MY BOOKMARK No.43 ワイヤレスタイプ可搬型FPD「Aero DR」当院での事例紹介

2022.04.20

公益財団法人 天理よろづ相談所病院 放射線部

黒田大悟

はじめに

 公益財団法人天理よろづ相談所病院は1966年に開設され、「病だけでなく、病む人そのものに向かい合う」という「全人的」取り組みを行うことを目的に、高度な医療を提供する「身上部」、信仰に基づいて人々の苦悩の解決指導にあたる「事情部」、生活上の諸問題および医療従事者の養成に関する世話取りを行う「世話部」の3部から構成されている。2006年に外来診療棟、2014年に新入院棟を開設し、現在、病床数715床、一日平均外来患者数約1,900名で、天理市や奈良県内だけでなく、三重県、大阪府、京都府などからも患者が訪れる。また、療養病床と精神科病床143床を有する白川分院も併設する。

 当院の一般撮影部門は2004年に全面デジタル化となり、当初はcomputed radiography(CR)を中心に運用を行っていたが、順次flat panel detector(FPD)を導入し、2013年にコニカミノルタ社のAeroDRの導入が契機となりFPD化が加速した。一日平均の撮影件数は、一般撮影で300件以上、手術室を含むポータブル撮影は約90件で、その多くでAeroDRが利用されている。

 本稿では、当院での導入事例や運用方法、そして今後の展望などについて紹介する。

AeroDRについて

 シンチレーターにヨウ化セシウム(CsI)を用いた間接変換方式で、従来モデルでは175μmであった画素サイズも最新モデルでは100μmとなっている。現時点でのパネルサイズの展開は、10×12inch・14×17inch・17×17inchで、重量はそれぞれ1.5kg・2.6kg・3.2kg、厚さはJIS規格に準拠した15mmであり、CRカセッテと比べても遜色ないレベルに達している(図1)。可搬型として重要な要素となる耐衝撃性や耐荷重性、耐水性にも配慮されており、筐体の堅牢性は高く、外装材料に銀(Ag)を含む抗菌材を練り込むことで、経年劣化しない抗菌性能を有している。

 AeroDRはX線自動検出機能を有しており、X線制御装置に依存しない運用が可能で、ポータブル撮影において威力を発揮する。また、画像処理エンジンREALISMによって、画像全体描出とコントラスト維持の両立、加えて、解像力を最大限に活かす高鮮鋭化技術を搭載している。その他画像処理技術に関しても、散乱線補正処理やカテ先・ガーゼ強調処理、体動検出処理など豊富に存在する。

ポータブル撮影

 当院では、2013年に初めてAeroDRを導入し、手術室にて運用を開始した。その1年後には新入院棟の開設に合わせて、ICUと救急外来および一般病棟回診用に3台を導入し、現在計4台のAeroDRが稼働している。導入当初は、院内通信環境の問題で、RISやPACSとは有線接続による運用を行っていたが、2016年の電子カルテ導入に合わせて無線環境が整備され、利便性は一段と向上した。

 4台のAeroDRのポータブルX線装置は、すべて富士フィルムヘルスケア社のSirius Star Mobileで、制御系内蔵の一体型ではなくセパレートタイプである。システムとしてFPD以外に、コンソールとなるCS-7 Portable、FPDとCS-7 Portableのアクセスポイントから構成され、ポータブルX線装置と受像系が別々のシステムであるため、装置に依存することなく自由に組み合わせが可能、メンテナンス性が良いなどのメリットが存在する(図2)。

 そのメリットが特に実感できた事例として、コロナ病棟対策が挙げられる。当院は本館・外来診療棟・新入院棟の3つの建屋に分散しており、4台のAeroDRはすべて新入院棟で稼働している。しかし、コロナ陽性患者の病棟は新入院棟から約400m離れた本館に設置され、当初はCRでの撮影を行なっていたが、

2021年夏の第5波では入院患者数の増加にともない撮影件数も増えたため、AeroDRを移設することにした。一体型では、ポータブル装置本体の移動が必要となり、移設の手間や届出などに労力を要するが、受像系の移動のみと簡便に行うことができた。

一般撮影室

 当院では一般撮影室が5室あり、そのうち2室でAeroDRを採用し全面FPD化を図っている。立位・臥位撮影台に17×17inchのAeroDRを有線接続で常置し、可搬型として14×17inchと10×12inchを一室に、10×12inchを一室に配置している。なお、立位・臥位撮影台に常置している17×17inch もホルダーから外してワイヤレスタイプとして利用可能であり、X線発生装置はいずれも島津製作所のRAD speed Proである(図3)。残る3つの撮影室では、据置型FPDとCRを組み合わせた運用を行なっているが、今後数年以内にAeroDRへの更新を計画しており、同一規格に統一することによる高い互換性とシステムのスリム化を目指している。

