医療法人社団 共生会 中条中央病院 診療放射線科 技師長
関川高志
はじめに
当院では2021年夏にCT装置をGEヘルスケア社製Lightspeed16からRevolution HDへと更新を行った。それに伴い以前より使用しているGEヘルスケア社製ワークステーションAdvantage Workstation(以下AW)も最新版へと更新を行ったが、それはDual Energy解析や心臓解析、コロノグラフィー等の領域に特化させることとした。
そして、当院では最近整形外科領域の3D作成依頼件数が増えているため、整形外科領域においても評価の高かった、富士フイルムメディカル社製の3次元画像解析システムボリュームアナライザーSYNAPSE VINCENT Ver.6.4( 以下VINCENT)を新たに導入し、3D作成における業務の効率化を図ることとした(図1)。
導入当初はAWと操作感の違いに戸惑うこともあったが、2週間ほど使用し操作に慣れてくるにつれて、期待通りの性能で業務の効率化を果たしてくれている。まだ使用期間はそれほど長くないが、そんなVINCENTの気に入っている点や当院での使用法をいくつか紹介したいと思う。
VINCENTの特徴
VINCENTの特徴として富士フイルムの画像解析技術を応用した自動抽出機能があげられる。これにより、整形外科領域での3D画像作成の効率化を図ることができるのは皆様周知のとおりであると思われる。
また最新のバージョンでは、富士フイルムの深層学習を利用したAI技術「REiLI」を活用した多くの自動抽出機能が搭載されている。
VINCENTは基本パッケージだけでも当院のような整形領域がメインの施設で使用するのは十分なものがそろっているが、当院ではさらにオプションとして肋骨、椎体の抽出が可能な「ボーンビューワ」、MRI画像から膝関節の軟骨解析のできる「膝関節解析」のアプリケーションを導入した。
当院のVINCENTのシステム構成は、当院が小規模施設(90床)である為スタンドアロン型を導入した。その為、全てのMPR、3D画像は診療放射線技師にて作成しているため、いかに効率よく診断に価値のある画像を作成できるかということが重要である。
他の装置からの移行に関して
使い慣れているものから、新しいものへ移行するのは結構大変なものである。当院ではCT装置、MRI装置共にGE社製であり、長期にわたって使用しているAWの操作感に慣れていたこともあって、操作の違いに最初は戸惑いを覚えることが多かったのも事実である。
しかしながら、実際に使用していくと自動抽出機能が秀逸で業務効率が向上するため、日が経つにつれVINCENTの使用頻度が上がってきている。また、全部で約8cmもある分厚いマニュアルを熟読せずとも、画面上の「?」アイコンをクリックするとその項目に沿ったオンラインヘルプが表示され、また電話でのサポートも充実しているので移行に関するハードルは案外低いと思われる。
個人的に使い勝手が良いと思える点で言えば、骨の抽出機能である。
例えば骨折のVR画像を作成する時に骨折部位をよく見せるためには骨を抜く作業を行うが、AWの場合には、実際に骨を除去してみないとわからないので、骨折部位に細かい骨片がある場合などに誤って一緒に消してしまっていないか注意を必要とした。
しかし、VINCENTの場合には、骨除去作業を行う時に除去したい部位をクリックすると緑色に表示され除去する範囲をあらかじめ確認できるため、周囲に細かな骨片がある場合においても誤って消してしまう心配が少なく非常に作業がしやすい(図2)。
膝関節解析
新しいVINCENTの一押しのアプリケーションがこの膝関節解析である。
このソフトはMRIのプロトン密度強調画像(構造物を認識)と脂肪抑制T2*強調画像(軟骨を認識)から大腿骨、脛骨、膝蓋骨、軟骨、半月板を自動で抽出を行い、軟骨の厚さ(どの程度擦り減っているか)や半月板と脛骨の距離(どの程度はみだしているか)を解析することができるアプリケーションである(図3)。
なお、本アプリケーションは3.0T装置を推奨しており、1.5T装置では正しく解析できる保証はないため検証が必要である。撮像条件の入力に限界があるため、1.5T装置では軟骨の厚みが厚めに、体積が多めに出る傾向があるようである。
GE社製3.0T装置の参考プロトコルもいただいたが、プロトン密度強調像で7分10秒、脂肪抑制T2*強調画像で9分4秒(共に3D撮像)というものであり、3.0Tでそれだけ時間がかかっているものを1.5Tに置き換えると非常に現実的ではない撮像条件となってしまう。
そこで、当院のGE社製の1.5T MRI装置Signa Createrでも、スライス厚やマトリックスサイズ、パラレルイメージング、HyperSENSE等を調整することにより、プロトン密度強調画像(CUBE)で3分44秒、脂肪抑制T2*強調画像(3DMERGE)で9分28秒となんとか実用に耐えうる時間の範囲内で撮像することができた(表1)。
実際にその画像を用いて膝関節解析を行ってみたところ、軟骨マッピング画像にてきちんと軟骨の薄い部分も描出されており、放射線科医による診断レポートとも所見が一致した。また、実際に診察を担当している整形外科医にも評価を求めたところ、「患者本人に説明するときや、他医に紹介するときにも非常にわかりやすくて良い」との高評価を得られ、当院においては1.5T装置でも問題ないとの評価を得られた。
膝関節解析アプリケーションに関しては、解析処理だけではなく結果をレポートとして出力することも非常に簡便なので、我々が処理に関わる時間が非常に短いのも特筆すべき点である(図4)。
先にも述べたがこのアプリケーションは現時点では3.0T装置での使用が推奨されているため、1.5T装置での使用を行う場合には、施設においてコンセンサスを得ておかなければならない。
また撮像時間に関してはモダリティ側の技術向上(Deep learning等を用いた再構成等)によってさらに短縮されることを期待したい。
スライサー
今までAWを使用していた時には椎体のアキシャル断面の作成では椎体、椎間ごとに冠状断で椎間に傾きを合わせ、矢状断にてまた椎間に合わせるというように椎間ごとにマルチオブリークで断面を作成していたが、VINCENTではワンクリックで各椎体、椎間を認識しそれに合わせた断面の画像が作成される(図5)。これは検査が集中しているときや、救急で即座に画像を出さないといけない時には非常に有用である。しかし、当院の使用方法としては、S3くらいまでの断面を必要とすることもあり、現Ver.だとL5/S椎間が断面の下限になってしまう。
次期Ver.で対応予定とのことで、その進化に期待したい。
ボーンビューワ
CT画像から俗にいう「肋骨の開き」の画像を作成するアプリケーションである(図6)。体幹部の脊椎、肋骨をわかりやすくラベリングを行うことで、肋骨骨折の観察がしやすくなっている。肋骨骨折はVR画像でも観察できるが、ボーンビューワの方が転位の少ない骨折の観察はしやすいと感じる。
骨折の所見があったら、これもその部位がわかりやすいところでレポートとしてPACSに送信を行っている。
まとめ
以上簡便ではあるが、AW使用環境からVINCENTを新たに導入し、使用し始めた施設の使用経験である。当院のVINCENTにはオプションのアプリケーションを殆んど導入していないが、それでもAWに比較し3D作成の効率化を目指しているVINCENTでは効率よく作業を行えるようになった。また、紹介できなかったがもっと多くの診断に有用なアプリケーションがあり、最近では胸部CT画像からCOVID-19肺炎画像を解析するアプリケーション等もリリースされており、常に進化を続けているという点もお気に入りポイントである。
今使用しているワークステーションで十分だと思っているあなた、機会があればぜひVINCENTを使用してみてほしい。自分もそうであったが間違いなくお気に入りの一台となってくれるはずである。