MY BOOKMARK No.2 頭頚部領域撮像時におけるモーションアーチファクト低減を目的としたネックカラーの有用性

2021.11.26

国立病院機構茨城東病院胸部疾患・療育医療センター放射線科

神永直崇 先生

背景と目的

 頭頚部領域における撮像において患者が検査中、咀嚼や嚥下を行うと動きによるモーションアーチファクトが発生し、診断に影響を与える恐れがある。このことから、検査担当者は検査施行前に十分な検査説明を行っている。しかし、MRI検査時間は数十分、1シーケンスを撮像し終えるのにも約2~3分と長い。各施設検査担当者たちは、偉大な先人達の論文や勉強会での知恵を参考に、turbo factorやecho spaceなど様々なデータを取得し、撮像時間と画質と動きを考慮し最適なシーケンスを使用している。このような努力も虚しく咀嚼によるモーションアーチファクトにしばしば遭遇するのが現実である。
 そこでオペレーターは、検査途中に休憩を挟むなどの対応を取ること、体動補正アルゴリズムが組まれたシーケンス(BLADE、PROPELLERetc)やsingle-shot系のシーケンスを用いて撮像を行うことを実施する。それでも稀に診断に耐えうる画像を提供できたかという自責の念に駆られる時もある。
 当院の救急外来から頚髄損傷を疑って撮像した頸椎MRI検査において、ネックカラーを装着したまま撮像したことで下顎骨の動きが抑制され、モーションアーチファクトが軽減された症例に遭遇した。
 そこで検査前のポジショニング時にネックカラーを装着して検査を施行することによって、咀嚼によるモーションアーチファクトを軽減することが可能かを検討したので報告する。

検討Ⅰ 至適頚部固定圧の検討・評価

 使用機器(水戸医療センター)はSIEMENS 社製MRI 装置「MAGNETOM Skyra 3T(VE11、2019年導入) 」 、「MAGNETOMAvanto 1.5T(VA30、2008年導入)」が稼働している。まず、ネックカラーの検討を行うにあたり装着時にどの程度の圧力がかかると固定精度が得られるのか検討した。使用したネックカラーは、自施設の救急外来採用のLaerdal社製スティフネックレクト(素材ネックカラー:ポリエチレン、顎カラー:ポリエチレン)である。圧力センサーは、Arduino社製マイコン「Arduino Uno」、Interlink ELECTRONICS社製「圧力センサーFSR402」を使用し、至適頚部固定圧を測定し圧力センサー調整を実施した。マイコンと圧力センサーを図1の回路図に合わせ、重さを変更しながら抵抗値を計測した。得られた抵抗値からy=145983x−1.274の変換式を導出した。
 健常ボランティア3名(①、②、③)において図4の下顎骨の頂点に評価ポイントを設定し、loose/justfit/tightの3段階における固定圧(N:newton)を求めた。得られた抵抗値の平均値を圧力センサー調整で導出された変換式に代入してgramを算出し、gramから固定圧Nを求めた。
 Justfitでの固定圧Nは0.473、0.396、0.255が求められ、justfitはlooseから約2倍、tightから約1/6倍の0.375Nが至適頚部固定圧であった。

検討Ⅱ ネックカラー(有無)咀嚼(有無)での視覚評価

 健常ボランティア1名において検討Ⅰで得られたjustfit状態で通常検査に使用しているT2WI-TSE横断像にて撮像中にネックカラー(−) 咀嚼(+)をA、ネックカラー(−) 咀嚼(−)をB、ネックカラー(+) 咀嚼(+)をCとして3通りでの撮像した。経験年数5年以上の診療放射線技師5名により「シェッフェの一対比較法」の変法である「中屋の変法」を用い、視覚評価を5点法で実施した。表は、縦方向の列と横方向の行に比較画像が総当たりするクロス表である。一対比較法では、左に表示した画像を列で、右に表示した画像を行で表す。B:ネックカラー(−) 咀嚼(−)とC:ネックカラー(+) 咀嚼(+)の画像が A:ネックカラー(−) 咀嚼(+)の画像に比べ有意に評価が高かった。

結果・考察

 検討Ⅰの結果、固定圧が低すぎると可動域が広まり、固定圧が高すぎると圧迫されすぎる結果になるため至適な固定圧を検証することができた。至適頸部固定圧下において検討ⅡではAのネックカラー(−) 咀嚼(+)が有意差を認められ、Bのネックカラー(−) 咀嚼(−)とCのネックカラー(+) 咀嚼(+)では有意にモーションアーチファクトを低減できた。
 また、今回は健常ボランティアにおいての検証であったが、今後は入れ歯などを装着していた高齢者での検討が課題であるといえる。筆者の経験上、高齢者でのネックカラー使用は効果的であったが、若年者(10代~30代)においてもネックカラーで固定することによる安心も効果的である。比較的安価で入手しやすいネックカラーは実臨床において意図してしない動きをあらかじめ抑制することができる。さらに、sat padや米パッド、BB弾などで磁場均一性を向上させ脂肪抑制対策もネックカラーを装着させた上で、隙間に配置することで圧力を感じず脂肪抑制効果を得ることが可能である。当院では放射線治療で使用されている全身照射用耐圧補正バッグ(ポリアセタール樹脂内封1kg・2kgサイズ(株)クオリタ)を使用している。
 頭頸部領域におけるMRI検査のみならずCT・Angio(頭頸部領域)・R(I 脳血流SPECTなど)検査などにおいて咀嚼を保つことが困難な患者においてネックカラーを装着することでモーションアーチファクトを予防+低減でき、円滑な検査を遂行するための一助となる。
 この報告が各施設における検査効率を向上させ、患者負担軽減に繋がるものになれば技師冥利に尽きます。

謝辞

本稿を作成するにあたり日頃ご指導頂く独立行政法人国立病院機構茨城東病院 薄井真悟先生、放射線科の皆様、同 水戸医療センター井田正博先生、放射線科の皆様、茨城MR技術研究会、国立病院関東甲信越放射線技師会政策医療のための教育・研究部門MRI班の皆様、金居啓介様、梶野顕明様に厚く御礼を申し上げ、感謝する次第です。

<文献>
1) 日本救急撮影技師認定機構(監):救急撮影ガイドライン救急撮影認定技師標準テキスト改計第2版 へるす出版 27-50, 226-235, 2016
2) 池口裕昭ほか: 脂肪抑制Magnetic Resonance Image のためのポリスチレンボール弾を用いた静磁場不均一軽減補助具の試作と効果の検討 日放技術学会誌:71-79, 2013
3) Susumu Moriya et al: Imploved CHESS imaging with the use of ricepads. Journal of MRI. (6)1504-1507, 2010