群馬大学医学部附属病院 放射線部
武井宏行
はじめに
当施設では中央診療棟の新設を機に2008年に一般撮影部門がリニューアルされた。そして10年後の2018年にX線撮影装置と透視装置の更新が行われた(図1)。
救急および夜勤などの時間外のX線撮影に対応する撮影室は2部屋(約6m×6m)あり、まったく同じシステムを導入している。以前は島津製作所のデジタル式X線撮影システム(RADspeed safire)で、立位寝台と臥位寝台および島津製直接変換方式FPDの組み合わせであった。現在は島津製作所のデジタル式X線撮影システム(RADspeed Pro EDGE package)で、立位寝台と臥位寝台および富士フイルムメディカルのフラットパネル(CALNEO HC SQ)の組み合わせとなり、新たに自動長尺撮影(立位、臥位)とオプションでトモシンセシスが可能となった。その他の機能について(表1)にまとめる。
改善されたワークフロー
1. オートフィルタの搭載
患者撮影をRIS上で開始すると、RISと連動した撮影メニューが操作コンソールに立ち上がり、あらかじめ設定した照射野と共に付加フィルタが自動で選択されるため、フィルタの間違えがなくなり、患者への被ばく低下が徹底された。また、このときの患者の名前とIDがX線管懸垂装置の操作液晶パネルに表示されるようになったため(オプション:以下OP)、患者確認が容易に行えるうえ、このパネルから検査メニューの変更も撮影室内でできるようになった。
2. 天井走行式X線管懸垂器の進化
以前はX線管懸垂装置の操作パネルのスイッチが外れてしまうことがあったが、しっかり改良されており外れることはなくなった。リモコンを使用してリモートでX線管を移動させる範囲が4軸から5軸(長手・短手・上下・水平回転・支柱軸回転)へと広がり、設定したいポジションの範囲が広がった(図2、表1)。
2020年からは手動でⅩ線管球を移動させるときにアシストしてくれる機能:POWER GLIDE™が追加され、力の入りにくい高い位置でのX線管移動も少ない力で済む(表1)。以前から支柱に設置されているリアスイッチはこれらのシステム独自のもので、撮影寝台の反対側に移動せずにⅩ線管球を動かせる秀逸な機能である(図3)。撮影寝台をフットペダルで上方に移動させるときX線管球も自動追尾し、術者の作業しやすい高さでポジショニングが行えるため、腰への負担は軽減される(表1)。
3. 上方退避機能
臥位寝台で撮影した後、ワンタッチでX線管球を最上部まで退避できるため、患者との接触がなくなり安全性が向上した(図4、表1)。
4. バーチャルグリッド
臥位や座位での胸部正面・側面撮影時、バーチャルグリッドが使用できることで斜入によるケラレがなくなり、実グリッドの保持からも解放されたため重量負担が軽減されることもあり、業務が効率的となった。また使用できる撮影部位は胸部以外にも対応しており、バーチャルグリッドの実用性は必要十分である。
5. 長尺撮影での撮影範囲の拡大
以前と比べて、立位では120cmから160cm、臥位では80cmから120cmへと撮影範囲が1.5倍に拡大したため、臥位での下肢全長撮影も可能となり、ほとんどの患者での脊椎長尺・下肢長尺撮影に対応している。以前はCRを併用していたため、かなりの作業効率が図られた。
6. トモシンセシス
立位、臥位でトモシンセシスが可能となり、T-smart法(逐次近似応用画像再構成法)により金属アーチファクトを抑制した断層画像が得られるようになった。また、傾斜断面表示を用いることで、スライス断面以外の角度±20°までの任意角度の断層像が作成できるようになった。
3年使用した上での要望と工夫について
1. 運用開始時の設定について
RISと連動した撮影メニューの設定には、当施設での撮影条件、ポジショニング角度や撮影位置・距離、照射野のサイズと縦横設定など、それぞれ100パターン(撮影メニューの数)以上の設定を現場で行わなければならないため、運用時は大変な作業が必要である。この設定方法をもう少し効率よく設計してほしいと感じた。
2. バーチャルグリッド
撮影者が気を付けなければならないことだが、バーチャルグリッドは撮影部位に対して推定される散乱線を計算によって除去するシステムであるため、適正な管電圧と照射野、撮影距離を設定して撮影しなければ、気が付かないうちに画質の悪い写真を提供してしまう可能性がある。また、現状では長尺撮影で使用できないが、これが可能となれば同一患者での下肢長尺と脊椎長尺撮影時にグリッドの差し替えが必要なくなるので良いと思う。
3. 長尺撮影
作業効率は飛躍的に向上したが、静止が難しい患者(小児やふらつく患者)では使用できない場合がある。自動合成では8割程度はそのままで良いが接合ズレも見当たるため、当施設では基本的に全ての画像で確認している。より自動合成精度の向上が今後期待される。また、身長が180cm以上の患者の場合、立位の脊椎長尺撮影では膝を屈んで撮影しなくてはならないことがあり、高さの延伸も期待される。
4. 撮影補助具の工夫
救急や整形外科領域の撮影で必要とされる撮影補助のポジショニングブロック(図5)は、画像に移り込みにくい材質のため重宝している。立位膝関節、立位足関節などのポジショニングには、産官学連携事業で繋がった地元の鉄工所に依頼して作成した立位補助台(図6)を使用している。また、マーカーは規定の位置にセットしておくことで、使いやすさと紛失の低減を図っている(図7)。
5. RISへの書き込み
経過観察の撮影が多いため、インプラントの情報や、リブレの装着、体形に合わせた撮影条件など、撮影者が次回の撮影時に気を付ける事項についてRISの技師コメント欄に記載している(図8)。
6. 再撮影分析による改善策
当院での過去の再撮影を分析した結果、再撮影が多いオーダーは、多い順に膝関節側面での関節角度ミス、ストレッチャー上での胸部撮影の肺野欠損、股関節でのインプラント欠損、スカプラY撮影の患者角度エラーの4オーダーであった。そこで、ストレッチャー上での胸部では、特に下肺野の左右をしっかり確認して撮影に臨むように徹底させ、股関節のインプラント欠損についてはRISコメントに照射野等を記載しておくことで対処した。また、膝関節側面とスカプラYでは撮影コンソールに1/10以下の撮影条件をプリセットしておき、関節異常がある患者にはこの低線量撮影(プレ撮影)を推奨している(図9)。もちろん常時プレ撮影を行うわけではなく、患者毎に個々の判断で行っている。
まとめ
RADspeed Pro EDGE packageに更新した結果、カタログ上にもない、特別に依頼したわけではない配慮の細かい改善がなされていて、患者にも撮影者にも有用なシステムとなっていた。今後もユーザーの声に耳を傾けて、スマートな更新システムを目指していっていただければ、ますますファンは増えること請け合いである。