株式会社エムネス
島村泰輝 先生
大量の業務を効率的にこなすには道具を上手く使うことが重要になる。ストレスを少しでも減らしてより自分の業務にフォーカスするために私が利用している二つの道具について紹介したい。
To be able to do a huge amount of work efficiently, it is important to use the tools effectively. I will share with you two tools that help me cutdown on stress and focus more on my work.
はじめに
日々の業務は忙しい。毎日様々なタスクがあり、それをこなしつつ次の目標や、するべき事を見つけて計画を立てて新たな仕事に取り掛かる。いつも計画通りに行くわけではなく、割り込みの案件が発生したり差し戻し案件で予定が崩れることも少なくは無い。膨張し続ける業務を効率的にこなすためにテクノロジーの力はもはや欠かせないものとなった。今回、医療に特化した物ではなく、汎用的かつ実用的(と私が思う)ものをハードウエアとソフトウエアそれぞれ一つずつご紹介したい。
業務に欠かせない「書くこと」のために
まずはじめに文章入力について、キーボードを紹介する。放射線科は文章をよく書く診療科だ。診断医であれば毎日読影レポートとして大量の文字を入力することになる。日本語と英語入力なので apple to apple ではないが、一つの読影レポートに対して300文字の入力だとすると一日20件だとしても6,000字となる1)。月間12万字も入力するとなるとそれなりの量だ。日本語入力をする際にローマ字入力・カナ入力とあるがローマ字入力の場合だとすると母音以外は2回入力で文字となるので、文字数に対して入力回数は約2倍となる。繰り返す衝撃が指に掛かる事は想像に難くない。そこで、タイピングをより快適にするためにPFU Limited社製のHHKB Professionalを私は愛用している(図1)。打鍵感が小気味よく、コンパクトにもかかわらず必要な機能が揃っており機能性も申し分ない。Type-Sとなると静音化されている。指への負担が減り入力のストレスが軽減される事に加え、入力そのものが楽しくなる。キーピッチの設計がホームポジションからなるべく離れずに入力出来る様になっているためtypoも少なくなる。私が購入したときはBluetooth or USB接続であったが、今はどちらも機能が合わさっており、かつマルチ接続もできるので自身のPCと業務用のPCとでキーボードが共有できるようになった。値段はキーボードとしては高価な分類に入るがストレスから解放されることを思えば十分支払う価値はあると私は思う。加えて、読影専用アイテムではないからこそメールや文章作成にも使う事が可能だ。なお、無刻印モデルもあるのでキーボード配列を目視する必要がない、という方はチャレンジすることも検討してみてはいかがだろう。
協力して業務を行う
いまやWeb会議は珍しいものではなく、誰しもが使うことを要求されるツールとなった。そして業務も一人だけでは無く、共同で作業することも増えた。遠方の人とリアルタイムに情報をアップデートする方法が望まれる。その協働作業に極めて大きな力を発揮するのがGoogle Workplaceだ。Googleのプロダクトの多くは無料でも使えるが、なぜ有料版が良いのかについてここで説明したい。
何かを共同で作業するときに日程調整が必要になる。これまではメールで参加者に確認を取り、それぞれからの返信を元にスケジュールを組んで、決定した日程をもう一度通知するという作業が必要であった。参加者数が多いと日数がかかるし、またやりとりをしているうちにミスも誘発しやすくなる。そのため何かしらの方法で収集したスケジュールを管理していると思われるが、見るものが増えると行程が複雑になり他の人に調整役を頼んだり隙間時間にさっと行ったりする事へのハードルが上がりやすい。Googleカレンダーは単に自分の予定を入れておくだけのものではない。自身のカレンダーの公開機能が存在する。もちろんプライベートの内容は非公開設定しておけば良いが業務に関する内容であれば基本的に公開しておき自分が誰とどこで会うなどの情報を入れておくことによって、他の人のスケジュールで自分にも関係するものや興味があるものを見つけた場合に参加を打診したり、おおまかな全体間の把握をしたりすることが可能だ。また公開することによって自身の活動の透明性を担保することができる。仮に非公開で予定を入れていたとしても枠が埋まっていることが他の人にも見ることができるため、どこがスケジュールとして空いているかを把握することが容易に可能となる。公開設定をしておくと予定を立てるときに参加を打診する際にGoogleの方から全員の空いている日時について提案があるためどこが行ける日か探す手間も省ける。オフィスアワーのようにスロットを用意することだって可能だ。私はこの機能によって同僚にいつ空いてるのかをメールで尋ねるのは止めて直接カレンダーから参加依頼を送っている。同僚も基本的にカレンダーを公開しているため参加を断られる事は少ないが、もし都合が悪ければ辞退されるだけであり別の日時を提案することによって円滑なスケジューリング可能となる。
