愛知医科大学病院 中央放射線部 主任
多和田有花
はじめに
マンモグラフィは乳がん診療において欠かすことのできない画像診断の1つであり、さらに近年、デジタルブレストトモシンセシスの有用性が見出され、その活用が広がっている。
当院(愛知医科大学病院)は精密検査施設であり、マンモグラフィにおいて、多くの患者さんに2Dとトモシンセシスの併用撮影を行っている。トモシンセシスは、乳腺と乳腺との重なりや乳腺と病変との重なりが減少することによって、描出能及び診断能の向上に大きく寄与することは実際に検査を担当している中で実感しているが、2Dに追加撮影となるため、被ばく線量の増加が懸念であった。
当院では2021年度に乳房用X線撮影装置の更新が決定し、機種選定にあたり、複数機種の画像デモンストレーションを実施して各装置の画質や撮影線量を確認した。また、操作性については導入している施設に話を伺った。約半年間の検討により導入機種を決定し、2022年1月に新装置に更新した。また、患者さんの負担軽減を考慮し撮影室のレイアウトを一新、被ばく線量の低減や患者さんに合わせた撮影モードの選択、圧迫時の痛み軽減などを実現することができた。
私がおすすめする装置として、今回当院に導入したFUJIFILM社製AMULET Innovality(図1)を紹介する。
AMULET Innovality
・高画質と低線量の両立
本装置は、高精細画素サイズ(出力画素サイズ50μm)と高いDQEを可能とした直接変換方式フラットパネルを搭載し、独自の画像処理技術である“ISC:線質補正技術”と“ FSC:微細構造鮮明化処理”により高画質と低線量を両立している。
画質については、導入前に実施した画像デモンストレーションにおける参加者からのアンケート調査で、本装置が最も高い評価であった。後に述べるが、撮影線量は低減したにも関わらず、2Dにおける微小石灰化の視認性が向上し(図2)、コントラストは同等、粒状性は改善した。
被ばく線量については、導入から日が浅いため2ヶ月間の集計、表示値での評価ではあるが、当院の以前の装置と比較して2Dは約25%、トモシンセシスは約20%の低減が認められた。DRLs2020との比較においても2DはDRL臨床値未満、トモシンセシスはDRL臨床値と同等という結果が得られた。当院では、患者被ばく線量管理をバイエル社のRadimetricsを使用して行っているが、以前はトモシンセシスについてRadimetricsでの運用が難しい状況であった。しかし、本装置導入のタイミングで運用が可能となり、現在では2Dとともに効率的かつより詳細な線量管理ができるようになった(図3)。今後も画質評価とともに線量の最適化を進めていきたい。
・患者さんに合わせた撮影モードの選択
トモシンセシスは、短時間撮影と低線量を優先するST-modeと、深さ分解能を優先するHR-modeの2つのモードを搭載しており、撮影目的等で使い分けが可能となっている。当院では現時点で、FADや構築の乱れを指摘された精査目的の検査では、より重なりを分離した詳細な構造を確認することでさらなる診断能向上に繋がるHR-modeを使用(図4)、その他の精査目的やフォローアップ目的の検査については、診断能向上と患者さんの負担軽減が両立できるST-modeでの撮影を行っている。今後も検討、評価を重ね、症例毎により適した撮影モードを使い分けることで、検査精度を高めていきたい。
・最適線量での撮影
これまでインプラント挿入乳房の撮影時、AECを用いたAuto撮影では、インプラント領域が選択され過大線量になってしまうためにmanual撮影を実施しており、撮影条件の設定に苦慮することがあった。本装置には、プレ撮影画像から乳房内における乳腺位置を自動解析し、乳腺領域に対し適切な線質・線量での撮影が可能となるintelligent AECを搭載しており、インプラントに関わらず乳腺領域を識別できるため、Auto撮影による最適線量での撮影が可能である。導入後、インプラント挿入乳房の撮影経験はまだ少ないが、Auto撮影にて過大線量など撮影条件不良による再撮影はない。これから症例を重ねていく中で、被ばく線量の最適化や低減だけでなく、圧迫回数の減少による患者さんへの負担軽減にも繋がっていくことを期待している。
・痛み軽減への工夫