 全面FPD化に向けて問題となる部分として、パノラマ撮影と長尺撮影が挙げられる。従来CRで撮影を行なっていたパノラマ撮影は、2018年5月にモリタ製作所のベラビューエポックス2Deに更新され、問題のひとつは解消された。

 残る長尺撮影に関しては、2022年3月にAeroDRを用いたワンショット長尺撮影システム(図4)を導入予定である。このシステムでは、17×17inchのFPDを3枚使用し、最大で17×48inchの撮影が可能であり、特長として、一回曝射での撮影、立位撮影では受像部の回転機構を搭載(オプション)、パネルフォルダを取り外すことが可能で立位・臥位両方の撮影にも対応、などが挙げられる。当院で特に重視した点は一回曝射であり、自立保持が困難な患者の撮影に際しては体動の面で非常に有利となる。また、極端にアライメントの悪い患者の全脊椎側面撮影では、従来は長尺カセッテを技師が斜めに保持する形で撮影を行なっていたが、今後は立位撮影での回転機構が活躍すると考えている。なお、長尺撮影に使用するFPDは長尺撮影システム専用ではなく、立位・臥位撮影用やカセッテ撮影用のFPDと兼用可能であり、バックアップとしても使用できることから、FPD枚数の最適化を図ることができる。

デジタルX線動画撮影システム

 AeroDRの最大の特長は、動画撮影に対応している点である。当院では、2019年2月にデジタルX線動画撮影システムを導入し、同年6月より臨床研究として胸部X線動画撮影を開始した。

 X線動画撮影は、通常の一般撮影と同様のシステムで、立位・臥位での撮影が簡便に可能で、広い撮影範囲を高画質で取得でき、これまでの単純X線撮影にはない時間軸という次元が付加された情報を含むことから、その臨床的意義が期待されている。

 当院で行っている胸部X線動画撮影は、主に間質性肺炎の患者を対象にしており、X線動画撮影の撮影手技や解析方法の妥当性の評価、診断能の評価、診断基準の確立などを目的として、現在の呼吸器疾患の診断におけるゴールドスタンダードであるCTや呼吸機能検査と胸部X線動画撮影との比較検討を行っている。また、肺定位放射線治療における腫瘤病変の呼吸性移動量の評価に関しても有用な結果が得られている。

X線動画解析ワークステーション「KINOSIS」の画像解析処理の紹介

○視認性向上

1. BS-MODE

 肺野内に存在する肋骨や鎖骨の骨陰影を減弱する。腫瘍の位置や形態など肺野内の視認性を向上させ、肺野内部組織の動きの観察が容易となる。

2. FE-MODE

 特定の周波数帯域を強調処理することにより、特定構造物の視認性を向上させ、動きの観察しやすさを強調する。肺血管影の動き、腫瘍の胸壁や隣接臓器への浸潤などの評価が期待される。

3. LM-MODE(図5)

 肺野内の血管影などを含む信号値パターンを追跡し、呼吸に伴う各領域の移動量を計測することで、動きの低下領域を抽出し、動きの傾向をカラー表示にて1枚の解析画像にサマライズする。胸部手術前に肺の胸膜癒着を認識できる可能性がある。

○定量的解析

4. DM-MODE

 特定の構造物(横隔膜)の動きを数値化してグラフ表示することにより、今までには確認できなかった視点での評価が可能となる。通常の静止画では取得不可能であった左右の横隔膜の連動性が定量的に評価できる。

○肺機能情報の可視化

5. PL-MODE

 深呼吸撮影時における肺の動きに伴う呼吸周期の肺野内信号値変化を表示する。信号変化の均一性や低下を色別表示することにより、呼吸機能の異常を表現できる可能性がある。

6. PH-MODE

 呼吸停止撮影時における血管の拍動に伴う心拍周期の肺野内信号値変化を表示する。信号変化の均一性や低下を色別表示することにより、肺血流の異常を表現できる可能性がある。

7. PH2-MODE(図5)

 心拍周期の肺野内信号値変化を抽出し、心拡張期のフレームを基準として各フレームからの差分値を計測しカラー表示する。また、解析した複数フレーム画像から1枚のMIP画像を生成できる。カラーの強弱から、血流量の定量評価ができる可能性がある。

おわりに

 本稿では、当院での事例を踏まえてワイヤレスタイプ可搬型FPD「AeroDR」について紹介し、胸部X線動画撮影についても一部言及した。現在当院では、FPDとCRのシステムが混在している状況であるが、同一規格の全面FPD化計画が完成したときには、これまでの問題点が解消されることを期待している。

 今後は、可搬型FPDの特長を有効に活用した運用を目指すとともに、これまで以上に患者にとって優しく診断価値の高い画像を提供することに努めていきたい。