IGRT 今後の展開1
次世代国産Oリング型IGRTシステムOXRAY
中村光宏 1)、溝脇尚志 2)
1)京都大学 大学院医学研究科 医学物理学 2)京都大学 大学院医学研究科 放射線腫瘍学・画像応用治療学
はじめに
国産Oリング型IGRTシステムはVero4 DRT( 三 菱 重 工 業 )に 起 源 を 持 つ。Vero4DRTは2008年に医療機器として承認され、京都大学では2010年から臨床使用が始まった。Vero4DRTは2つの大きな特徴を備えていた。1つ目は、呼吸性移動を伴う疾患に対する動体追尾照射である。この技術の臨床的安全性と有効性は、AMEDによる支援の下で実施された肺癌、肝臓癌、膵臓癌に対する多施設共同第II相臨床試験で実証された。2つ目は、ガントリとOリングを同時に回転させることで実現できる連続的なノンコプラナーVMATである。この照射技法によって、前立腺癌や脳腫瘍をはじめとした様々な疾患で線量分布の改善が明らかとなった。
一方で、Vero4DRTには次に示す改善が必要な点がいくつかあった。①装置の
設置には床面下に130cmのスペースを要する点。②最大照射野サイズが15×15cmであるため、広範な標的には対応できなかった点。③初期の放射線治療計画装置(iPlan RT Dose)との連携が不十分であった点。④CBCTが低画質であった点。これらの問題点を克服できなかったことに加えて、三菱重工業がコアビジネスへの 注 力 を 決 定し たことが 契 機となり、2016年を最後に医療市場から撤退した。その後、三菱重工業のX線治療装置事業は日立製作所に譲渡され、2017年からは日立製作所がVero4DRTの保守サービスを担当した。
しかし、京都大学と日立製作所は多方面からの協力を得て、Vero4DRTの後継
機の開発を進めていた。そして、2023年7月19日、日立製作所から次世代国産Oリング型IGRTシステムOXRAYがリリースされた。本稿では、OXRAYの概要と主要データを報告する。
装置仕様
OXRAYはVero4DRTの優れた特徴を継承しつつ、できる限り多くの欠点を補うべく、設計・開発された。主な改良点を以下に示す。
●床面下のスペース削減
●照射野サイズの拡大
●Oリング自体の最高回転速度の増加
●フ ラ ッ ト ニ ン グ フ ィ ル タ ー フ リ ー(FFF)照射モードの追加
●VMAT中の線量率可変機能の追加
●MLC幅のスリム化と最高移動速度の増加
●イメージングシステムの高性能化
●呼吸性移動対策機能の充実OXRAYとVero4DRTの 仕 様 比 較 を 表1にまとめる。
1. 機械的特性
OXRAYの外観を図1に示す。OXRAYは頑丈なOリング形状の構造、その内部に
搭載された超小型Cバンド直線加速器を備えたジンバル駆動式照射ヘッドと2対
の直交kV-X線イメージングシステムに特徴を持つ。床面からOリング頂点までの高さは299cm、Oリング幅は391cm、Oリング内径は200cm、Oリングの奥行きは140cmであり、床面下には75cmのスペースが必要である。ガントリカバーは、ガントリと治療寝台の接触を最小限に抑えるために薄く設計されている。
ガントリは±185°の範囲内を最速7°/sで回転する。さらに、Oリング自体がターンテーブルとともに垂直軸を中心に、±60°の範囲内を最速6°/sで回転する。ガントリとOリングの回転停止位置精度はそれぞれ±0.5°以内である。アイソセンタ照準位置精度はガントリとリングを回転させた状態でも±0.5mm以内を達成できている。なお、照射口には回転機構は備わっていない。
治療寝台は、左右、頭尾、背腹の3軸並進移動に加え、左右軸周り(ピッチ)と頭尾軸周り(ロール)に回転できる。背腹軸周り(ヨー)の回転誤差は、リング回転により補正する。治療寝台の並進成分及び回転成分の精度はそれぞれ±0.1mm及び±0.1°以内である。耐荷重は150kg、最低天板高さは70cmである。
