働き方ノート Vol.16 川端一広先生

2023.06.21

起業しても心は診療放射線技師!患者さんと医療者をつなぐ「MediOS」等のソフト開発を目指す

■ 仕事編

・川端先生が診療放射線技師を目指したきっかけは何でしょうか?

 診療放射線技師を目指したのは、高校一年生の夏休みがきっかけです。夏休みの宿題でオープンキャンパスに参加するというものがあり、たまたま参加したのが北里大学で医療系と放射線学科を目指すきっかけとなりました。

 北里大学で最初に見学したのが放射線学科で、「放射線科ってレントゲン撮るところでしょ」という感じで考えていたら、そこではCTの画像をボリュームレンダリングしたものを見せていただいたんですね。身体の内部が手に取るようにわかる、ボタンクリックひとつで骨だけの画像になったり血管だけの画像になったりというのを目の当たりにして、とてもかっこいいと思いました。

 自分のそれまでイメージしていたレントゲンの白黒2D画像だけではなく、最新のテクノロジーを感じ「こういうことができるのか!」と衝撃を受けました。他の診療科も見学しましたが、この時ほどの衝撃を受けた診療科がなかったので、診療放射線技師を目指すことにしたのです。

・それはどのくらい前のことでしょうか?

 15年ほど前ですね。その頃はCG技術もだいぶ発達してましたが、それでもかなりインパクトはありました。例えば肝臓だけ抽出して3Dの画像が回転しながら見られるなんて本当に衝撃的でしたよ。

・次に、先生が病院を退職されて起業された経緯についてお伺いします。

 起業を思い立ったのは大学生の頃です。当時、レストランでアルバイトをしていましたが、そこにいらっしゃるお客さんが経営者、社長さん方が多かったのです。その方たちが楽しそうに仕事の話をされているのを聞いて、生きている実感といいますか、目がキラキラ輝いているんですね。それがとてもかっこよく見えまして、こういう大人になりたい、起業してみたいと思ったのがきっかけです。

 ただ、学生の立場では起業して何をやるかというアイデアが思いつかず、卒業後は病院(がん研有明病院)に就職しました。就職してしまうと毎日が忙しく過ぎてしまい、診療放射線技師としての仕事も楽しかったですし、学生時代に起業を思い立ったこともそのうち忘れてしまって、診療放射線技師の仕事で頭がいっぱいになっていました。

 転機は、がん研に就職して3年目の時のことです。

 がん研の研修というのは、3カ月ごとにローテーションで各機器を回るんですね、最初はレントゲン、次にCT、そしてMRI、IVR、核医学……といろいろ回って、3年で一巡します。ですから、4年目になると二巡目が始まる。そうなると当初の新鮮さが薄れ、「もっと面白いことやりたいな」と考えるようになりました。そこから、学生時代に起業してみたかったことを思い出したわけです。そのうち、病院の診療放射線技師として働きながら、ビジネスの種を「どこにあるかな」と探すようになりました。それが起業のきっかけです。

・病院勤務という安定した仕事から、新しい世界に飛び出す不安はありませんでしたか?

 全く感じなかったですね。それよりもワクワク感のほうが強かった。

 診療放射線技師という国家資格を持っているので、最悪でも食うに困ることはないというのが安心材料になりました。不安はなかったです。

・御社名のContrea(コントレア)という言葉をインターネットで調べてみましたが見つかりませんでした。何語で、どういう意味なのでしょうか?

 「コントレア」は造語なんです。

 英語の「納得」「信頼」「安心」を表す言葉「consent」「trust」「relief」の頭の部分を取って、この3点を軸(axis)に会社を事業としてやっていく、これらを並べて「Contrea」と名付けました。

 私が病院で診療放射線技師として働いていて、重要なのがこの3つ「納得」「信頼」「安心」と感じていたからです。この3つの軸から外れない事業をやっていこう、これは自分の所信表明でもあります。

・Contreaで開発されたソフトウェア(以下、ソフト)「MediOS」について教えてください。今まで診療放射線技師として活動されてきた中で、今度はソフトを作る事業を起こされたわけですが、どのように取り組まれてきたのですか?

