さいたま市立病院中央放射線科
石田貴志、榎本克希、佐藤吉海
はじめに
我々が紹介する本当に使いやすい製品は、Philips社製Expression MR200 MRI対応生体情報モニタである(図1)。MRI検査室内は常に高磁場が発生しており、検査時間も長いという特殊な環境下で検査が行われる。そのため小児の鎮静下での検査やMRI 対応植込み型デバイス挿入後の検査、全身状態が悪い患者の検査時には患者急変時に備えたMRI対応生体情報モニタが必要である。本装置は、パルスオキシメータと併用し換気状態を監視できるカプノメータの機能が搭載されており、MRI検査を安全に施行する上で欠かせない機器となっている。
導入への経緯
当院には小児科や、地域周産期母子医療センターとしてハイリスク新生児の治療を行うNICU(新生児集中治療室)、GCU(新生児治療回復室)といった病床があるため、小児MRIの撮像も年間約300件程度あり、そのうちの半数は鎮静が必要な小児の検査である。従来当院で使用していた機器では、SpO2とHRの2項目のみしか測定できなかったため、EtCO2は測定することができず、監視した項目を記録する機能もなかった。そのため検査中は医師がMRI検査室内に入り、呼吸状態を目視で確認しながら検査を行っていた。医師の負担も大きく、検査に従事する診療放射線技師は不安を抱えて検査を行っていた。
そのような検査体制の中、2013年より日本小児科学会・日本小児麻酔学会・日本小児放射線学会から公表されているMRI検査時の鎮静に関する共同提言が2020年に改訂された。共同提言の改訂により患者の監視において、いくつかの項目での推奨度が高められた。「MRIに対応した生体情報モニターの準備」では、元々必須であったSpO2のモニタリングに加え、換気を監視する為、MRI対応のカプノメータを準備し、 EtCO2を監視することが「強く推奨する」となった。「監視内容の記録」では、監視した内容は5分おきに記録することを「強く推奨する」となり、さらにMRI更新時にはMRI対応のカプノメータを含む多機能モニターを設置のうえ、呼吸状態を監視することが「必ずしなければならない」となった。このような背景からMRI検査中の監視とカプノメータの重要性が高まった。
MRI検査時の鎮静に関する共同提言を踏まえ、小児科医師とのディスカッションを重ねた結果、多機能のMRI対応生体情報モニターが必要となり、Expression MR200を導入することとなった。Expression MR200はSpo2より呼吸異常を一早く察知可能なEtCO2をモニタリングできること、監視した内容を5分おきに記録できること、以上の2点よりMRI検査時の鎮静に関する共同提言の指針に則ることができると考えている。ExpressionMR200導入後は、小児科医師や検査に従事する診療放射線技師から安全に検査が施行できると好評である。
Expression MR200の特徴
Expression MR200の大きな特徴として、測定項目の多さが挙げられる。測定可能な項目は①ECG・HR(心電図・心拍数)、②SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)、③EtCO2(呼気終末二酸化炭素分圧)、④Resp(呼吸回数)、⑤NIBP(非観血血圧)の5項目である(図2)。従来使用していた生体情報モニタでは、SpO2とHRの2項目しか測定できなかったことを考慮すると大きなアドバンテージである。
また従来の生体情報モニタは測定する際に、アクセサリプローブを患者と有線でつなぐ必要があった。救命救急センターからの緊急検査や全身状態が悪い患者の場合、末梢ルートや酸素チューブ等が複数つながっているため、生体情報モニタを有線でつなぐことは患者移乗の際にストレスとなることが多かった。Expression MR200はECGとSpO2測定は専用モジュールでワイヤレス測定することが可能であり、患者移乗時のストレス軽減に一役買っている(図3)。
時世に合ったアクセサリ
Expression MR200は、モニタリングアクセサリの豊富さも利点の1つである。SpO2のアクセサリプローブは、リユーザブル、ディスポーザブルの2種類から選択できる。更にリユーザブルクリップでは、成人用・小児用の2サイズが選択でき、ディスポーザブルクリップは新生児用〜成人用まで4つのサイズを選択できる。EtCO2のモニタリングアクセサリも種類が充実しており、EtCO2測定のみとEtCO2測定+酸素投与可の2種類を選択できる。EtCO2測定のみのタイプでは新生児用〜成人用まで3つのサイズを選択でき、EtCO2測定+酸素投与可のタイプでは成人用・小児用の2サイズが選択できる。新生児〜成人まで幅広い年齢層のMRI検査を施行する病院では、サイズを選択できる恩恵は大きい(図4)。
