東京大学医学部附属病院 放射線科
越野沙織 先生
はじめに
皆さんは人工知能(Artificial Intelligence:AI)が放射線科領域の臨床現場で、医療機器として普及され始めていることをご存知だろうか? 無論、従来よりAIの臨床応用への研究・開発は行われてきたが、近年の深層学習(ディープラーニング)の発展により、さらに実用化に向けた取り組みが盛んになりつつある。従来であれば、人間が機械に学習させるために、特徴量を抽出する必要があった。たとえば、猫なら耳が2つあって、ひげが生えていて…といった具合にである。一方、ディープラーニングの利点は、この特徴量を自動で抽出するところにある。猫の画像を入力すれば、自然に学習してくれるのだ。オセロや囲碁、将棋などのゲームで、プロ棋士よりも強いAIが開発されたのはディープラーニングに依るところが大きい。
今回ご紹介するのは、画像診断の能力を向上するAIだ。その名も「EIRL aneurysm(エイル アニュリズム)」。2019年9月に、脳MRI分野におけるディープラーニングを用いたAIでは、日本で初めて国の薬事承認を受けた医用画像解析ソフトウェアである(承認番号 30100BZX00142000)。内視鏡分野では薬事承認を受けたAIが存在したが、画像診断領域では本製品が先駆けとなった。幼少時より将棋指しでAIに興味があった私は、エルピクセル株式会社とEIRL aneurysmの共同研究をする機会があり、薬事承認に向けて読影試験を2回実施した。1回目の読影試験についてはRad Fan 2019年2月号でも触れたが、RSNA2018で口頭発表し、日本からは唯一Student Travel Stipend Awardを受賞した1、2)。2回目の読影試験に関してはECR2020で発表し、Invest in the Youthをいただいた3)。画像診断領域で日本初の薬事承認に携わった者としての観点も併せて、EIRL aneurysmについて詳述していきたい。
EIRL aneurysmの特長
EIRL aneurysmはAI技術を活用し、頭部MR angiography(以下、MRA)画像から未破裂脳動脈瘤と同様の特徴を持つ領域を自動で検出し、その位置を読影者に提示するソフトウェアである(図1)。コンピュータ支援診断computer-aided diagnosis:CAD)の中でも、病変検出を得意とする代物だ。MRA画像がPACSサーバーに取り込まれてから、EIRL aneurysmによる解析が始まり、5分程度で同じ検査の別シリーズとして解析結果が表示される。具体的には、直径2mm以上の脳動脈瘤に類似した候補点を検出し、脳動脈瘤の可能性が高い順番に最大5つの候補点を表示する(図2)。頭部MRA水平断元画像の解析結果の表示画面には、候補点の総数が明示され、丸で囲われた各々の候補点には数字が振られる。たとえば、“1” と番号付けされた候補点は、CADが最も脳動脈瘤らしいと判断した箇所だ。頭部MRAのmaximum intensity projection(以下、MIP)画像にも解析結果を載せることができ、Axial表示かMIP表示、あるいは両方の表示にするかはシステム設定より選択できる。
EIRL aneurysmの性能評価に関しては、大阪市立大学大学院医学研究科 放射線診断学・IVR学教室の植田医師らが2019年にRadiologyから公表済みである4)。CADソフトウェア単独での感度は91.1%であり、従来の特徴量抽出を用いた脳動脈瘤検出CADが80%台の感度であったのに対して、高い感度を示した5)。
EIRL aneurysmの臨床的有用性
では実際に、EIRL aneurysmは臨床現場で役立ちうるのか?それを2回の読影試験で実証したのが、私がRSNA2018とECR2020で発表した研究である。各々の研究結果について、順番に触れていきたい。
1回目の読影試験では、8名の非専門医と8名の放射線診断専門医で、EIRL aneurysmの有無による脳動脈瘤検出能力の比較を試みた。用いた100症例のMRA画像のうち、47症例が脳動脈瘤有症例、53症例が無症例であった。畳み込みニューラルネットワークにはResNet–18を使用し、CADの使用前後で脳動脈瘤を疑う病変に印をつけていただい
た。読影結果にはJAFROC解析を用いた。receiver operating characteristic(以下、ROC)曲線を図3に示した。EIRL
aneurysmを用いると、ROC曲線下面積が非専門医では0.794から0.855(P=0.0006)に、放射線診断専門医では0.910から0.926(P=0.0236)と有意に向上した。非専門医、放射線診断専門医のいずれでもCADは有用であり、特に非専門医において脳動脈瘤の検出能力は格段と向上した。