 「MediOS」のプログラムはエンジニアの方にお願いしています。コンセプト、こういうものを作りたい、というのを伝えて打ち合わせをしながら、一緒に形にしていきました。

 実は、Contreaの以前に私はVRを作っていました。患者さんのCT・MRIの画像を3Dに変換して、VRの空間上で身体の中を見ることが出来るものです。身体の中に視点が入っていき、臓器にレーザーが当たってその臓器の名前が表示されるなど、診療放射線技師の傍らで一人でプログラムを組んで開発をしていました。

学会展示の様子

・では、プログラムの素養などは既にお持ちだったわけですね。

 いや、なかったです。本当に見よう見まねで、病院の仕事が終わってから夜な夜な作業をするという感じでした。それで、逆に自分の素養のなさを痛感して、Contreaを立ち上げるときはエンジニアの方に入っていただいて一緒に作ろうと思ったという背景があります。

・起業されてすぐは収入が不安定だったのではないでしょうか、最初は診療放射線技師としてのお仕事もされながら両立されていたのでしょうか?

 いえ、診療放射線技師は起業する際にスパッと辞めました。ただ私としては、現在の仕事も診療放射線技師の延長ととらえております。診療放射線技師の本質的な仕事とは、患者と医師をつなぐ役割ではないかと思うのです。診療放射線技師がCTやMRIなどの機器を通じて、普段は見えない患者さんの身体の中を視覚化する、そして医師に画像を届け医師が読影をし治療を進めていく、診療放射線技師はその懸け橋の役目ではないかと。

 現状、一般に行われているインフォームド・コンセント(以下、IC)は、医師は病気や治療の説明に時間をかけて患者さんに一生懸命話すのだけれどその割に伝わらない。聞いた患者さん側も話が専門的すぎるので「もっとわかりやすく説明してくれればいいのに」と不満を持ち、説明がわからないので「先生にお任せします」と受け身になる。そして治療が終わった後に「ああいうことは聞いていない」と双方のすれ違いが生まれてしまう。このように、患者さんと医師それぞれが課題を抱えている分野です。

 私は現在の仕事で、医師から患者さんへの情報提供というところのhubとなるようなシステムとして「MediOS」を開発していて、医師と患者さんをつなぐ役目という意味では、私は病院の中でこそ働いていないけれども、心は今でもずっと診療放射線技師です。

社内のワークショップの様子
社外向けのピッチの様子

・川端先生は、診療放射線技師としてのご経験をもとにICのソフトを作られているということでよろしいでしょうか。

 そうですね、診療放射線技師としての経験ももちろんありますけれども、実際にICをされている医師の方と一緒に、どういうシステムが求められているかを話し合い、ブラッシュアップしながら開発していくという状況です。

・「MediOS」の他にも同種のICソフトがあるのではと思いますが、特にここが優れた部分、特長などございましたら教えてください。

 説明のアニメーション動画だけではなく患者さんの理解度評価や、患者さんからの質問登録ができます。また、ICの前に患者さんに動画を見ていただくことにより、患者さんはどこが理解できていないのか、どういうところが気になっているのか、そういう情報を整理して医師に伝え、医師がそのデータをもとにICを行える、というかたちになるので、これまで以上にICを効率化できる、というのが特長です。

 加えて、現在システムをどんどん拡張しており、その目指すところは、例えば問診票・同意書などこれまでアナログだった部分をデジタル化していくことで、患者さんは医療へのアクセスがよりスムーズになること、そして医療現場がより効率化することです。かなり拡張性を狙っているところが、他のIC動画だけのソフトとは異なる点ではないかと思っています。

・今後、「MediOS」で取り組んでみたいことは何ですか?

 大きく分けて2つあります。

 1つはシステムを拡張したいということです。病院の中はアナログな部分が多く、10年ほどITが遅れている業界といわれています。いわゆるオンプレミスで狭い世界で、患者さん中心の医療と謳われているわりにシステム自体は患者さんは蚊帳の外です。システムで患者さんと医療者をつなげていくシームレスな医療体系を提供したい。術前外来だけでなく退院支援、患者さんと医療者のアナログな部分をデジタルで再構築していきたいということです。

 もう1つは、やはり患者さんへの説明です。全世界の人類に共通するところは唯一「必ず死ぬ」ということだと思っています。患者さんが納得して人生を終えてほしいという思いが私には強くあって、それにはやはり患者さんと医療者がしっかりと話し合ったうえで患者さんが納得して治療を受けていただく必要がある。ICの必要性は世界共通ですが、専門性の高さはどこも同じで情報の非対称性が生まれている分野でもありますし、特に日本のアニメーション技術は最先端でそこが強みでもあるので、日本発の海外展開もしていきたいと思っています。

■ プライベート編

・ある一日のスケジュール

6:30起床
9:00午前は基本的に個人の作業時間                                             
13:00昼食
13:30午後は基本的に会議
19:30帰宅
21:30仕事再開
24:00就寝

・ご趣味や日々のサークル活動などはございますか?

