愛知医科大学病院中央放射線部
清水郁男
日本画像医療システム工業会(JIRA)推計によると、MR装置吸着事故推定件数は、2004年には50件未満であったが、2008年から急に増加しており、2011年には200件以上の吸着事故が発生している。2011年をピークに減少傾向にはあるものの、下げ止まりの状態であると思われ、2020年にも100件以上が報告されている。吸着事故を防ぐことは、患者さんの安全を最優先に考える上で非常に大切なことである。
金属探知機は電磁誘導を利用して金属の有無を探知する機器で、コイルに電流を流して信号を出すため、電流の流れない非金属のものには反応しない(フェライト磁石、ネオジウム磁石などは検知できない)。私のお勧めする装置は、フジデノロ株式会社のMRI用磁性体検知器「MAGGUARD」である。
磁性体検知器「MAGGUARD」(マグガード)
「MAGGUARD」は、医療事故につながる吸着事故の危険性を回避するためのツールとして役割を担っている。当院では、2つのタイプの「MAGGUARD」を導入したことにより、スタッフが安心してMRI検査に臨めるようになった。
「MAGGUARD」は、磁性体検知器であり、金属探知機ではない。金属探知機では検知が難しいヘヤピンやクリップなど小さな磁性体を検知することが可能である。またピップエレキバンのような金属ではない磁性体も検知可能である。金属探知機は、電磁波を発生させるため、医療機器に影響を及ぼす可能性がある。しかし「MAGGUARD」は、電磁波を出さないことから補聴器やペースメーカーにも影響がない。
「MAGGUARD」には、据え置き方(スタンドタイプ・壁掛けタイプ)と携行型(ハンディータイプ)の2種類がある。当院ではスタンドタイプの「MAGGUARD S」(図1)とハンディータイプの「MAGGUARD H」(図2)を使用している。徒歩可能な患者さんについては「MAGGUARD S」、車いすやストレッチャーの患者さんについては「MAGGUARD H」を用いて金属チェックを行っている。「MAGGUARD S」にはオプションとしてマットスイッチがある(図3)。患者さんがマットスイッチを踏んだ時にのみ「MAGGUARD S」がONとなるため、周りの環境の影響を受けることが少ない。マットスイッチを外せば、広範囲で検知可能なため夜間の掃除業者の意図しない侵入時等で効果を発揮する。
スタンドタイプ「MAGGUARD S」
磁性体の有無を音と光で知らせる
これまで当院ではゲートタイプの金属探知機を使用していた。前室の扉の両脇に2本の探知機を設置し患者さんは空港のゲートと同じようにゲートをくぐり検査室へ向かう。金属探知機が反応した場合は、さらに金属確認を行う必要があった。
「MAGGUARD S」は、微小な磁界の変化も検知可能な高感度磁気インピーダンスセンサーを内蔵している。このことにより、検知対象である磁性体による磁場変化を高感度に検知可能である。「MAGGUARD S」の導入後は、患者さんは検査着に着替えていただき、マットスイッチの上に乗った状態で360°回転してもらい磁性体チェックを行っている。「MAGGUARD S」には、6ヶ所に12個のセンサーと共に6個のLED表示があり、音と光で磁性体の位置を教えてくれるため、磁性体特定に要する時間の短縮に役立つ(図4)。磁性体のついた下着やウィッグ、ピップエレキバン®やピアスなどの検知についても成績が良い(図5)。現在のコロナ禍でのMRI検査は、マスクをしたまま行っている施設も多いかと思うが、「MAGGUARD S」はマスクに使われている磁性体についても検知可能である。しかし、マスクの磁性体に気を取られ、補聴器を見逃してしまったこともあった。
自立式で省スペース設計
「MAGGUARD S」は1本で自立式なので、スペースをとることなく、磁性体の検知を行う場所の移動や扉の幅に合わせた設置位置の変更も容易である。床に固定するゲートタイプの金属探知機のような大掛かりな工事は必要ない。
感度の選択
「MAGGUARD S」は、一定の距離にある磁性体からのノイズに対し感度を調節することで、【検知する】・【検知しない】の設定が可能である。設置環境は各施設様々であるので、例えば半径1m以内の磁性体のみ反応する設定が可能とのことである。当院では設置場所のすぐ近くにスタッフが出入りする扉があり、扉の開閉の際に反応している場合もある。調節をしてもらってはいるが、現在は患者さんがマットスイッチに乗っている場合には出入りに注意するよう運用でカバーしている。患者さんの導線を考慮したうえで、「MAGGUARD S」の性能を十分発揮できる場所に設置することが望ましい。
ハンディータイプ『MAGGUARD H』
パッシブ型ハンドヘルド磁性体検知器
「MAGGUARD H」は、パッシブ型磁性体検知器を、MRI用のハンドヘルド方式として実現した検知器である。「MAGGUARD」は音と光で磁性体を知らせてくれるが、「MAGGUARD H」は音とディスプレイのバー表示で磁性体の所持を知らせてくれる。また、バー表示が出ている場所で計測ボタンを離すとセンサーからの距離と磁界の大きさを表示してくれる(図6)。ハンディ型金属探知機では、アルミなどの金属に反応してしまうが、「MAGGUARD H」は反応しない。ゆえに「MAGGUARD H」はMRI対応ストレッチャーやMRI対応車イスに乗ったまま患者さんをスクリーニングすることが可能である(図7)。MRI対応ストレッチャーや車イスでも反応する場合があるようだが、当院のMRI対応ストレッチャーでは、「MAGGUARD H」は反応しない。患者さんをストレッチャーに寝かせた状態のスクリーニングが可能であり、磁性体が検知された場合は距離が表示されるため、判断も容易である。自施設のストレッチャーや車イスを事前にチェックしておく事も大切である。
今後に期待すること
当院でもMRIの撮像に際し、アーチファクトが発生する金属物を検知できなかったという事例があった。スタッフが不慣れな場合もあるとは思うが、検知時に磁性体が「有るのに無い」、あるいは「無いのに有る」というような事ができるだけ少なくなり、MRI検査室に従事するスタッフが、安心して検査に臨めるよう今後も装置の開発を進めていただけることを望んでいる。
次に価格である。価格的にはこれまで使ってきた金属探知機にアドバンテージがある。安全面とスタッフの負担を考えると各施設で考え方が分かれるところであるが、性能を維持しつつ、より低価格で製品を提供していただけることを期待したい。