川崎医科大学附属病院
阿部俊憲
はじめに
私は「使いやすさ」=「装置の機能として装備している」+「ルーチン使用ができる」と考える。また、その機能が「かゆいところに手が届く」と言うことを伴っていれば「検査効率アップ」と「快適な職場環境」の実現につながる。「検査効率アップ」と「快適な職場環境」は患者さんの検査環境の向上につながり、私のモチベーションとなる。
今回は、SPECT装置本体の「機能」のみだけでなく、その周りに存在する「機能」も含めたNM830の「使いやすさ」について紹介したい。
画質向上が実現:Swiftscan Planer
当院に導入されているガンマカメラは、GE社製のSPECT装置NM830である(図1)。NM830では、新しく開発された低エネルギー高分解能高感度コリメータ(Low Energy High Resolution Sensitivity:LEHRS)が搭載されている。LEHRSコリメータは、従来の低エネルギー高分解能コリメータよりも1.2倍感度が向上しながらも分解能は従来と同じ高い分解能を発揮する最適なコリメータ設計となっている。新しい機能を生かすためのソリューションとしては、Clarity2D処理が使用可能である。この処理方法は、Planer撮影の画像強調後処理で、関心領域(例えば骨)のシグナルを劣化させることなく画像ノイズ(ピクセル標準偏差)を減少させることができる技術である。日常業務では、このClarity 2D処理が画像の解像度とコントラストを向上させ、検査効率アップにつながっている。特に骨シンチグラフィーでは、画質が以前よりも良くなったと医師からも好評である(図2)。
被ばく低減も可能:Swiftscan SPECT
SPECT撮影は連続収集に比べて、step&shoot収集の方が分解能の劣化が抑えられる。従来、step&shoot収集はstep間の移動中のカウントを加えてしまうと、分解能劣化につながり収集しない。新しい技術であるSwiftscan SPECTは、step間の移動中のカウントを収集しつつも、分解能劣化を抑えるために前後のstepにカウントを半分ずつ振り分けることができる(図3)。この技術によって分解能は劣化せず、従来よりも20%多いカウントを得ることができる。骨シンチグラフィーでは、追加でSPECT撮像を行う場合があり、カウントを多く得られることで、収集時間の改善が可能となり、検査時間の効率アップにつながっている。
また、当院の心筋血流シンチグラフィーではタリウムを使用している。この検査は検定日の適正化により、従来に比べて実投与量が減る場合があるがSwiftscan SPECT撮像では収集時間を延長することなく検査できる。この技術は患者さんの被ばくを抑えつつ、画質の維持も可能である。
操作性が抜群に良い:テーブルルーラー
NM830にはテーブルルーラー機能がある。テーブルルーラーは撮影範囲を決める際、使う寝台横に配置された目盛の一つ一つがスイッチになっており、このスイッチを押すと、撮影範囲の入力ができる(図4)。例えばwhole body撮影において撮影開始の位置の寝台横に配置された目盛のスイッチを押し、撮影終了の位置の寝台横に配置された目盛のスイッチを押し、撮影範囲の入力は完了する。後はガントリのハンドコントローラを押せば撮影の高さまで寝台の上昇、検出器までのスライド、収集、収集後のスライド、降下までが自動で行われる。ハンドコントローラを一度押せば手が離せるので、ポジショニング中に患者さんの毛布を掛けるなどのケアができる。この機能は、後述する他施設でも好評である。
安全性だけではない:内蔵型心電同期装置
検査で使用する心電同期装置は装置に内蔵されている。この内蔵型は寝台からケーブルが取り付けられているので、外付け型に比べてケーブル巻き込みなどの事故のリスクが低い。それだけでなく、外付け型では保守期間がガンマカメラと異なる場合があり、比較的長く使用するモダリティーであるSPECT装置の場合、更新の前に心電同期装置の装置寿命が来るケースがある。内蔵型であればそういった心配もなく、SPECT装置の更新まで心電同期装置を使用可能である。
以前の検査を引き継ぐ:アラジン