 趣味も仕事なので、自分のタスクの仕事をこなしている時が一番心が落ち着きますね。他には、プロ野球チームでは阪神タイガースが好きなので野球観戦ですとか、スノーボードが好きなのでスキー場に行ったり、あとは1歳の娘と遊ぶのが心の癒しですね。

・現在のお仕事はどのような規模でしょうか、オフィスを構えられているのですか?

 オフィスを構えており、毎日出社していますが、メンバーの中には在宅でリモートの人間もおります。社員数は現在、私を除き7名で、業務委託の方が30名ほど。私としてはまだまだ少ないと思っているので、これからもっと増やしていく予定です。

・仕事のon-offについてですが、診療放射線技師だった時と起業されてソフト会社の代表となった現在とでは、ご家族とのつながり方の違いなどは生まれてきたでしょうか?

 結婚した時にはすでに会社を立ち上げていましたが、妻とはがん研の頃からの付き合いですから、病院勤務の頃は夕方仕事が終わった後や土日は自分の自由時間でしたので、どこかに一緒に出掛けたりというようなことはよくありました。

 現在は、就寝の直前までパソコンを開いて仕事をしていますし、土日も仕事になっていることが多いので、家族には甘えさせてもらっているかなと思います。でも土日どちらかは「家族の日」として出掛けるようにはしています。

・最近医療ドラマが人気ですが、そういうところで描かれる病院について思うところはございますか?

 自分はあまりドラマは観ないのですが、「ラジエーションハウス」のおかげで、私が「診療放射線技師です」と名乗ったときに「あー、あのドラマのやつですか」と言われるので、診療放射線技師の認知度が上がったんだなと有難く思っています。自己紹介がしやすくなりました。

・診療放射線技師を目指す方に、川端先生から一言アドバイスをお願いします。

 少しおこがましい気もしますが(笑)、では診療放射線技師を目指している方に。

 診療放射線技師という仕事には幅があるなと自分では思っています。究めようと思えば、例えばCT認定診療放射線技師・MRI認定診療放射線技師という資格もあるので、究められる道もあります。逆に、私のように病院を辞めたとしてもなんとかなる。ただ、病院の中で働いてみると見えてくる世界もまた違います。

 私は診療放射線技師として4年半勤めたんですけれども、病院の中のオペレーションや全体像が見えることで、やはり起業した時に役立っているという感覚があります。もし診療放射線技師を目指される方がしっかりと診療放射線技師として究める気があればそれはかないますし、方向転換をしたとしても、診療放射線技師というのは医師でもない看護師でもない中立的な立場で、いろいろな部署と関わっている側面もあるので、面白いポジションなんじゃないかと思います。

 ですから、目指したのであればそのまま頑張っていただけたら嬉しいです。

・最後に、川端先生から「MediOS」についての簡単な説明と、ユーザー、医療関係者の方にメッセージをいただけますでしょうか。

座右の銘
人事を尽くして天命を待つ

 「MediOS」のキャッチフレーズは、『スマートに伝わる新しいIC』です。スマートに、とは医師にとっては効率的に患者さんにとっては今まで以上に分かりやすく、というところを目指すサービスとなっています。通常のICは、医師側は繰り返しの説明といった作業が多いので、その繰り返しの部分をアニメーション動画で患者さんに事前に見てきていただくことで、実際の対面でのICでは「動画を見てどうでしたか?」というところからスタートできるので、より効率的に行っていただくことができます。

 患者さんへの事前の説明・前提の知識というところを「MediOS」が担わせていただき、医師の方にパスしていくという役割になっております。患者さんにとっても、とても分かりやすいということで好評をいただいておりますし、医師側の効率化というだけではなく、看護師の方からも、今までは医師のICが終わった後に看護師が患者さんから質問攻めに遭うということも多かったのがそこも減ったと聞いております。また待ち時間に動画説明を見ていただくことで時間を有効活用できるようになり、全方向から喜んでいただけるサービスになっておりますので、これからの新しいICの形としてこういったテクノロジーの有効活用という意味でも、ぜひ導入をご検討いただければと思います。ご連絡をお待ちしております。