この時点で、ひとまず医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)の審査を受けた。審査員の中には脳神経外科医がおり、放射線科医だけでなく実際に脳動脈瘤の手術をする脳神経外科医に対しては有用かどうか、再試験するように指示を受けた。そこで行ったのが、2回目の読影試験である。10名の放射線科医(5名は専門医、5名は非専門医)と10名の脳神経外科医(4名は専門医、6名は非専門医)が参加した。用いた200症例のMRA画像のうち、50症例が脳動脈瘤有症例、150症例が無症例であった。1回目の読影試験と同様のタスクを課した。JAFROC解析を行い、読影医別でのfigure of meri(t 以下、FOM:診断の正確さの指標)を算出した(表1)。読影医全体ではCADなしのFOMの平均値が0.7168、CADありのFOMの平均値が0.7514となり、CADを使用した方が読影医の脳動脈瘤検出能力が有意に向上していた(P<0.001)。放射線科医および脳神経外科医において、CADありの方がCADなしよりもFOMの平均値が高く、脳動脈瘤の検出能が向上していた。
私がEIRL aneurysmの共同研究に携わってから足掛け3年、ようやく国内初のPMDAの承認が得られた。
EIRL aneurysmの使用方法
EIRL aneurysmを使用するためには、院内のサーバーにソフトウェアをインストールする必要がある。インストール後に院内PACSと連携され、解析結果がビューワに表示される(図4)。富士フイルムやNOBORI、PSPのビューワにはサービスとして提供され始めており、設置作業費は必要ないが、それ以外のビューワを使用している施設は別途設置作業費(50万円〜)がかかる。表2にEIRL aneurysmの月額使用料金表を示した。毎月の解析検査数により、価格帯は変動する。リモートによる保守作業費用は含まれている。
本製品を使用する際には、CADなしでMRAを読影した後に、CADの解析結果を参照して読影を行う。使用上の注意としては、あくまでEIRL aneurysmの位置付けは医師の読影の補助であり、EIRL aneurysmによる検出結果のみで脳動脈瘤のスクリーニングや確定診断を行うことは目的としていない点である。
実際に使用したユーザーからは、「脳が得意でも、夕方など疲労が溜まってくると、見落としている可能性もあるので、AIがあると安心できる。」「脳を専門としているわけではない医師が脳動脈瘤の読影を行う時にAIが候補点を示唆してくれると助かる。疑わしいものはなるべくあげてほしい。」「明瞭に写っているわけではない、医師が迷ってしまう状況でも、AIがどう判断したかは、医師が最終判断を行う上で、重要な情報となる。」といった声が上がっている。
まとめ
EIRL aneurysmの特長、臨床的有用性、使用方法について述べた。トライアルも含めて、全国100施設以上の病院・診療所で利用され始めている。なお、EIRLシリーズはaneurysmのみならず、2020年8月にPMDAの承認を受けた、胸部単純写真から肺結節を検出する「EIRL chest nodule」や、脳の白質病変等を定量的に評価する「EIRL brain metry」も存在する。いずれもEIRLを一度導入すれば、別途費用はかかるが使用可能である。EIRL aneurysmだけでなく、他のEIRLシリーズも購入を検討される場合は、価格に関してエルピクセル株式会社に相談されたい6)。
ユーザーの声などを受け、EIRL aneurysmの性能改善に日々取り組んでいる。現在の技術に甘んじず、一人でも多くの患者の命が救えるよう、さらに邁進していく所存である。
<文献>
1) 越野沙織: RSNA2018 新年の抱負from USA. Rad Fan 17(2): 26-27, 2019
2) Koshino S et al: Deep Learning based Computer-Aided Detection of Unruptured Cerebral Aneurysms. RSNA2018 Proceedings.
https://www.auntminnie.com/index.aspx?sec=road&sub=mri_2018&pag=dis&itemId=123349
3) Koshino S et al: Deep learning-based automated detection of cerebral aneurysms: a comparison of reading performance between radiologists and neurosurgeons. Insights into Imaging 11(Suppl.1)(34):183, 2020
4) Ueda D et al: Deep Learning for MR Angiography: Automated Detection of Cerebral Aneurysms. Radiology 290(1): 187-194, 2019
5) Štepán-Buksakowska I et al: Computer-aided diagnosis improves detection of small intracranial aneurysms on MRA in a clinical setting.Am J Neuroradiol 35(10): 1897-1902, 2014
6) EIRL Brain Aneurysmhttps://eirl.ai/ja/eirl-brain_aneurysm/