRT)を駆使して目的に応じた照射技術を提供している。質の高い放射線治療を提供するには、適切な治療適応と適切な治療計画はもちろん必須であるが、治療機器の特性や適格な運用も重要である。近年では放射線治療機器の性能向上も飛躍的であり、高精度治療をはじめ、その精度を担保する画像誘導放射線治療(ImageGuided Radiation Therapy:IGRT)は標準的なスペックとなっている。

 当院では2019年2月にHalcyon(Varian Medical System社、Palo Alto、CA)を導入した。Halcyonは強度変調回転放射線治療(Volumetric Modulated Arc Therapy:VMAT)に特化した放射線治療装置であり、開発コンセプトとして高品質なケア、運用効率の向上、人に優しいデザインを掲げている。本稿はHalcyonの臨床使用経験を放射線技師の立場から、その機能や使いやすさを紹介させていただく。

今までにないガントリヘッド構造

 Halcyonはリング型リニアックであり、これまでの同社リニアックはアーム型であるため見た目からデザインが大きく異なる(図1)。HalcyonはJawコリメータを有さない装置であり、照射野の形成を上下二層のMulti leaf colomate(r MLC)で行う。HalcyonのエネルギーはFlattening filter free(FFF)の6MV-X線のみであるため、フラットニングフィルタは存在しない。同社リニアックTrueBeamもHalcyonと同じFFFの6MV-X線の出力が可能であるが、ガントリヘッド構造が異なるため2つのビームは全く同じとはならない。TrueBeamとの性能比較を表1に示す。Halcyonのガントリヘッド構造については多方面で紹介されているので、そちらを参考にしていただき、ここでの詳細は割愛する。

痒いところに手が届くHalcyonの特徴

1. 大口径のガントリ構造

 ご存知のようにアーム型リニアックではガントリが回転することにより、患者との干渉リスクが存在する。当院ではアーム型リニアックで治療をする際、患者との干渉リスクを避けるために180度方向から照射を開始している。その後、0度方向の照射へ移行することでガントリの回転経路をチェックすることが可能となり、干渉リスクを回避している。一方、HalcyonはCT装置のようにガントリ自体がカバーで覆われてるため、ガントリと患者の干渉リスクが存在しない。そのため、どの方向から照射しても干渉を気にせずに治療できるという安心感がある。この安心感は点滴をしている患者の治療においても発揮される。アーム型リニアックでは点滴のラインがガントリに巻き込まれるリスクがあるが、その点においてもHalcyonは回避することが可能である。

2. 患者に優しい寝台の最低高

 患者が乗り降りする治療寝台の高さは非常に重要なポイントである。Halcyonでは寝台の最低高が62.5 cmであり、TrueBeamと比較して非常に低い構造である( 図2)。TrueBeamは寝台が高いため直接移動することは難しく、踏み台を利用しなくてはいけない場合がほとんどである。患者からは「身長が小さくてごめんなさい」、「足が短くてごめんなさい」などを言われることがあるが、私からは言わせてもらえれば「寝台が高すぎる」の一言に尽きる。また、踏み台を利用したとしても移動が困難な患者もいる。特に車椅子や麻痺がある患者のリスクは高く、踏み台を利用することによりそのリスクはさらに高くなる。Halcyonは寝台の最低高が低く設定されたことにより、踏み台を利用しない直接移動が可能となる。これは治療精度や治療成績に直接関係しないが、日々の照射業務を安全に遂行する点においては重要なことであり、現場の技師にとっては嬉しい機能である。

3. Delta Couch Shift Support機能とアイソセンタ位置の自動保存

 従来の同社リニアックは初回治療時に治療計画CTの中心からアイソセンタ(IC)に寝台を移動して照射を行う。その際にICの寝台位置を保存することにより次回からは自動での移動が可能となる。ただし、IC位置の保存はマニュアル操作となるため、保存を忘れると自動での移動が不可となり、手動での移動となる。一方でHalcyonにおいては仮想のICと真のICが存在し、まずは仮想のICでセットアップを行い、次に真のICまで移動させる(図3)。この機能はDelta couch shift supportと呼ばれ、治療計画CTの中心からICまでの移動をボタン一つで行う。また、初回治療時に仮想のIC位置も自動保存されるため、次回の治療においてはその位置まで自動で移動が可能となる。この便利な機能により、技師の手間が省け、照射に集中することが可能となる。