新しい装置が導入されることで、これまで述べてきた「良い点」は多々あるが、「困った点」として検査の継続性が保てないことがある。これまで行っていた処理が新しい装置ではできないとか、そもそも画像のレイアウトが変わって読影しづらいとか、いろいろな細かい問題が出てくる。この細かい問題を解決するのがアプリケーション作成プログラムのアラジンである(図5)。検査ガイドラインに沿った処理アプリケーションなどのアラジンもあるが、従来の処理の継続やレイアウトのちょっとした変更などのカスタマイズが簡単にできる。現在、汎用型のガンマカメラは海外性を選択するしかないがアラジンの作成拠点は日本にあり、国内で作成に当たってくれるのが助かる。日本語での対応で、何回でも修正が効くところも使い勝手が良くルーチン使用ができる。
薬剤のノウハウを生かした解析アプリケーション:DaTQUANT
レビー小体型認知症、パーキンソン症候群の診断薬ダットスキャンは、海外ではGE社が製造販売している。ダットスキャンの解析アプリケーションDaTQUANTは薬剤の面からの視点で開発されたアプリケーションということで、自動位置合わせ、自動ROI取り、線条体を尾状核と被殻の前部、被殻の後部に分けて自動解析する。自動位置合わせと自動ROI取りにより操作者によるばらつきが無く、線条体を尾状核、被殻の前部、被殻の後部に細かく分けることで臨床症状とリンクした検査結果を提供することができる。再現性・定量性の高さは、今後、セラノスティクスが一般化することで核医学の新しいステージが予想され、薬剤知見を基にした解析アプリケーションへのアプローチのよる高精度の解析が期待できる。
画面共有による操作説明:TiPVA
コロナ禍で威力を実感しているのは、院内のワークステーションの画面をメーカにあるワークステーションの画面と共有して操作説明を受けられる機能である。例えば、電話の操作説明では、どのアイコンをクリックして良いのか半信半疑で操作説明を受けて、処理が始まって結果が出てから「操作が合っていた」ということになる。しかし、TiPVAはワークステーションの画面共有を行うとで、説明を受けながら目で確認できるため、まさに一目瞭然である。リアルタイムで操作説明を受けることで、ストレスが少なく、時間の節約になる。また、現在はタブレット運用で故障時にも早急にメーカと対応が可能となり、快適な職場環境の実現につながっている(図6)。
初期導入立ち上げ時の味方:使用経験のシェア
当院では比較的早くNM830を導入し、現在、私の使用経験を新規導入施設にシェアしている。核医学検査で使用する装置は、当院導入前に使用していた他メーカ装置がガンマカメラのベストセラーである。その装置からNM830への更新の施設は多く、操作性の移行に関しても同じような状況である。自らの実体験をシェアすることで、アプリケーショントレーニングでは得られないような、従来の装置から移行した場合の情報をシェアすることで、早期に装置本来のパフォーマンスを発揮することができ核医学検査全体の向上につながると考える。また、導入後もアプリケーション担当を通じて気軽に他施設と情報交換できるというところも、NM830の「機能」として気に入っている。昨今ではWEBにて、遠隔地でも気軽に情報交換ができ、九州の複数の施設とNM830への移行に関し情報提供を行ったところである。早期に装置のパフォーマンスを発揮することで、情報交換会では当院で経験していない撮影のコツを教えて頂くこともできる。コロナ渦により、WEBを使った情報交換は、今後の核医学の発展に有用なツールであると考えられる。
●魅力ある製品:NM830
「使いやすい」と言うテーマで装置の本体の新しい機能、新しい機能を生かすためのソリューション、さらに一施設の殻を破り装置のパフォーマンスを十分に発揮するための「WEB」と言う装置本体ではない核医学を進化させるツールに関し紹介した。
核医学検査は種類が多く、収集条件や解析法もそれぞれ異なり、知識と経験を有する。それらを解決できるNM830を使用することで、当院の診療放射線技師は高いモチベーションで核医学検査を施行し、医師に画像を提供することができる。もはや欠かせない相棒である。ちなみに、当院には2台のNM830が稼働している。この事実こそがNM830の魅力を物語っているといえるだろう。