連載『point of view』第4回 宮城整形外科医院院長 宮城知之氏(Part 1)

2011.10.28

web連載「point of view」は、各回のテーマに対し様々な分野の医師にご意見を伺い、
その鋭い視点などを深く探るコーナーです。

今回のテーマは、「医療現場で市販のデジタルグッズをうまく活用するアイデア」です。

「point of view」の連載第4回目は、福岡県行橋市にある「宮城整形外科医院」の宮城知之先生にお話を伺いました。
宮城先生は、市販のデジタルグッズを医療の現場で活用しようと模索する、医療ITの達人です。

 
 
●宮城先生は、Apple製品を好んで使用しているそうですね。

 昔からMacが好きだったので、仕事でも活用しています。Windowsに比べると、ソフトウェアなどの選択肢が狭まってしまうのが難点です。また、今でこそ低価格で買えるようになりましたが、開業当時はまだまだ高く痛い出費だったのを覚えています。ですが、Macはネットワークの接続や普段の使い勝手が素晴らしく良いため、なかなか離れられません。iPhoneやiPadが世間で非常に流行していますし、Macベースの作業場も今では現実的な選択肢の1つだと思っています。

 
 
●電子カルテや画像ビューアーは使用されていますか。

 アガペの「MindTalk」という、Macにも対応した電子カルテを使用しています。有名ではないですが、使い勝手が良いのが特徴です。画像ビューアーは特に入れていません。すべてデジタルデータで画像を見ているわけではなく、フイルム出力もまだ行なっているからです。完全にデジタルへと移行しないのは、高齢の患者さんには、目の前でフイルムを見せてあげた方が分かりやすいと考えていることと、個人的にはまだシャーカステンにフイルムを挿すのが好きなためです。
 
 
 
●撮影装置はどのようなものを設置しているのでしょうか。

 CRとMRI(0.2T)があります。個人病院の院長なのでどうしても意識してしまうのですが、MRIはかなり値が張りました。保守料もかかりますので、ランニングコストも馬鹿にできません。しかし、それだけ高額でも、データの保存形式は5インチMOです。メーカーに「せめてDVD-Rに対応してほしい」とお願いしましたが、要望は聞き入れてもらえませんでした。バックアップメディアを買うのに、いつも苦労しています。
 
 
 
●薬事法による“医療機器”の制限で、市販のデジタル機器を医療現場で使うことは不自由なようですが、いかがでしょうか。

 医療機器の値段の高さは、現場で働く者にとって悩みの種です。iPadやiPhoneなど、誰でも手が届くようなデジタルグッズをメーカーが活用してくれれば、こういった問題を解決できるかもしれません。そこで障害になってしまうのが薬事法です。医療機器ではないからと、市販品の活用に二の足を踏んでしまうメーカーは、薬事法を気にしているからでしょう。何かあった場合、責任がとれなくなりますから。極端な例では、マウスひとつ変えてもNGになるケースがあります。また、ソフトウェアが「薬事法」の承認を取得できないことも、大きな問題だと感じています。
 
 
 
●そのような中、「OsiriX」が人気と伺っていますが、いかがですか。

 私も愛用しています。「OsiriX」は本当に使い勝手が良く、メインで使用したいくらいです。このソフトは、気になる症例のデーターベース化などに適しています。Macの思想が反映されたソフトなのでしょう。使用感はほとんどiTunesと一緒で、リスト化をスピーディに行えるのが特徴です。もちろん、患者さんに見せるときも楽ですね。スマートリストの名前を打ち込むだけで自動的に更新されますし、他のパソコンとのシェアリングも行えます。日本語表示に一部が対応していないところが玉に傷ですが、名前を英語にすれば解決できるので苦になりません。iPadに画像を送るのも容易です。
 
 
 
●病院内の職員のみなさんでiPadをご活用されているそうですね。

 私は画像を使った症例説明に重宝しています。また、「添付文書HD」というアプリを使い、添付文書の検索を行っています。これを使えば、患者さんから薬の飲み合わせなどを質問されても、楽に答えられるようになります。患者さんの目の前でiPadを開き、疾患の説明用イラストなどをお見せしながら説明すると、理解が得られやすいですから。そうした後に、Macの「AirPrint」を使い、即座に資料を印刷しお渡しできるのもありがたい機能です。あとは、スタンダードに「Safari」とか「Map」も便利ですね。「引っ越すので、他の病院に紹介してほしい」と頼まれた際、患者さんと一緒になって病院を検索できますから。また、職員にもiPadを支給して、院内のスケジュールの共有なども行っています。こういったデバイスを自由に使用できるのが、当院のような小さなクリニックの利点ですね。
 
 
 
●しかし、セキュリティ管理が厳格な病院では、そう簡単に導入できないようですね。

 大規模な病院であるほど、法的問題はもちろん、予算やセキュリティの問題など超えるべき壁が多くなり、簡単には導入できないでしょう。特に、セキュリティの問題が大きな課題ですね。私たちは個人病院ですから、意志決定のスピードも早いですし、自己責任の可能な裁量で新たな工夫をどんどん投入できますが、同じ発想を大病院にも適用できるわけではありません。「Drop Box」などといったサービスもとても便利なので、本当はより多くの医療現場で活用してもらいたいのですが…。それこそ、大震災以降注目を集めている各種のクラウドサービスは、もっと医療現場で活用すべきだと思っています。
 
 
 
●大震災を機に、遠隔読影にも注目が集まっていますね。

 遠隔読影は本当に便利なサービスだと思っていますが、当院のように、依頼に出したい画像が少ない病院にとっては、コストも手間もかかりすぎるのが難点です。まずPACSベンダーと契約し、その後、読影サービスセンターと契約しなければなりません。PACSベンダーがオプションとして読影サービスを展開してくれたら、セットアップが楽になるはずです。また、料金についても、ほとんどのサービスで「基本料金」が発生するのも、利用しにくい理由の1つです。月に1枚しか頼まないクリニックでも、大量に頼む医院でも、同様の基本料金を要求されるのは割高感があります。こういった料金体系では、個人経営のクリニックからすれば頼みづらい気がします。個人的には、1件あたりの読影料が割高でも、基本料金のないサービスがあればぜひ利用してみたいです。

(次回に続く)
連載『point of view』第5回 宮城整形外科医院院長 宮城知之氏(Part 2)は、
こちらから

宮城知之(みやぎともゆき)

昭和45年2月 福岡県行橋市で生まれる。
平成 8年 熊本大学医学部卒業。
平成 8年 九州大学整形外科 入局。以後、関連病院など転々とする。
平成17年9月 九州労災病院 整形外科を退職。
平成17年11月より 宮城整形外科医院を福岡県行橋市にて開院、現在に至る。

開業前後、今に至る愚痴その他を非公式Blog「開業したての整形外科院長の野望(無謀)日記。」(http://miyasei.exblog.jp)で公開中。

Facebook:宮城整形外科医院(医院)

Twitter:miyasei(医院)

<病院情報>
【宮城整形外科医院】
住所:福岡県行橋市大橋1丁目10-17
TEL:0930-26-0123
病院HP:http://www.miyasei.com/