AVPは本邦で3モデルが使用可能である。屈曲・小血管に不向きなAVP IIの欠点を補うAVP 4は、造影カテーテルによるデリバリーが可能であり、migrationを抑え、標的部位に的確な留置が可能なデバイスである。本稿ではAVP 4使用の際に必要な知識、また同デバイスを用いた塞栓の実際について解説する。
日本医科大学付属病院放射線科
村田 智/上田達夫/杉原史恵/安井大祐/齊藤英正/三樹いずみ/小野澤志郎/汲田伸一郎
AMPLATZERTM Vascular Plug(AVP)
AMPLATZERTM Vascular Plug(AVP、セント・ジュード・メディカル(株))は、血流の多い中〜大血管に対する末梢血管塞栓デバイスとして使用されている。本デバイスの最大の特徴は、migrationが少なく、血流量の多い血管の塞栓が可能な点であり、再開通率も低い1)。このAVPには、AVP、AVP II、AVP 4と3つのモデルが、日本で市販されている。各モデルは異なる血管解剖、血流動態に適するようデザインされており、新型、旧型に優劣はなく、用途に応じて使い分ける適材適所なラインナップである。推奨されているAVPのサイズは、対象となる動脈内径より30〜50%大きいもの、静脈では50%大きいものとされているが、経験上は動脈でも50%程度大きいものを選んだ方が塞栓力は高い。
当院におけるAVP II使用経験
当院では2013年10月〜2016年8月までの間に、63例に対し76個のAVP IIを使用している。その内訳は腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(EVAR)前の使用が33例、骨盤内進行癌に対する閉鎖循環下骨盤内灌流化学療法(NIPP)における上殿動脈の塞栓が20例などであり、そのほとんどが中〜大血管の塞栓である。AVP IIを使用した症例を1例紹介する(図1)。本症例は50歳代男性で、大量の難治性腹水を有しており(図1a)、経頸静脈肝内門脈体循環シャント術(TIPS)を施行した。術後、腹水は減少したが(図1b)、血中アンモニア値が498μg/dLに上昇し肝性昏睡となったため、TIPSを塞栓することを依頼された。塞栓に際し、コイルなどではmigrationのリスクが高く、安全性の面からAVP IIを用いた。AVP IIは門脈枝および肝静脈にかからないように塞栓することが可能であった(図1c、d)。図1cの矢印はAVP IIである。TIPS閉塞後の血中アンモニア値は53 μg/dLに低下し、現在も基準値以内を維持している。このように、AVP IIは塞栓したい部位のみの塞栓が可能なデバイスであり、安全性の面からも非常に優れた塞栓物質である。ただし、AVPおよびAVP IIにおいては6Fr以上の太いシースまたはガイディングカテーテルが必要であり、EVAR前の塞栓などでは問題ないが、屈曲の高度な血管または小血管の塞栓においては技術的に困難であり、無理やりデバイスを進めようとすると医療事故にもつながる危険性があり、注意が必要である。
AVP 4を活用するために必要な知識とは?
上記のようなAVP IIの欠点を受け、AVP 4が開発された。本デバイスはprofileがさらに細径化され、柔軟性も向上したため屈曲血管へのデリバリーが容易となっており、0.038インチの造影カテーテルによるデリバリーが可能な点が特徴である。これにより、消化管出血や肺動静脈奇形(PAVM)、化学療法・放射線療法前の胃十二指腸動脈(GDA)塞栓、精巣・卵巣静脈塞栓といった、造影カテーテルによるデリバリーが可能な様々な血管の塞栓が可能になったといわれている。実際のAVP 4使用例として、海外ではEVAR施行前の下腸間膜動脈(IMA)の塞栓2)や、放射線塞栓療法前のGDA塞栓3)などが多い。ところが本邦ではAVP 4はあまり普及しておらず、使い勝手が悪いとの評判をよく耳にする。その理由として、本デバイスは「0.038インチの造影カテーテルによるデリバリーが可能で、カテーテルの交換が不要」とされてるものの、実は4Frの造影カテーテルの中でもbraided shaftを有するものを用いる方が、容易にデリバリーができる点が挙げられる。欧米では5Fr Boston Scientific IMAGERTM II、4Fr Cordis TEMPOTM、4Fr Cordis TEMPOTM AQUATM、5Fr Merit Medical IMPRESSTMを用いたAVP 4の使用は検証されており、留置が可能とされている。これらのカテーテルは全てがbraided shaftを有している。日本で入手可能なbraided shaftを有するカテーテルには、4Fr Cordis TEMPOTMがある。本カテーテルが挿入可能であれば、どの部位でも塞栓が可能であり、AVP 4を活用するためには、必要不可欠といっても過言ではない。
当科におけるAVP 4使用の実際
