MY BOOKMARK No.40 放射線治療計画支援装置「SYNAPSE Radiotherapy」がもたらす治療計画の効率化

2022.03.04

東京大学医学部附属病院 放射線科 放射線治療部門

野沢勇樹

自動輪郭作成機能

 私の最近のお気に入りは、まさに2021年に発売された富士フィルム株式社製の放射線治療計画支援ソフトウェアの「SYNAPSE Radiotherapy」である。SYNAPSE Radiotherapyの主な有用な機能は「自動輪郭作成機能」である。強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)の出現により隣接するリスク臓器への線量付与を抑制しながら、腫瘍に十分な線量を付与することが可能となった一方で、従来の方法よりもリスク臓器の輪郭を正確に描出する必要があり、必然的に医師、物理士が輪郭描出にかける負担も大きくなってしまっている。そこで、この輪郭描出の負担軽減の一助となる機能がSYNAPSE Radiotherapyに搭載されている自動輪郭作成機能である。自動輪郭作成機能自体は様々な種類の治療計画装置に実装されているがSYNAPSE Radiotherapy特徴としては、機械学習技術の一つである Deep Learningを用いて自動輪郭作成を行うという点である。機械学習技術は近年様々な分野で応用されるようになってきており、放射線診断の分野でも機械学習を用いた画像診断の研究が行われているなど、現在注目されているAI 技術である。SYNAPSE Radiotherapy では深層学習である CNN( Convolutional Neural Network)を用いて自動輪郭作成のためのエンジンの開発をリスク臓器ごとに行なっている。SYNAPSE Radiotherapy でCTから自動輪郭作成が可能な臓器を表1に示す。

 自動輪郭の作成はプリセットを実行する方法と個別に実行方法が用意されている。プリセットはユーザーが編集可能であり、自動輪郭作成の必要がある部位を自由に設定することが可能である。自動輪郭作成を行う臓器が増えるほど要する時間も増加するため、ユーザーが自由に設定できるのはありがたい。とはいえすべての対応している臓器に対し自動輪郭作成をおこなっても、自動輪郭作成に要する時間は頭頸部領域、体幹部領域ともにおよそ1分程度であり、非常に短時間で作成することができる。

 また、新たな患者のCTを読み込む際には患者情報をダブルクリックし、ポップアップにて自動輪郭作成のプリセットの選択(プリセットを選択せずにCTだけ表示することも可)だけで、簡単に自動輪郭作成することができる。もちろん、自動輪郭作成に対応していない臓器などの輪郭は手動で追加することが可能である。

自動輪郭作成のDICE係数での評価

 頭頸部、骨盤部領域および体幹部領域について、自動輪郭作成を行なった例を図1~3に示す。また、自動輪郭作成機能を用いて描出した輪郭と、医者により描出された輪郭との一致度(DICE 係数)を表2~4に示す。体幹部領域において、臨床に使用した治療計画に医師による輪郭描出がない場合、もしくは自動輪郭作成が正常に動作しなかった場合(心臓、肝臓で2例ずつ見られた)は評価から除外している。脊髄、直腸、心臓については上縁もしくは下縁の設定に差異があり、視神経は体積が非常に小さくスライス厚などの影響を受けやすいためDICE係数はやや小さい値を示しているものの、その他のリスク臓器については平均値および中央値でおよそ0.8~0.9となっており、高い一致度を示していることがわかる。また直腸に関してはガスが溜まっている場合は自動輪郭の精度はやや悪化するようである。肝臓については体積が大きく輪郭描出にも時間を要するが、自動で輪郭作成ができるような治療計画装置は少ない印象がある。SYNAPSE Radiotherapyは肝臓も良い精度で自動輪郭作成が可能である点は非常に評価が高いと感じる。

自動作成した輪郭の補間修正

 自動輪郭作成には問題点もあり、自動輪郭作成によって生成された臓器輪郭は修正をすることが簡単ではないことが多い。一から手動で輪郭描出を行う際はほとんどの治療計画装置で輪郭の interpolate(補間)ができるため、数スライスおきに輪郭描出を行い補間することで、全スライスでの輪郭作成をすることが可能である。しかし自動輪郭作成で描出された臓器輪郭はすでにすべてのスライス上で輪郭描出がされてしまっているため、修正の際に補間が使用できないことがほとんどである。そのため実際のリスク臓器と作成輪郭にずれが見られた場合、自動作成した輪郭を削除して一から手動で描出する方が早いことも少なくない。SYNAPSE Radiotherapyでは自動で作成した臓器輪郭にも補間を行うことが可能であり、個人的には非常に便利な点であると思っている。「補間用輪郭の設定」を選択した状態でいくつかのスライスにおいて輪郭を修正することで自動作成された輪郭に対しても、修正を加えたスライス間の輪郭を補間することができる。図4、5に自動作成した肝臓の輪郭に対する補間修正の方法及びその変化の一例を示す。