マンモグラフィにおける“圧迫” は画質向上や被ばく低減のためにとても重要な要素であるが、患者さんにとっては痛みを伴う行為であるため、検査を敬遠する大きな一因となっている。本装置には、乳房全体にフィットすることで圧迫圧を分散することが出来るFit-Sweet圧迫板(図5)が搭載されており、当院では、圧迫時に乳房厚が均一になりにくく、通常よりも痛みを伴うことが多い部分切除後の方や乳腺量の多い若年層の方などに使用している。検査後に患者さんから「前回より痛くなかった」「これくらいの痛みなら次回も検査を受けようと思う」などのお声を多くいただき、効果を実感している。
また、撮影台が丸みを帯びた形状であることで、撮影台の端と身体との接触面が広がったことや、先細り形状でMLO撮影時に腋窩から上腕へのフィット感が増したことなども痛みの軽減に繋がっていると感じている。
・撮影室内での読影環境の向上
コンソールには2Mカラーモニタに加えて、高精細5Mモノクロモニタを接続することにより、検査中でも読影環境と同等レベルで画像確認ができる(図6)。追加撮影の必要性の判断や、バイオプシー時のターゲティングにおいて視認性が向上したことで、適切な追加撮影の実施、精度の高いターゲティングが可能となった。
またPACSとの接続による過去画像表示機能が備わっており、以前は撮影室外のモニタで行っていた検査前の過去画像確認や、検査中の画像比較を瞬時に行うことができ、スループットの向上に繋がっている。
・安心感につながる環境の整備
マンモグラフィは痛みや羞恥心を伴うという特殊性から、患者さんの不安を軽減しリラックスできるような環境整備が大切だと考えている。
本装置には、デコレーションラベルの貼り付けやライティング機能が搭載されていることから、無機質なイメージのある撮影装置にあたたかみを感じることができるようになり、患者さんの緊張を和らげる一助を担っている。さらに、患者さんから「装置の印象が変わった」などとお声掛けいただくことも多く、コミュニケーションツールの一つにもなっていると感じている。
さらに今回の更新では、装置デザインに合わせて検査室の壁紙や什器を一新すると共に、検査中に室内スピーカーから音楽を流せるよう整備を行うなど、患者さんがよりリラックスした状態で検査を受けていただけるよう工夫を行った(図7)。
・バイオプシー体位の変更
当院では従来装置よりトモシンセシスバイオプシーを実施しているが、撮影室のレイアウト上、患者体位は坐位で行っていた。生検中に気分不良をきたし、中止や延期せざるを得ないという経験が幾度もあった。今回、撮影室内のレイアウトを変更することで、側臥位でのバイオプシーが可能になった(図8)。気分不良の原因は体位によるものだけではないが、体位を変更した後、現時点で気分不良による中止や延期はない。また、当院で両体位でのバイオプシーを経験した患者さんから、「寝た体位の方が楽だった」との感想をいただき、確実に負担軽減に繋がっていることを実感している。今後、気分不良による中止件数が減少することを期待している。
さらに今回、側臥位でのバイオプシーをより安全かつスムーズに実施できるようタカラベルモント社製診察台EX-MGTを導入した。天板シート部に落とし込み部があることで患者さんの生検体位確保が容易にでき、位置変更が可能な胴受けや補助上肢台により生検姿勢が安楽に保持され、安全な生検の実施に繋がっている。また、当院の検査室の広さに合わせ、診察台寸法を標準仕様の1,900mmから1,700mmに変更していただいたことで、スタッフの導線が十分に確保でき、一層スムーズな生検が実施できる環境を整えることができた。
今後への期待
AMULET Innovalityは高画質を担保しつつ低線量を実現し、患者さんへの負担軽減に繋がる様々な機能を搭載している。導入後約3か月使用して、その効果を日々実感しているが、少数例ではあるものの高濃度乳房における乳腺内コントラストや鮮鋭度の不足を感じることがある。そのような症例に対して、新たな画像処理技術であるDynamicVisualizationⅡが有用とのことなので、当院でも導入を検討していきたいと考えている。
今後も製造業者には、診断能の向上や患者さんへの負担軽減に繋がるさらなる技術開発を期待するとともに、自身の知識や撮影技術、読影技術を高めることにより、より一層診療へ貢献できるよう研鑚を積んでいきたい。