虎の門病院 放射線部
高橋順士
はじめに
1980年代は、X線撮影の受像システムは、screen/filmシステムが一般的であり、それらの画像特性を踏まえて、コントラストや感度の違うものを撮影目的別に使い分けていた。その後、1990年代に入りアナログからデジタル時代になり、computedradiography(CR)が登場し、CRの受像システムの “きも” であるimaging plate も一般撮影用からマンモグラフィー撮影用まで多岐にわたるものが開発され現在も使用されている。近年では、CRシステムに代わdigital radiography(DR)へデジタルの技術革新は変遷し続けている。それらの恩恵は、撮影する診療放射線技師の利便性の向上、診断能の向上や撮影線量の低減(被ばく線量の低減)など様々なものが挙げられる。DRシステムの受像システムとしては、flat panel detector(FPD)が欠かせない技術であり、FPDを用いたエネルギーサブトラクション、トモシンセシスやコンピュータ支援診断への活用などその応用範囲は広く、今も多くの研究が行われている1)。FPDを用いたDRシステムでのX線装置は、今日では一般的な技術として一般撮影装置、X線TV装置、血管撮影装置など臨床に幅広く使用されている。当院では、FPD搭載のX線ポータブル装置が導入され、その有効活用について既存のX線ポータブル装置と組み合わせたシステム構築と医療安全を支えるツールとしての方法について紹介する。
当院のX線ポータブルシステム
当院では、10年以上前に導入された島津メディカルシステムズ社製のX線ポータブル装置2台と今回導入された富士フイルム株式会社製のCALNEO Go PLUSの2台の装置が稼働している(図1)。従来から使用しているX線ポータブル装置は、CRシステムを用いているため、新しい装置のDRシステムと混在することになった。そこで、それぞれの特性を考慮し、その使い分けと運用方法を整理して使用している。
CRシステムとDRシステムを用いたX線ポータブル撮影は、それぞれの検査のワークフローが異なるので、それらを整理しそれぞれの特性に合わせて運用方法を見直した(図2)。
従来法であるCRシステムを用いたX線ポータブル撮影では、撮影前の準備として放射線部門システム(radiological information system:RIS)から患者情報や撮影メニューを紙媒体で出力かpersonal digital assistant(PDA)端末に転送する。撮影枚数分のCRカセッテを用意し、X線ポータブル装置と共に病棟や手術室などに行き、部屋を確認してから患者さんのベッドサイドに行く。患者確認として氏名と生年月日を患者さんに名乗っていただき、受付表(氏名、IDや生年月日等が記載されている)と照合している。意識の無い患者さんでは、リストバンドに氏名、IDや生年月日、バーコードが記載されているので、目視で確認を行っている(現在は、バーコードリーダーでの読み取りで行っている)。撮影オーダーを確認してCRカセッテで目的部位の撮影を行う。撮影後は、CRカセッテに受付票を挟んで撮影済みであることをわかるようにしたり、PDA端末で撮影済みを登録したりする(当院は前者である)。その後、予定されている患者さんの撮影終了後に放射線部門(CRの読み取り装置のある場所)に戻ってCRカセッテを処理する。最終的に画像確認後にpicture archiving and communication system(PACS)へ画像転送し、RISで撮影済みの実施登録を行い完了となる。X線ポータブル撮影がアナログ時代のscreen/filmシステムでは、自動現像機で処理されたX線フィルムを専用袋に入れて病棟や外来部門に運んでいた。その時代から見れば、作業の効率化、再撮影の減少やPACSを介して電子カルテでX線画像が閲覧できるようになるなど、X線ポータブル撮影業務のワークフローは改善した。
一方、今回導入されたDRシステム搭載のX線ポータブル装置では、撮影業務のワークフローの改善とともに、撮影したX線画像の画質処理が撮影現場で直ぐに行えるようになった。つまり、撮影前の準備はRISからwireless fidelity(Wi-Fi)を介して患者情報と撮影メニューがX線ポータブル装置の撮影画面(撮影リストや画像処理が行える )に 転 送 さ れ るmodality worklist management(MWM)ができる仕様となった。そのため、事前に紙媒体やPDAを用いた患者・撮影情報の取得が不要となり、CRカセッテが不要(撮影枚数分は必要なく、ワイヤレス型のFPDが1つあれば撮影可能)、患者確認も患者が着用しているリストバンドをバーコードリーダーで読み取ることで行えるようになった。撮影後の画像確認(患者が動いたり、撮影視野から外れたりしていないか、カテーテル先端の位置確認など)や画質の調整が撮影後にすぐに行えるなど利点も多く、現在準備中の院内のWi-Fi環境の整備が済めば、撮影完了後、数分で電子カルテから撮影したX線画像が閲覧できるようになる。そして、放射線部門のRIS端末で最終的に画像を確認した後に実施登録を行い完了となる。このように、DRシステムを用いたX線ポータブル撮影では、撮影前の準備、患者確認の方法(患者誤認の防止)から撮影後の画像確認・転送まで大幅にワークフローが改善した上に、医療安全の面でも有用なシステムとなった。