2. 照射システム関連
超小型Cバンド直線加速器はジンバルで支持されており、パン及びチルトの2軸方向に駆動できる。ジンバルの回転範囲は±3°(アイソセンタ面で±50.3mmの移動に相当)、回転精度は±0.1°以内である。ジンバル機構により、装置のたわみで生じるアイソセンタ位置誤差を能動的に補正することができる。さらに、呼吸性移動を伴う標的に対して、ジンバル駆動式照射ヘッドを連続的に動かしながら照射する動体追尾照射も可能である。
フ ラ ット ニ ン グ フ ィ ル タ(FF)は ±0.1mm以内の設置位置精度を有するシフト機構により、FF照射モードとFFF照射モードの切り替えが可能である。MV-X線エネルギーは6MV及び6MV FFFであり、最大線量率はそれぞれ600MU/min及び1200MU/minである。VMAT照射中の線量率はガントリ角度が約20°毎に変調可能となり、線量分布の調整が容易となった。MV-X線源からアイソセンタまでの距 離 は 100cm で あ り、典 型 的 な TPR20,10は6MVで0.668、6MV FFFで0.646である。
照射野はMLCのみで整形され、最大照射野サイズは20×20cmである。MLC幅は中央部40mmまでが2.5mm、その他が5mmである。MLCの高さは11cm、長さは26cm、アイソセンタ面における最高速度は65mm/sである。また、MLC位置精度は±0.5mm以内を達成している。ジンバル駆動式照射ヘッドを利用することで、照射可能範囲を30×30cmまで拡大することができる。図2に照射可能範囲を拡大させたプランの例を示す。鎖骨上側と胸壁側へジンバルを回転させ、照射野のつなぎ目はMLCで調整した。
3. 位置決めシステム関連
位置決めは、治療室内の天井に設置されている赤外線カメラとOリング内部に搭載されているkV-X線イメージングシステムにより行われる。赤外線カメラが固定具や治療寝台に設置されている赤外線反射マーカーの位置を認識し、治療寝台位置が自動的に補正される。一方、kV-X線イメージングシステムにより精密な位置決めが可能である。当該kV-X線イメージングシステムの特徴は、直交2方向から同時撮影が可能であることと2対を利用したCBCT撮影技術にある。位置決めソフトウェアには、日立製の陽子線治療システムで採用されているPIASの拡張バージョンが搭載されている。
kV-X線検出器であるフラットパネル検出器(FPD)は、アイソセンタ面において21×21cmの撮像領域、0.15mmの空間分解能を有しており、ビット深度は16である。直交2方向から撮影しながらガントリを200°回転させると、約15秒の撮影時間でFOVが21φ×21cmのCBCT画像が得られる。また、kV-X線ビーム軸から離れるようにガントリに沿ってFPDをシフト さ せ る こ と が で き、FOVを40φ×21cmまで拡大させることができる。なお、FPDのシフト位置精度は±0.1mm以内である。画像再構成アルゴリズムはフェルドカンプ法に加えて、逐次近似法が利用可能である。
ジンバル駆動式照射ヘッドの対向にはMV-X線検出器であるEPIDが搭載されている。アイソセンタ面において19.8×19.8cmの撮像領域、0.13mmの空間分解能を有しており、ビット深度は16である。始業前点検や各種QC、動体追尾照射での標的位置確認など、活用シーンが多い。
4. 呼吸性移動対策
