第51回日本核医学会学術総会見聞記
〜放射線物質漏えい対策と核医学診療の社会的正義〜
金沢大学附属病院核医学診療科
松尾信郎
-緊急合同シンポジウム(放射線物質漏えい対策)-
緊急合同シンポジウムとして組まれたテーマは、福島第一原子力発電所事故による放射線物質漏えいについてであった。チェルノブイリ原発事故と福島原発事故とを対比した内容を長瀧重信先生(長崎大学名誉教授)が話された。チェルノブイリ原発事故以後の25年のまとめが国連科学委員会から報告が紹介された。講演の内容は原発の内部で134人が急性放射線症となり、28名が高線量被ばくのために死亡したこと、その他に清掃作業に携わり平均100mSv被ばくした24万人に健康影響はなく、10から50mSv被ばくした周辺住民に明らかな健康影響は認めなかったこと、しかし、汚染された牛乳を飲用した子供の中から6,000人の甲状腺癌が発見され今までに15人が亡くなっているといったことがあった。重要なことは子供の甲状腺癌を除いて他のいかなる健康障害も発生してはいないということである。健康への影響と医療上の対応に関して、放射線生物学の観点から福田寛先生が話され、広島・長崎の原爆被害者のデータで100mSv以下の被ばくによる影響で癌死の有意な増加は認めなかったことを報告された。被ばく・汚染患者の受入についてのことや、正確な情報収集、さらには医療関係者に必要な知識に関しての講演があり、社会の関心が高く重要な項目について学ぶことができた。一般演題の口述セッションで「東日本大震災に伴う福島原発事故の周辺住民の放射線測定と初期医療」についての発表を行った。原発事故の初期医療や放射線測定には核医学専門医が携わることができ、核医学を専門とする医師や学会員は自らの経験を正確に伝えることが責務であろう。マスメディアで最近報道されている情報にはサイエンティフィックでない場合がしばしば見受けられるが、今回のシンポジウムで信頼性の高い情報発信がされたように思う。
一般の方に対して市民公開講座が企画され、長寿のための生き方について今年100歳となられた日野原重明先生が話された。2050年には65歳以上と以下の比が1対1となり高齢者が半分を占める社会になる。そんな中で寝たきりにならずに元気でいるためには、病気はしたがそのために得たものが多いと考えることや病気をしたために患者の気持ちを理解することができたと前向きに考えることが重要である。さらに武士道の精神についての講演や放射性物質漏えいについての公開講座が組まれ社会に対して正確な情報発信がなされていた。
続きは「RadFan12月号」(2011年11月下旬発売)にてご高覧ください。