順天堂大学医学部附属順天堂医院放射線部
木暮陽介
はじめに
2020年4月から医療法施行規則一部改正に伴い、診療用放射線に係る安全管理体制に関する規定が施行された。この安全管理体制の確保においては、「医療放射線安全管理責任者の配置」「安全利用のための指針策定」「安全利用のための研修」「被ばく線量の記録・管理」「過剰被ばく時等の対応ならびに体制」「患者との情報共有」等が示されているが、東京都福祉保健局から配布されている「令和4年度病院自主管理チェックリスト」においては、表1に示すように診療用放射線機器の品質管理の実施について記載されている。
品質管理では、ファントムを用いた画像評価やX線出力測定、被ばく線量測定、散乱X線分布図の作成等があげられるが、多くの診療用放射線機器を有する大規模施設では定期的にこれらの品質管理を行うことはとても労力を伴う。しかし、X線装置品質管理用ツールであるRaySafe ThinX RADを用いれば、一般撮影装置、ポータブル装置のX線出力測定を簡便に行うことができるので、「お気に入りの製品」として本稿で紹介したい。
RaySafe ThinX RADの特徴
RaySafe ThinX RAD(Unfors RaySafe社)は、他のX線QAアナライザのようにソフトをインストールしたパソコンと半導体検出器とを接続し、煩雑な画面操作を経てX線出力測定を行うのではなく、手のひらサイズの測定器のみをX線ビームの下に設置し、照射を1回行うだけである。測定器はX線を検知すると自動的に電源ONして測定を開始し、管電圧(kVp)、線量、線量率、半価層(HLV)等の基本的なパラメータを同時測定でき、各種測定値を液晶画面に表示する(図1)。各種設定やレンジの選択等は全く不要であり、ボタンやメニューもなく、非動作状態が2分半続
くと自動で電源OFFになり、バッテリ寿命も1年以上あるので、事実上メンテナンスも不要である。
また、アクティブ補償機能はUnfors RaySafe社独自の技術であり、マルチセンサと高度な演算方式によって自動的にビーム線質を判断するため、ビームろ過の変化があっても管電圧(kVp)および線量測定値が自動的に補正されるようになっている。測定後の補正をせずに、高精度の測定結果が得られるといった利点がある。
RaySafe ThinX RADの仕様
①管電圧(kVp)のレンジは45~150kVp、分解能は0.5kVp、不確かさは3%
②線量のレンジは>70kVで20μGy~999mGy、50kVでの最小線量は100mGy、分解能は1μGy、不確かさは5%
③線量率のレンジは>70kVで0.1mGy/s~100mGy/s、50kVでの最小線量率は0.5mGy/s、分解能は0.01mGy、不確かさは5%
④半価層のレンジは1.0~10.0mmAl、分解能は0.1mmAl、不確かさは10%または0.2mmAl
⑤照射時間のレンジは10ms~10s、分解能は1ms、不確かさは0.5%、バンド幅は0.5kHz
⑥パルスのレンジは3~999パルス、2パルス間の最大時間は375ms、不確かさは1パルス(X線発生装置の波形がパルスである場合、RaySafe ThinX RADも自動的にパルスを表示する)
当院での一般撮影装置のX線出力測定状況
当院は1号館とB棟という建物それぞれに一般撮影室、X線TV室、CT室、MRI室、血管造影室等がある。一般撮影室は、1号館地下2階に1室、地下1階に4室、B棟2階に2室、3階に1室の計8室ある。
1号館地下1階にある No.9 一般撮影室(DR-ID 300CLFUJIFILM/島津製作所)におけるX線出力測定時の外観を図2に示す。また、測定結果(設定値は管電圧50~130kVp、管電流100mA固定、照射時間50ms固定、SID 100cm固定)の一例を表2に示す。
管電圧変化に伴う5回の管電圧測定値(平均値と標準偏差)は、それぞれ48.9±0.4kVp、59.3±0.3kVp、69.4±0.2kVp、79.9±0.2kVp、89.8±0.3kVp、99.4±0.4kVp、111.0±0.7kVp、121.2±0.4kVp、131.4±0.9kVpと安定しており、線量測定値も103.6±1.9uGy、158.0±5.2uGy、222.0±5.6uGy、298.6±11.3uGy、371.2 ± 8.3uGy、446.6±7.5uGy、552.0±13.5uGy、640.8±14.2uGy、728.2±17.5uGyと安定している。また、照射時間も設定値が50msに対し、45回における測定値は50.8±0.5msと非常に安定していた。
当院での一般撮影装置のX線出力測定は3ヶ月毎に行っている。1号館とB棟という建物ならびに階数も異なる一般撮影室にて測定するため、電離箱線量計だとウォームアップが必要であったり、気温・気圧の影響、取扱いが面倒ということもあり、半導体検出器は非常に便利である。また、ソフトをインストールしたパソコンを準備したり、半導体検出器と接続するといった手間もないため、専門的な知識や専用のパソコン等がなくてもRaySafe ThinX RADが1台あれば、誰でも簡単に測定でき、日常点検等と同様な感覚でX線出力測定が可能である。
当院でのポータブル装置のX線出力測定状況
ポータブル装置は1号館地下2階に3台、5階手術室に1台、8階に1台、11階に1台、B棟2階に3台、4階に1台、5階手術室に1台、15階に1台の計12台がある。
1号館地下2階にあるポータブル装置(Certas MX-700 KenkoTokina)のX線出力測定時の外観を図3に示す。また、測定結果(設定値は管電圧50~110kVp、5mAs固定、SID 100cm固定)の一例を表3に示す。
管電圧変化に伴う5回の管電圧測定値(平均値と標準偏差)は、それぞれ49.0±0.0kVp、59.4±0.2kVp、70.6±0.2kVp、80.1±0.4kVp、91.4±0.2kVp、102.4±0.5kVp、109.4±0.5kVpと安定しており、5回の線量測定値も93.6±0.5uGy、142.4±0.5uGy、205.2±0.4uGy、260.6±0.5uGy、339.0±0.0uGy、413.6±0.5uGy、472.4±0.5uGy、5回の照射時間も52.0±0.0ms、62.0±0.0ms、69.0±0.0ms、79.0±0.0ms、91.0±0.0ms、105.8±0.4ms、176.0±0.0msと非常に安定していた。
一般撮影装置以上に様々な場所で保管されているポータブル装置においても、RaySafe ThinX RADを用いたX線出力測定はとても使い勝手が良く、短時間での測定が可能であり、当院においても半年毎にX線出力測定を行っている。
まとめ
RaySafe ThinX RADは「使いやすさ」「速さ」「精度」という三大原則に加え、他のX線QAアナライザと比較しとても安価であり、一般撮影装置やポータブル装置のX線出力測定を行う際のX線装置品質管理用ツールとしてはリーズナブルな製品である。今後の診療用放射線に係る安全管理体制を進めていく上で、施設に1台購入してみることをお薦めしたい。