4. 治療計画装置Eclipseとの連携

 Halcyonの治療計画は同社の治療計画装置Eclipseを使用する。その際は自動で寝台が挿入される(図4)。この機能が従来の治療装置では連携しておらず、計画者自身が対応する治療装置の寝台を直接挿入する必要がある。そのため寝台の挿入を忘れることもあり、プランチェックの際に発見されることがある。寝台はカーボン製であるが、寝台の有無により少なからず線量計算に違いが生じる。質の高い治療を担保するためにもHalcyonの寝台自動挿入機能は有用である。

 Halcyonの治療計画はICを決定する際、患者に対してガントリと干渉するような位置では計画ができない仕様となっている。従って、作成した治療計画が照射可能であることが担保されていることになる。治療業務を経験された方はご存知だと思われるが、新しい治療計画に対して照射室でガントリ・寝台の干渉確認をドキドキしながら行う必要がないため、技師にとっては非常にありがたい。

5. 高速ガントリ回転による治療時間の短縮

 Halcyonの臨床における最大のメリットは、高速ガントリ回転による照射・撮影時間の短縮である。照射時間をTrueBeamと比較をすると、一回線量が同じ2arc(360度)の肺癌に対するVMATの5症例の平均時間において、TrueBeamでは72.9秒ほどかかる照射がHalcyonでは35.8秒であり、照射時間は約半分に短縮した。ガントリ回転の速さはCone Beam CT(CBCT)の撮影スピードの向上にも繋がる。HalcyonのkVCBCT撮影では、すべての撮影プロトコールは360度回転で画像の収集を行う。TrueBeamの撮影時間と比較をすると、撮影角度が200度のTrueBeamでは33秒であるが、Halcyonでは16.6秒であり、撮影角度は大きいにもかかわらず撮影時間は約半分になる。近年は高精度治療の件数が増加しているため運用効率の向上は現場にとっても有用である。

 冒頭でHalcyonはVMATに特化した放射線装置と説明したが、Halcyonでも3DCRTは可能である。Halcyonはフラットニングフィルタが存在しないため、平坦な線量分布の作成は難しいがFixed sequenceという機能を使用することでそれが可能となる。当院ではこの機能を利用してHalcyonで緩和治療も行っている。緩和治療にHalcyonを用いるメリットは高速CBCTによる画像照合である。患者によっては痛みが強く、セットアップが十分行えない場合がある。そのため最終的には画像で合わせ込むことで正確な位置への照射が可能である。体位保持が困難な患者に高速なCBCTを有効に活用することにより、入室から退出までの時間短縮が可能となるため、最終的に患者の負担を減らすことに繋がる。

Halcyonの留意すべき点

 これまで利点ばかりを述べてきたが、留意すべき点もある。一つはエネルギーが6MVしか使用できない点である。VMATのように多方向から照射する場合にはエネルギーによる影響は小さい。実際にエネルギーの違いによる前立腺癌のVMAT症例を図5に示す。左側は6 MV、右側は10MVを使用した治療計画である。エネルギーの種類は異なるが、同等の線量分布が作成可能であり、Dose volume histogram(DVH)からもPlanning targetVolume(PTV)や直腸の線量は同程度となっている。しかし、3DCRTにおける治療計画では一方向からの照射割合が大きくなるため、エネルギーの違いによる影響は大きい。3DCRTで使用する場合は適応症例を選ぶ必要がある。

 二つめは寝台が3軸補正という点である。TrueBeamの寝台は6軸補正となっており、Halcyonより補正精度が高い。比較的小さな病巣に対しては3軸補正で対応可能であるが、大きな照射野に対しては6軸補正が必要と考える。ただ、セットアップに必要なマージンを担保することにより3軸補正でも対応は可能である。

 三つめは照射野の大きさである。最大照射野は36×36cm2であるが、これはICを移動して照射を行う2 isocenter機能を用いた場合である。ICを移動させない通常照射では最大が28×28cm2となっている。そのため食道などの広い照射野は対応が難しい場合がある。

おわりに

 今回はHalcyonの機能と使いやすさについて紹介した。Halcyonを使用して実感したことは、非常にスループットが良いことである。本稿では紹介できなかったが、操作手順に従いボタンが点灯するので、初めてHalcyonを触る方でも容易に操作可能である。実際の照射においては多少のトレーニングは必要となるが、誰でも即戦力になれるという期待は大きい。

 Halcyonは人に優しいデザインを掲げているが、この「人」とは、患者だけを示すものではなく、治療に携わるすべての「人」が含まれていることに気付かされる。Halcyonは他の機種より機能的にやや劣る部分もあるが、それを差し引いてもその能力を十分に発揮させることで多くのメリットがある。今後もHalcyonのポテンシャルを最大限に引き出せるように日々の業務に取り組んでいく所存である。