当科では2014年9月〜2016年8月までの約2年間で47例に対し69個のAVP 4を使用している。当院では骨盤内癌に対しNIPPを施行するほぼ全例でAVP 4を用いているため、多くがNIPPに関連した症例(36例) だったが、肺のAVMやGDA仮性動脈瘤の塞栓などにも使用している。塞栓のポイントとしては如何に標的血管にTEMPOTMカテーテルを進めることができるかにかかっている。同カテーテルを進めることができれAVP 4を留置することは容易である。
1.NIPPへの使用
NIPPを施行する際には、正常組織に可能な限り高濃度抗がん剤の曝露を避ける必要性があるため、上殿動脈が腫瘍を栄養しない場合、通常上殿動脈を塞栓している。塞栓する際、対側の上殿動脈では腹部大動脈分岐部が高度に屈曲している場合、通常の造影カテーテルではAVP 4を通過させることが困難な場合が多い。TEMPOTMカテーテルを使用した場合はAVP 4はストレスなくデリバリー可能である。同側の上殿動脈を塞栓する場合は同側の内腸骨動脈の屈曲はさらに高度になる。我々の施設では同側に対してはループをつくり同側上殿動脈にカテーテルを挿入し、カテーテルの形を整えた後にデバイスを挿入しているが、TEMPOTMを使用することでAVP 4は容易にデリバリー可能である(図2)。
2.穿刺ルート塞栓物質としてのAVP 4の利用
大量腹水を伴う静脈瘤破裂症例や門脈血栓症患者の治療は困難を極め、特にTIPS不成功症例では死に至る病態である。我々の施設ではこのような症例に対し、IVR治療を求められることが少なくない。IVRの適応外といってしまえばそれまでだが、患者の死が迫っているときに今まで培ってきた経験と技術を駆使して救命しようとすることはIVR医の本望であると私は信じている。AVPが市販されてから特殊な症例の穿刺ルート塞栓が容易になった。ここでは大量腹水の患者に対する門脈アプローチ方法を紹介する。
❶難治性腹水を伴う直腸静脈瘤破裂症例での応用
症例は60歳代男性で、出血性ショックにて緊急搬送された。TIPSが挿入されていたが、1年半前から閉塞していた。CTでは高度の肝硬変および大量の腹水が認められた(図3a、b)。内科的処置では循環動態が保てないためIVRによる塞栓術の依頼を受けた。大量の腹水のため経皮経肝的に門脈にアプローチすることは危険を伴うと同時に残存肝機能の面からも避けるべきと考え、脾臓からのアプローチを選択した。下腸間膜造影にて直腸静脈瘤を確認後、静脈瘤を塞栓するため、経皮経脾的に脾静脈にカテーテルを進めた。下腸間膜静脈にバルーンカテーテルを進めて、まず液体塞栓物質(EO)を用いて塞栓し(図3c)、塞栓が不十分な部分はシアノアクリレート系薬剤(n-butyl-2-cyanoacrylate;NBCA)を用い塞栓し、止血が完了した(図3d)。その後、カテーテル抜去の際に最初はInterlock coilを用いてアンカーとしようとしたがmigrationしたため、TEMPOTMカテーテルに入れ替えてmigrationしないAVP 4を留置してアンカーとし、脾臓の穿刺ルート内をNBCAにて充填し終了した(図3e)。破裂静脈瘤塞栓術により患者の循環動態は安定し、穿刺部からの出血も認めなかった。AVP 4のアンカーとしての使い方である。反省すべき点は最初からAVP 4を用いるべきであったことである。
❷難治性腹水を伴う門脈血栓症(PVT)患者への応用
症例は50歳代男性で、大量の腹水を認め、静脈瘤も発達し、門脈は閉塞していた。他院で腹水に対しTIPSを試みたがPVTのため施行できず、当院でもTIPSは不可能と判断され、IVRによるPVT治療を依頼された。大量の腹水のため経皮経肝的アプローチは困難であると考え、超音波ガイド下に脾静脈からアプローチした。万一の脾出血に備え、脾動脈にもカテーテルを挿入していつでも塞栓できるようにした。門脈本管は完全に閉塞しており、ガイドワイヤーを駆使して門脈血栓内にカテーテルを通過させ、門脈左右枝の血栓に対し、血栓破砕・吸引・PTAを行い、門脈本管にステントを留置して門脈開存を確保した。その後、脾静脈へAVP 4を2つ留置してアンカーとし、そこからの穿刺ルートにNBCAを充填し、手技を終えた。穿刺部からの出血はなく合併症もなかった。患者の腹水はほぼ消失し、経過は良好である。
AVP 4のメリット、デメリット
AVP 4のメリットとしては、①0.038インチ造影カテーテルが使用可能、②正確な位置決め、③迅速かつdurableな閉塞、④再位置決めが可能、⑤migrationリスクが低い、などがいわれており、これらは経験上その通りである。実際に当院ではmigrationは1例も経験していない。また、これらに加え、⑥デリバリーのコントロール、⑦手技時間の短縮、⑧被曝の低減などが可能とされている。また、このメリットを得るためには、braided shaftの造影カテーテルを用いることが薦められる。AVP 4のデメリットとしては、AVP 4 の径が最大8mmであることから、6mm以下の血管のみが対象という点があり、実際にAVP 4のみで塞栓可能なのは5.5mm程度までの血管である。これより大きい血管にAVP 4を用いる場合は、NBCAやコイルなどを追加する必要性がある。