日本放射線腫瘍学会第36回学術大会ランチョンセミナー

2024.02.09

 

Genevaアプリケータの初期使用経験
~ Intra-preplanを用いた組織内ニードルの最適化~


 

診療放射線技師の視点から 合南東北病院診 療放射線科 佐藤啓樹

Genevaアプリケータ(以下、Geneva)を用 い た ハ イ ブ リ ッ ド 小 線 源 治 療( 以 下、HBT)の臨床導入に向けた検討およびワークフローの構築について当院の経験を報告する。また、HBTのさらなる普及と均てん化を目指した取り組みについて紹介する。

HBT対応アプリケータ「Geneva」

GenevaのOvoidには組織内ニードル(以下、ニードル)を刺入するための針穴がある。この針穴から刺入することにより、ニードルの進行方向や角度の再現性が得られる。また、専用のインサーションツールを使用することで、比較的容易に想定した位置や深さまでニードルを刺入することが可能である。これらの特徴から、Genevaを用いることで術者の経験や技量に依存することなくHBTが実施可能になることが期待される。

Genevaの課題とその解決法

フリーハンドでニードルを刺入する場合、エコーガイド下で位置や深さをリアルタイムに調整することが一般的である。しかし、Genevaを用いる場合、エコーによる腫瘍やニードルの描出が困難な場面にしばしば遭遇する。そこで、ニードルの刺入に先立って針穴の位置・深さ・本数を決定するためのシミュレーション法であるIntra-preplanを採用し、Genevaを用いたHBのワークフローを構築した。

Intra-preplanの概要

Intra-preplanの概要を紹介する(図1)。①事前にニードルモデルを準備する。Ovoidの全ての針穴にニードルを挿入してCTを撮影し、放射線治療計画装置(以下、RTPS)上でGenevaおよびニードルの輪郭データを作成する。②治療当日に、TandemとOvoidのみ を 患 者 体 内 に 留 置 し てCTを 撮 影 す る(Tandem・Ovoid CT)。③ニードルモデルとTandem・Ovoid CTをRTPS上でFusionする。④想定されるニードルの刺入位置とHR-CTVの位置関係を3次元的に把握し、使用する針穴の位置・深さ・本数を決定する。治療当日のIntra-preplan(②〜④)には約30分の時間を要するが、Intra-preplan後のニードル刺入はフリーハンドと比較して非常に短時間で実施可能であるため、総治療時間の大幅な延長は生じない。

Implant Modeling機能の応用

Oncentra® Brachy の 機 能 で あ る ImplantModelingを使用してニードルモデルを作成し た。 こ の 場 合、 ニ ー ド ル モ デ ル はApplicator Modelingと同様に動作する。このニードルモデルを使用してIntra-preplanを行うことで事前の線量分布シミュレーションを実現し、予想される線量分布を基にした針穴の位置・深さ・本数の決定が可能となる(図2)。さらに最適化アルゴリズムHIPOを併用することにより、針穴の位置・深さ・本数を最適化計算の結果を基に決定できる可能性がある。このようにRTPS機能の活用もHBTの高精度化やワークフローの効率化に寄与するのではないかと考える。ひいては今後HBTの導入を検討している施設の支援ツールとなることや、施設間におけるHBTの均てん化につながることを期待したい。

放射線治療医の視点から 総合南東北病院 放射線治療科 高川佳明

放射線治療医の視点からIntra-preplanを用いたGenevaの臨床経験を私見も交えて報告する。

適切な位置・深さを決定できるか?

Tandem・Ovoid CTの画像、コンツールしたHR-CTV、ニードルモデルの3つをRTPS上でFusion、これを参考にニードルの位置と深さを決定した(図3)。

(図3 Intra-preplanでニードルの位置・深さを決定する まずAxial画面で使用するニードル位置を決める。この際HR-CTV全体をしっか りカバーできるようにニードルを選択する。次にCoronal・Sagittalで深さを決 める。ニードルのストラクチャーは1cm毎に作成しておくと深さが決定しやすい。)

Intra-preplanのシミュレーションと実際の刺入の結果がほぼ一致していることが治療計画CTで確認できた(図4)。

 

