MY BOOKMARK No.28  1台何役!?万能型64列CT「Revolution Frontier」

2022.02.21

東京医科大学八王子医療センター 放射線部

藤村耕平

 私のお気に入りの装置は、GE社製のRevolution Frontier(以下Frontier)である。当院に2018年11月に導入されて以降、様々な場面で高い汎用性と特徴を発揮し検査を行なってきた。本稿では気に入っている理由について、装置の特徴と臨床経験をもとに紹介していきたい。

当院のCT検査

 当院のCT検査は約2,400件/月、100件/日ほどの検査を3台のCTで撮影している。その中で冠動脈CTやPerfusion CT、4D-CTなどの特殊検査は約6%ほどであり、これらの検査はArea Detector CT(ADCT)で撮影している。残りの94%はルーチン検査が主であるため、ADCTのようなフラッグシップマシンでなくとも、十分に対応可能である。しかしルーチン検査の中にも、呼吸が止められない患者や、体格が大きい患者、体内金属が埋め込まれている患者、腎機能が悪い患者など、CT装置のスペックが必要なケースもしばしば見られる。Frontierはこのようなケースに適応しながら、診療に適切な情報を与えてくれる装置であると考えている。

Frontierの概要

 Revolution Frontierの主な特徴を下記に列挙する。

・最大835mAの高管電流

・最速0.35sec/回転(ルーチン検査でも使用可能)

・最速175mm/secのテーブルスピード

・アーチファクト低減アルゴリズムSmart MAR

・逐次近似応用再構成 ASiR-V

・Garnet Gemstone検出器

・High Definition Scan(高分解能撮影)

・Gemstone Spectral Imaging Pro(GSI Pro : Dual Energy CT)

 冒頭で述べた、呼吸停止が出来ず時間分解能が求められる検査や、体格が大きく線量やノイズ低減技術が求められる検査では、上記の通り、早いスキャン、高い管電流、逐次近似応用再構成が非常に威力を発揮し、従来のCTと比べ高いクオリティーで検査を行うことが可能である。また、体内金属のアーチファクトによって描出が出来なかった部位も、Smart MARにより描出が可能となっている(図1)。

 さらに、本装置はそれだけに留まらず、Garnet Gemstone検出器の恩恵を受け、高分解能撮影、Dual Energy CT(DECT)までカバーしていることが最大の特徴である。

高分解能撮影

 高分解能撮影は、優れた応答特性を持つGarnet Gemstone検出器により通常の2.5倍のサンプリングが可能となることで実現する機能である。図2は高分解能を評価するファントムであるが、通常撮影では識別出来なかった細かなチャートまで高分解能撮影では識別可能であった。これは臨床でも同様であり、図3は同一患者の足関節CTを比較したものであるが、通常の撮影に比べて高分解能撮影では骨梁の見え方が明瞭に描出されているのが分かる。

当院では、この撮影方法を用いることで、従来では描出が不十分であった、内耳CTでの耳小骨描出や、手根骨骨折などの微細な骨折の描出、脳動脈CTでの穿通枝の描出などの目的に対し、臨床利用している(図4)。

Dual Energy CT

 GE社のDECTはGSIと呼ばれており、撮像方式はFast kVp Switching方式を用いている。その特徴として、2つのエネルギーの空間的・時間的位置ずれがない、2つのエネルギー差が高い、FOVに制限がない、生データ領域でのWater&Iodineビームハードニング補正が可能、といった高精度なDECT検査が可能となっている。また、Graphics Processing Uni(t GPU)を搭載していることで画像処理時間が従来よりも約2倍の速度となり、DECT撮影後、Single Energy撮影と遜色ない時間で画像再構成が終了するため、臨床においてストレスを感じることなくDECT撮影を実施することが可能である。

