第51回日本核医学会学術総会見聞記〜放射線物質漏えい対策と核医学診療の社会的正義〜

2011.11.04

第51回日本核医学会学術総会見聞記
〜放射線物質漏えい対策と核医学診療の社会的正義〜
金沢大学附属病院核医学診療科 
松尾信郎

図1 会議場正面
図2 合同開催ポスター
図3 会場ロビー
 平成23年10月27日から29日の3日間、つくば国際会議場(エポカルつくば)にて開催された第51回日本核医学総会に参加した。つくばエクスプレスのつくば駅を降りて美しい並木道を10分程度歩くと国際会議場に着いた(図1)。今年は震災直後の学会である。未曽有の原発事故や大震災後の難局に直面する中で、予定通り学会開催を行うことが結果として社会に対して核医学に関する正しい情報を発信することになる。特に放射線被ばくの問題は現在、国民の関心が非常に高いテーマである。核医学診療に携わる身としては、放射線の知識を整理したうえで核医学を医療に活かし、医療の質を上げていくための情報交換の場として有意義な場であったと思う。私は26日夜に筑波に入り29日夕まで参加できた。核医学会学術総会と同時開催として第31回日本核医学技術学会総会学術大会、口腔顎顔面核医学フォーラム2011と第5回日韓中核医学会議も予定通り開催された(図2)。一般演題は600を超え様々な分野の研究報告がなされ、わが国の医師や診療放射線技師、研究者のみならず韓国や中国などアジアの研究者で会場は盛況であった(図3)。私は会場で過ごすことが多かったが、つくば学園都市では筑波山の紅葉を楽しむことができた。

-緊急合同シンポジウム(放射線物質漏えい対策)-
 緊急合同シンポジウムとして組まれたテーマは、福島第一原子力発電所事故による放射線物質漏えいについてであった。チェルノブイリ原発事故と福島原発事故とを対比した内容を長瀧重信先生(長崎大学名誉教授)が話された。チェルノブイリ原発事故以後の25年のまとめが国連科学委員会から報告が紹介された。講演の内容は原発の内部で134人が急性放射線症となり、28名が高線量被ばくのために死亡したこと、その他に清掃作業に携わり平均100mSv被ばくした24万人に健康影響はなく、10から50mSv被ばくした周辺住民に明らかな健康影響は認めなかったこと、しかし、汚染された牛乳を飲用した子供の中から6,000人の甲状腺癌が発見され今までに15人が亡くなっているといったことがあった。重要なことは子供の甲状腺癌を除いて他のいかなる健康障害も発生してはいないということである。健康への影響と医療上の対応に関して、放射線生物学の観点から福田寛先生が話され、広島・長崎の原爆被害者のデータで100mSv以下の被ばくによる影響で癌死の有意な増加は認めなかったことを報告された。被ばく・汚染患者の受入についてのことや、正確な情報収集、さらには医療関係者に必要な知識に関しての講演があり、社会の関心が高く重要な項目について学ぶことができた。一般演題の口述セッションで「東日本大震災に伴う福島原発事故の周辺住民の放射線測定と初期医療」についての発表を行った。原発事故の初期医療や放射線測定には核医学専門医が携わることができ、核医学を専門とする医師や学会員は自らの経験を正確に伝えることが責務であろう。マスメディアで最近報道されている情報にはサイエンティフィックでない場合がしばしば見受けられるが、今回のシンポジウムで信頼性の高い情報発信がされたように思う。
 一般の方に対して市民公開講座が企画され、長寿のための生き方について今年100歳となられた日野原重明先生が話された。2050年には65歳以上と以下の比が1対1となり高齢者が半分を占める社会になる。そんな中で寝たきりにならずに元気でいるためには、病気はしたがそのために得たものが多いと考えることや病気をしたために患者の気持ちを理解することができたと前向きに考えることが重要である。さらに武士道の精神についての講演や放射性物質漏えいについての公開講座が組まれ社会に対して正確な情報発信がなされていた。

続きは「RadFan12月号」(2011年11月下旬発売)にてご高覧ください。