そこで両者の撮影件数とそれに要する撮影時間の比較を行った。病棟患者さんのX線ポータブル撮影の依頼の多い月曜日の朝にRISにオーダーされた患者さんの撮影件数とその撮影が完了するまでの時間を調べた。対象期間は、CRシステムは、2019年10月から12月の月曜日で、DRシステムは、2021年10月から12月の月曜日のそれぞれ3ヶ月間とした。比較した項目は、8時30分時点のX線ポータブル撮影の依頼件数と撮影が実施完了までの時間をRISと画像の実施時刻から調べた。その結果は、CRシステムは、平均12.6±3.0件で、検査終了まで平均107.4±25.1分であった。
DRシステムは、平均15.3±3.4件で、検査終了まで平均80.8±35.5分であった。両社の比較で明らかになったことは、DRシステムでは、CRシステムに比べて撮影件数が増えても撮影完了までの時間が短縮され、検査効率が向上した(図3)。
また、今回導入されたDRシステムは、撮影後の画像にCRシステムと同様に階調処理や空間周波数処理などの画像処理が行えることである。それに加え、散乱X線除去として一般的にグリッドを用いて撮影しているが、本装置では、グリッドを使わずにコントラストを改善し、ノイズを抑制する技術(Virtual Grid;VG)が搭載されている。
この技術では、検査を実施した時の撮影条件(管電圧、mAs値、撮影距離)の情報と画像の画素値から、被写体厚を推定しそれを元に、散乱X線含有率を画素単位で算出する。また、仮想グリッドのグリッド比率により決定される散乱X線除去率を用いて散乱X線相当分の画素値を減算することで、グリッド透過後の画像を生成し画像コントラストを改善している2)。仮想グリッド比も1:1〜20:1まで選択でき、撮影別のメニューに組み込むことも可能であり、撮影後に仮想グリッドを入れたり、グリッド比を変更したりできる。このことは、グリッドを使用しないことで、患者の被ばく線量の低減はもちろんだが、実グリッド使用によるX線束の斜入による画像のムラを回避できるなどの利点がある。撮影部位ごとに適切な使用はもちろんだが、散乱X線の多い腹部や胸部の縦郭内のカテーテル先端の確認や胃管挿入後の撮影などに使用している(図4)。
a Gridなしの撮影なので、階調を調整し、画像全体を黒くし、胃管の位置が見えるように出力した(先端は不明瞭)。
b 胃管の位置を調整し、撮影依頼がきた。gridなしで撮影し、virtual grid を3:1に設定し、肺野の見える通常の画像処理でも胃管の位置が確認できた。
既存のシステムもDR化へ
従来から使用していたX線ポータブル装置では、ワイヤレスFPDのみではDRシステムとして使用できない。そこで、RISからの患者情報と撮影メニューの取得、撮影をワイヤレスFPDで撮像、撮影後の画像処理や撮影した画像をPACSへ転送可能なノート型のpersonal computer(PC)を画像コンソールの役割として導入した(図5)。
a 従来の装置外観
b ノート型のPC上で、DRシステムと同様に撮影後の画像確認や処理をその場で行える
このノート型PCを用いることで、X線ポータブル撮影をワイヤレスFPDで撮影した画像は、Wi-Fiを介して通信可能である。ノート型PCが14inchサイズと画面が小さいことやX線を曝射する際の操作が違う点以外は、DRシステム搭載のX線ポータブル装置と同様の撮影、画像処理と転送が行える。また、専用バッグに、ノート型PC、17×17inchのFPDとバーコードリーダーを入れて移動でき、感染エリアや手術室にある古いX線ポータブル装置もDRシステムとして使用可能と
なった(図6)。
医療安全の取り組み
医療安全上、患者確認は重要事項の一つである。過去の事例として当院では、同性同名の患者誤認、撮影済みのCRカセッテで撮影(二重曝射で2人の患者さんの再撮影)やCRカセッテを読み取る際の誤登録などのインシデントが発生している。X線ポータブル撮影に限らず、確認不足や思い込みなどヒューマンフ
ァクターに起因するインシデント事例も報告されている。医療安全の基本に立ち返り、人は間違いをおこすもの、リスクはゼロにはできない、エラーを極力低減する努力や個人任せではなくシステムで医療過誤をブロックすることを念頭においた対策が必要である3)。患者確認として患者さんが装着しているリストバンドを撮影の際にバーコードリーダーで読み取ることは、一般撮影、CTやMRI検査などですでに行っている。X線ポータブル撮影でも、新たな装置の導入を契機に新旧の装置でDRシステムとして運用し、患者確認をバーコードリーダーで読み取ることを行っており、患者誤認の防止に役立っている。
終わりに
撮影装置やそれぞれの撮影技術の進歩は目覚ましい。新たな装置では、最新の技術や画像処理が行われるのは当然である。その技術を最大限に引き出せるよう、既存のシステムを加えてのシステム構築や医療安全の取り組みに生かせるよう日々努力していかなければならない。
<参考>
1) 日本放射線技術学会: 画像通信 41(1): 1-117, 2018
2) 川村隆浩 ほか: 新画像処理「Virtual Grid(バーチャルグリッド)技術」の開発:X線検査の画質と作業性の向上. FUJIFILM RESEARCH & DEPELOPMENT富士フイルム研究報告FFRDEK 60: 21-27, 2015
3) 日本医療機能評価機構: 医療事故情報収集等事業 第67回報告書, 2021