また昨今の検査時の感染対策を考慮すると、SpO2モニタリングのアクセサリプローブがディスポーザブルタイプを選択できることも利点の1つとして挙げられる。当院では救命救急センターを標榜しており、新型コロナウイルス感染症に関する検査結果が出る前にMRI検査を依頼されることがある。その場合の検査の多くが脳梗塞疑いの検査であり、生体情報モニタを使用することが必須となる。そのような環境においてSpO2モニタリングのアクセサリプローブがディスポーザブルタイプを選択できることは感染対策面では非常に有益である。
急変時にも対応
Expression MR200はバッテリーが内蔵されており、本体もワイヤレスで使用することができる。重度の造影剤副作用の症状が発生した事例では、患者とExpression MR200を接続した状態でMRI検査室を退出し、応急処置時にも引き続き使用する事ができた。応急処置時に記録した測定結果は電源を切るまで本体に記録されている為、時刻を紐付けた応急処置一連の状況記録を確認することができる。
本体とECG・SpO2ワイヤレスモジュールはそれぞれフル充電で約7時間は使用できるので、こういった場面でもバッテリー面は不安なく使用できる。ワイヤレスで使用し、応急処置時に他の生体情報モニタと付け替える手間がないことは、スタッフが処置に集中でき、絶え間ない患者の観察と記録を行える点で、急変時対応の際には非常に有用だと感じている(図5)。
導入後の課題
ここまでExpression MR200の利点について述べてきたが、導入後は戸惑いもあった。検査室側のExpression MR200のコンソール上ではモニタリングできているが、操作室側に置くIP5のコンソール上ではモニタリングの数値を全く受信できないことが多々あり、たとえ受信できてもすぐに途切れてしまうことが頻発していた。MRI検査のプランニング中は視覚的なモニタ確認は疎かになりがちであり、アラーム音での聴覚的な情報が重要となる。小児の鎮静下の検査では、小児科Dr.が共に確認しているとはいえ、検査施行する際の問題点となっていた。また、他にも問題点があり、MRI検査時の鎮静に関する共同提言により鎮静時の記録を残すことに対する推奨度が「強く推奨する」になったことは前述した通りである。Expression MR200では操作室側のコンソール上でモニタリングができていたとしても、操作室側のIP5のモニタで受信できていなければ記録が残らない。つまり、検査中5分毎に記録の設定を行い、モニタリングが良好であっても操作室側のIP5のモニタで受信できていなければ、記録は一切残らないということになる。
Expression MR200では検査室側と操作室側のモニタを繋ぐアンテナを天井裏に配置して、そのアンテナの向きに合わせて検査室側と操作室側にモニタを置く必要がある。当院ではExpressionMR200導入後に、検査の運用方法の見直しを行い、当初想定した位置とは異なる場所にモニタを配置したため、受信感度が著しく低下していた。そのためアンテナの位置を再調整する必要があった。アンテナの再調整後は良好なモニタリングができているが、モニタの配置を変更する際は注意が必要である。
安全面でも課題が挙がった。当院では、Expression MR200を2台、操作室側コンソールIP5を1台で運用している。モニタリングが必要な場合は、使用するMRI室の操作室にIP5を移動させる。ここで気をつけなければならないのが、IP5は磁性体であり、MRI室には絶対に持ち込んではならないということである。モニタリング装置を要する検査の場合、検査を行う側も様々な部分に目を配る必要があるため、MRI検査に不慣れなスタッフの場合には検査室内への持込みの注意が必要である。そのため当院ではIP5本体の目立つ部分に注意書きを記載し、定期的に行っている放射線科スタッフに向けたMRI検査急変時シミュレーションの一環でExpression MR200及びIP5の使用法と注意点の周知を徹底している(図6)。
おわりに
Expression MR200は測定項目が多数あり、モニタリングアクセサリの豊富さなどの利点も相まって、MRI検査を安全に施行する上で欠かせない機器となっている。ただし、ExpressionMR200を使用し、安全にMRI検査を施行するためには、機器の精度管理は重要となる。当院の医療安全委員会と協力し、アラーム値の設定や時刻合わせ、電波の受信状況など、今後も機器の精度管理を怠らずに常に質の高い状態で使用できるように努めていく。