 新たな輪郭の手動での作成や、既存の輪郭の修正には様々な形態での方法が搭載されており、一般的な治療計画装置で用いられているようなワンドを用いて描出・修正する方法に加え、フリーハンドで輪郭を描出する方法、画像のエッジにフィットして輪郭を描出する方法、描出された輪郭をつまんで修正する方法が搭載されている。輪郭の演算処理も可能であり、拡張、収縮、その他算術演算や論理演算に対応している。

線量分布の合算

 放射線治療中に腫瘍の縮小や体位の変更などがあり治療計画CT撮影時と違いが出てきた場合には再度治療計画CTを撮影しリプランすることや、過去に照射歴があった患者に対し治療計画を作成する機会はしばしばある。その際にこれまでに照射した分の線量を新しく撮影した治療計画CTに反映させることは、体位や輪郭が変化しているため容易ではなく、その線量を考慮した上でリプランできる治療計画装置は少ない。SYNAPSE radiotherapyでは新しい治療計画CTと過去の治療計画CT間で非剛体レジストレーションを行うことで過去に照射された線量分布を新しい治療計画CT上にのせることが可能であり、過去の線量を考慮した上での治療計画の大きな手助けとなる(図6)。またリプランで作成した治療計画に過去の治療の線量を反映させることで、線量分布を合算した上での標的やリスク臓器の線量を見ることが可能である。

留意すべき点

 これらによりSYNAPSE Radiotherapyはメリットだらけのソフトウェアであるように思えるが、もちろん留意すべき点もいくつかある。まず大前提としてSYNAPSE Radiotherapyは治療計画支援装置であり、治療計画装置ではないということである。輪郭作成をすることはできるが、治療計画を立案することまではできないので、輪郭作成を行った後に他の治療計画装置に転送する必要がある。とはいえ、治療計画CTを撮影したあとSYNAPSE Radiotherapyに転送し、CTを開く際に自動輪郭作成を行い、治療計画装置に転送すればよいため、手間や負担も治療計画装置で一から輪郭を作成することに比べれば小さいように感じる。

 さらに、一般的な撮像範囲のCTではあまり起こらなかったが、ほぼ全身が入るような長い撮像範囲のCTを用いて自動輪郭作成を実行した際には様々な臓器で輪郭描出の失敗が散見された。したがって現時点では撮像範囲の長いCTに対しての自動輪郭作成は有用とは言い難いと感じる。

 また細かい部分ではあるが、手動の輪郭描出等でワンドを用いる際にワンド内が色で塗りつぶされてしまうためCTでの構造が見にくく、個人的にはかなり輪郭描出がしにくいと感じる。他の輪郭描出の方法が用意されているため、それらを用いる、またはワンドと組み合わせるなどして補うことができるが、この点に関しては今後の改善に期待をしたいところである。画像のエッジにフィットして輪郭を描出する方法、描出された輪郭をつまんで修正する方法などは様々な治療計画装置でもあまり目にしない方法のため、最初は使いづらく感じたが、私の場合は慣れてしまえば使いづらさはそこまで感じなかった。特に輪郭をつまんで修正する方法は、輪郭の局所的な凹凸を減らしなめらかにするのには有用であると感じた。

SYNAPSE Radiotherapy の魅力

 SYNAPSE Radiotherapy の最大の魅力は個人的にはやはり深層学習を用いた精度の良い自動輪郭作成機能だと思っており、自動輪郭作成機能で描出された輪郭に対する当院での医師による評価も高かった。またSYNAPSE Radiotherapyは機械学習を用いてエンジン開発が行われているため、メーカー側が教師データをアップデートして学習させることで、さらなる自動輪郭作成機能の精度向上に繋がる可能性がある。現時点で自動輪郭作成に対応している臓器も多いとはいえないが、今後のバージョンアップによる対応臓器の拡充にも期待を寄せるところである。SYNAPSE Radiotherapyは発売されて間もない製品ではあるが、医師、物理士が放射線治療計画にかける負担を軽減してくれる非常に有用なツールであることは間違いないといえる。