Vero4DRTと同様に、外部呼吸信号を使用した動体追尾照射が可能である12)。位置決め後に4Dモデルを作成し、外部呼吸信号と標的位置を相関付ける。照射中は、外部呼吸信号の情報を4Dモデルに入力すると標的位置が予測され、これに基づいてジンバル駆動式照射ヘッドが移動し、標的が追尾される。さらに、kV-X線を用いて標的位置をリアルタイムに監視できるだけでなく、実際の標的位置と予測された標的位置の距離が事前に定めた閾値を超えるとビームが自動的にオフとなる機能も備わっている。なお、現時点では標的近傍に金マーカーやビジコイルを留置する必要がある。以下に動体追尾照射に関する検証結果を示す。動体プラットフォーム上に模擬標的を有する立方体ファントムを配置し、プラットフォームを移動量20mm、周期6秒のsin波で動かしつつ、ガントリを回転させながら動体追尾照射を行った。EPID画像から抽出した照射野中心位置と模擬標的中心位置を比較したところ、誤差は0.7mm以内であった。この結果はOリング角度が±20°でも同様であった。また、VMATプ ラン(6MV FFF、半 周2ア ーク、12.5Gy/fr.)を用いて、ファントムが静止時における線量分布と非追尾時における線量分布を較した結果、γパス率(3%/2mm)は10.5%であった。しかし、追尾することでγパス率は97.5%と大幅に上昇した(図3)。
OXRAYで は 動 体 追 尾 照 射 に 加 え て、Vero4DRTではサポートされていなかった息止め照射や呼吸同期照射にも対応している。
治療計画装置との連携
放射線治療装置が有する機能を最大限に引き出すためには、放射線治療計画装置とのシームレスな連携が不可欠である。RaySearch社と緊密に連携して、OXRAYの機械的特性を生かした照射を可能とするモジュールを開発している。その代表がDynamic SwingArc(DSA)である。DSAとは、冒頭部の連続的なノンコプラナーVMATを指す。図4に頭頸部癌に対するDSAの例を示す。DSAにより肩を避けた照射が可能になるため、肩の位置に起因する線量分布への影響を小さくできる。
また、図3で示した照射可能範囲を拡大させたプランとの併用や、DSA軌道のカスタマイズ、マルチアイソセンタ照射技法などを活用することにより、OXRAYの最大照射野サイズである20cmを超える標的にも対応できる(図5)。
6. 操作卓とモニター
操作卓とモニターも洗礼されたデザインと性能を備えている。操作卓の大きさはタブレットの画面サイズ程度であり、照射・撮影のフローを意識した人間工学に 基 づくデ ザ イン が 採 用され て いる。Vero4DRTでは、EPIDモニター、オペレーションモニター、位置照合用モニター、イメージングモニターの合計4台のモニターが必要であったが、OXRAYではこれらが31.5インチの1台のモニターに統合された。また、ガイダンスが日本語で表示される点も国産製品の特徴の一つである。
さいごに
次世代国産Oリング型IGRTシステムOXRAYの概要と主要データを報告した。Vero4DRT独自の優位性を受け継ぎながら、利便性と機能性を更に向上させるため、精緻な設計と開発が積み重ねられた。ジンバル駆動式照射ヘッドを駆使した動体追尾照射や照射可能範囲の拡大、これらの機能をVMATやDSAと併用した独自の照射技術、OXRAYにしかできないイメージング、そして更なるハードやソフトの拡張や新しい機能の充実など、OXRAYは将来性と成長性に溢れており、今後の展開が期待される。
謝辞
この紙面をお借りし、京都大学医学部附属病院 放射線治療部門の皆様および日立製作所の関係者の皆様に、深く感謝申し上げます。今回は僭越ながら原稿を執筆させていただきましたが、本研究成果は皆様の協力と努力により成し遂げられたものであり、これに感謝の意を表します。
我々のプロジェクトは数々の困難を乗り越えながらも着実に進行し、今回の成果を得ることができました。これからも新たな課題に立ち向かう覚悟ですので、皆様の専門知識と協力を活かし、シナジーを生み出して前進していきましょう。改めて、心より感謝申し上げます。