 ここで、当院のDECTの臨床利用について紹介する。

1. 肺動脈血栓塞栓症

 肺動脈血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)の診断には従来、造影CTにて肺動脈内血栓の存在診断、肺血流シンチグラフィにて肺灌流の評価がされてきたが、DECTを用いることにより、これらを同時に評価することが可能となった。PTEにおけるDECTは多数の報告がされており、DECTによる肺灌流の評価は、肺血流シンチグラフィとほぼ同等1)、従来のSingle Energy CTでは評価が困難であった末梢肺血管の塞栓症でも、DECTでは検出率が向上した2)、といった報告で高い評価を得ている。これは本装置を使用した当院でも同様の経験をしている。図5はエコー検査にてヒラメ静脈に深部静脈血栓を指摘された患者である。通常のCTと同様なコントラストである70keVでは、一見PTEを指摘出来ないが、ヨード密度画像であるIodine(Water)では右肺S9,10区域に密度値の低下を認める。Thin Sliceにて再観察すると、この患者はS9、10区域枝直前の末梢肺動脈に血栓が認められた症例であった。この他にも、肺塞栓がない肺血流低下も肺血流シンチと同様に検出可能であった症例も経験している。このように、PTEのDECTは早期での診断が可能であり、重要な検査となっている。

2. 造影剤減量

 DECTの臨床利用として最も多く使用されている検査の一つに造影剤を減量した造影CT検査が挙げられる。この造影剤減量においても様々報告がされており、CT Angiography(CTA)、肝臓などの腹部領域、冠動脈CT等、全身の部位で30〜50%程度の減量が可能となっている3〜6)。当院では体幹部CTA、腹部Dynamic検査、ルーチン造影検査において使用しており、50keVを下限とし50%までの減量を行なっている。図6は閉塞性動脈硬化症(ASO)の胸部~下肢のCTAである。この症例では体重計算から66mlの造影剤を使用する予定であったが、腎機能がeGFR38と低下しており、主治医と放射線科医と相談の上、50%減量し33mlにて撮影を行なった。70keVでは大動脈のCT値が200HUほどであったが、50keVでは400HUまでCT値を向上することが可能であり、DECTが有用であった症例である。このように後から適切な造影コントラストを得ることが出来るのも、DECTの魅力の一つである。

3. その他

 当院で行なっているDECTはその他にも、椎体手術にて挿入したスクリューからの金属アーチファクトの低減、肺腫瘍術前CTでの腫瘍の造影能評価、大腿骨頸部の不顕性骨折の描出、椎体圧迫骨折の描出など様々な領域で、従来画像にプラスアルファした情報により、診断の一助となっている。

まとめ

 当院においてFrontierはルーチン検査から高分解撮影、DECTといった様々なニーズに応えてくれる頼もしい装置である。現在、各社フラッグシップモデルには他にはないそれぞれの特徴を持っているが、このFrontierは特に欠点がない優等生的な存在だと感じる。普段は通常の検査を卒なくこなす普通のCTかと思えば、分解能に特化させたり、さらっとDECTを行うなど、特殊検査を難なくこなしてしまう。64列のCTではあるが1台で何役もこなす、この万能選手の魅力が私のお気に入りの理由である。

〈文献〉

1) Thieme S F et al: Dual energy CT for the assessment of ling perfusion-correlation to scintigraphy. Eur Radiol.68: 369-374,2008

2) Lee C W et al: Evaluation of computeraided detection and dual energy software in detection of peripheral pulmonary embolism on dual-energy pulmonary CT angiography. Eur Radiol.21: 54-62, 2011

3) Sugawara H et al: Comparison of full-iodine conventional CT and halfiodine virtual monochromaticimaging:advantages and disadvantage. Eur Radiol. 29: 1400-1407, 2019

4) Han D et al: Iodine load reduction in dual-energy spectral CT portal venography with low energy images

combined with adaptive statistical iterative reconstruction. Br J Radiol. Epub 2019 Mar22

5) Hyodo T. et al, eds: Iodine load Reduction at Hepatic Dynamic CT using Virtual Monochromatic Imaging with a Fast kVp Switching Dual-Energy CT.RSNA, 2015

6) Oda S. et al: Low contrast material dosecoronary computed tomographic angiography using a dual-layer spectral detector system in patients at risk for contrast-induced nephropathy. Br J Radiol. Epub 2018 Nov 9