熟練者と若手で差が出るか?Genevaを用いたHBTのDVHを事後検証した(図5)。

(図5 熟練者と若手のDVH比較 1回目と3回目をHBT経験豊富な熟練医師が担当し、2回目と4回目をHBT経験2年未満の若手医師が担当した。DVHは遜色ない結果であった。)

1回目と3回目をHBT経験豊富な熟練医師が担当し、2回目と4回目をHBT経験2年未満の若手医師が担当した。熟練者が施行した1回目HR-CTV D90は7.8Gy、3回目8.5Gyであった。対して若手が施行した2回目HR-CTV D90は10.1Gy、4回 目8.5Gyで あった。またHR-CTVのD98、V100ともに差は無く、外照射45Gy/25fr合算線量も不足は無い。直腸・膀胱・S状結腸のD2ccも許容範囲内であり、若手でも熟練者と遜色ない結果となった。Genevaを用いたHBTでは経験が少ない術者でもニードル刺入が容易である。そのため、どのニードルをどのくらいの深さで刺入するかを正しくシミュレーション出来れば、経験が少ない術者でも熟練者が施行するTRUSガイド下のフリーハンドのニードル刺入と同等のDVHを達成することは十分可能である。本稿で紹介するIntra-preplanはその一助となり得ると考えている。ニードル本数の最適化は可能か?Implant ModelingとHIPOを応用してIntra-preplanを実施してニードル本数を最適化できた症例を経験した。1回目はIntra-preplanを 用 い3本 の ニ ー ド ル を 刺 入 し、HR-CTV D90:8.4Gy、D98:6.9Gy、V100:99.9 %であった。2回目以降はニードルを1本とした が、HR-CTV D90:7.0-7.5Gy、D98:6.2-6.7Gy、V100:99.0-99.5 % で あ り、OARの線量も同等であり、ニードル1本でもニードル3本と同等の線量分布が得られた。ImplantModelingとHIPOを応用すれば、ニードル本数の最適化も可能になると思われる。術後腟断端症例でも

HBTを施行できるか?

子 宮 体 癌 術 後 の 腟 断 端 再 発 に 対 し てGeneva(腟断端用Tandem・Ovoid)を用い
てHBTを施行した症例ではIntra-preplanを用いて左Ovoidの外側ニードル3本を5cm刺入、腫瘍の正中にきれいに刺入できた。なお、この患者は別日施行の際、腫瘍の可動性が高かったせいかアプリケータと腫瘍の位置関係にずれが生じた。この時はアプリケータ全体を逆さまにして固定したが、同様にIntra-preplanを適用可能であった。この手法は後屈子宮の場合も有用と考える。

GenevaはHBTに時短をもたらすか?

Genevaを用いると、2回目以降はあらかじめ使用するニードルをセットした状態でTandem・Ovoidを留置できる。ワークフローが大幅に簡素化され2回目以降のHBTが圧倒的に楽になる(図6)。2回目以降の入室から退室までの総治療時間が1回目に比べて50分も短縮された症例もある。この時短は術者のストレスと患者負担を軽減し、HBT導入のハードルを下げることにも繋がる。ただし、子宮の周囲臓器(特に小腸)は毎回位置が変化することが多いため、毎回ニードル刺入の直前にもCT撮影を行い、ニードルの深さをその都度決定するべきである(図6、7)。

図6 Intra-preplanを用いたワークフロー Genevaを用いると、2回目以降はあらかじめ使用するニードルをセットした状 態でTandem・Ovoidを留置できる。ワークフローが大幅に簡素化され2回目以降のHBTが圧倒的に楽になる。

図7 子宮の周囲臓器の位置の変化 子宮の周囲臓器(特に小腸)は毎回位置が変化することが多いため、2回目以降であっても、毎回ニードル刺入の直前にもCT撮影を行い、ニードルの深さをその都度決定するべきである。

HBTは誰でもできる治療になる?

従来のTRUSガイド下フリーハンド刺入という職人技の継承だけではさらなるHBT普及には限界がある。IGBT時代の標準的アプリケー タ と 言 え るGenevaとIntra-preplanは と ても相性が良く、上手く使えばHBT経験の少ない若手医師でも優れたDVHを達成することができる。基本的に多くの症例でGenevaを用いたHBTが可能と思われるが、腟進展のある症例などではンド刺入も必要と考える。両者の使い分けについては今後も検討が必要である。