ミーティングはたとえ15分でもGoogle Meetを使うことが多い。最大100名まで同時接続が可能であり上述のカレンダーの予定にリンクを作ることが可能なので導線もスムーズである。携帯電話回線でも特に遅延や音声不良といったトラブルはほとんどない。カリフォルニアのGoogleメンバー達と話す時もMeetを使うが、接続において何もストレスは無い上にキャプション機能のおかげで彼らの英語が字幕になってくれるため理解の手助けにもなる。その他にも内部の全体会議や勉強会などにも気軽に利用する事が出来る。Meetで繋ぎながらSlide(Google製のプレゼンテーションアプリ)で説明し、Docs(Google製のドキュメント作成アプリ)上で共同編集機能を使いながら議事録を作成していく。議事録で疑問等が出た場合、対象となる文言にコメントを入れて回答していただきたい人にコメント上からメッセージを送ることが可能なので誰が回答すべきなのかわかりやすい。いずれもウェブアプリケーションなので添付ファイルもGoogle driveへのリンクを記載するだけで良い。同時に様々なタスクをこなすことができるため、会議が終わってからすぐに自分の仕事に取り掛かることが可能になる。まさにブラウザのみで利用可能なフルwebアプリケーションの強みである。一つ一つは無料でも可能だが、有料版は組織単位での共有が可能なので組織に所属する人なら誰でもアクセス出来る権利・URLを知っていればアクセス出来る権利・組織内外関わらず限定された人のみがアクセス出来る権利を使い分ける事が可能だ。またGoogle Chatを使えばメールよりも気軽に、簡単にメッセージを送り合ったりファイル共有をしたりする事が可能となる。業務上、海外のAIベンダーと話すことが多いが彼らも同じようにSlideを使って我々に説明をしてくる。その後、資料の共有は添付ファイルではなくアクセスコントロール、すなわち資料へのURL提供によってなされ、スライドの二次配布や改変は不可能の状態になっており閲覧のみが可能だ。こちらのSlideのシェアも数回のクリックのみで簡単に行うことができ、かつ相手にできることを指定することができるため共有方法も安全に行える。
COVID-19の影響もあり出張の回数は激減したが、ウェブ面談が一般的になってくれたおかげで面談数自体は増加した。後でまとめて議事録を作成しよう、後でまとめて資料を用意しようとすると忘れてしまったり内容に抜け漏れが発生したりする事があるため、ミーティングをしながら様々なやるべき事に対応することで結果として生産性の向上に寄与していると考えられる。
自動化したいものについてはGoogle Apps Scrip(t GAS)にてプログラムを書くことによりルーチンワークから解放されることだって可能だ。メール、スケジュール、スプレッドシートやドキュメント、アンケートフォーム、ストレージをはじめ、様々な機能が一つのバンドルで全て利用可能となるため、それらを全て統合させた動きを作成することができる。それぞれが独立した提供元の異なるアプリケーションではシステムインテグレーション自体が高いハードルとなるが、同じ所から提供されているためインテグレーション自体には不安がない。われわれはGASを使ってピアボーナスという感謝気持ちを言葉と形で表出する仕組みを構築した。フォームで送信された内容のアドレスを別のスプレッドシートにある対応表で確認し、対象者の上司に当たる人に承認依頼を行い、承認されたら全員に感謝の内容をメールで送付する動きを自動で構築している。これにより業務を離れて手間をかけてくれた同僚に気軽にお礼を送り合う習慣が作られている(図2)。
おわりに
業務を行う際のストレスを減らしたり、テクノロジーの力を借りて効率化したりする事は、自身の本当にやるべきことへ集中できる。時間の余裕やストレスからの解放は心の余裕を作成することになり、それによって本業の質も高まる。道具をうまく使いこなすことでますます日々の生活がより良いものになることを期待したい。
<文献>
1) B Shin et al: “Classification of radiology reports using neural attention models,” International Joint Conference on Neural Networks (IJCNN),Anchorage, AK,4363-4370,doi: 10.1109/IJCNN.2017.7966408, 2017