2025年2月10日、株式会社島津製作所は同社大ホールにて「第102回レントゲン祭・記念講演会」を開催した。島津製作所では、X線を発見したヴィルヘルム・レントゲン博士の功績を称え、同氏の命日である2月1日に「レントゲン祭」を毎年開催している。
まず式辞として園木清人氏(島津製作所常務執行役員 医用機器事業部長)が登壇。園木氏は、先進国を中心とした高齢化や医療費の増大、医療従事者不足といった社会問題に触れ、X線画像診断分野ではAI技術の活用や自動化が進んでいることを説明し、島津製作所が取り組んでいる「イメージングトランスフォーメーション(IMX)」を紹介した。
さらに、「2025年3月31日に創業150周年を迎える島津製作所は、これからも人と社会に真摯に向き合い、このイメージングトランスフォーメーションの推進し、医師や診療放射線技師及び患者様の皆様の負担軽減を支援する製品開発を目指して参ります」と述べ、式辞をまとめた。
続いて、山本靖則氏(島津製作所代表取締役社長)が壇上に上がり、レントゲン氏の生い立ちや経歴、ノーベル賞以外の全ての賞を辞退したことや、人類がX線を広く利用することを望んだことから特許取得を断わったエピソードを紹介。レントゲン氏の功績を称え、祭壇に献花を行った。

休憩を挟み、引き続き行われた記念講演会では、まず山本淳也氏(島津製作所医用機器事業部技術部)が「島津製作所AI活用の取組み」と題した講演を行った。山本氏は、一般撮影装置や回診用装置、X線TV装置、血管撮影装置などの装置で必要とされる用途や課題に合わせて開発を行ってきた島津製作所のAI技術を紹介した。
椎体・大腿骨セグメンテーション「SmartBMD AI Assist」は、AI機能により骨密度の低い箇所での摘出精度・椎体の認識精度を高めることでセグメンテーション精度の向上、作業の省力化および効率化を実現。また、様々な形状の遺残物の確認を支援する回診用X線撮影装置のソフトウェア「Smart DSI」や、ノイズの多い画像でもリアルタイムでデバイス領域を抽出するAI搭載画像処理エンジン「SCORE Opera」は医療の安全を支える技術であると説明。椎体計測ソフトウェアである「Smart QM」は、簡便で定量的な椎体計測により早期での骨粗鬆症診断をサポートすることから、適切な治療を可能にする点を強調した。 最後に、山本氏は「島津製作所は医療現場に寄り添いながら、業務効率化、医療安全、定量評価を軸に、更なる医療の質の向上に貢献するため、積極的にAI技術を活用し、社会実装を進めていく」と話し、講演をまとめた。

続いて、山田 恵氏(京都府立医科大学 放射線医学教室教授)が登壇し、「放射線医学の課題と近未来」と題した講演を行った。山田氏は放射線医学の歴史と近年のトレンド、また自身の経歴を語ったのちに、日本の医療現場の実情と世界との実情を比較し、日本医療が抱えている「生産性の低さ」と「患者満足度の低さ」を問題点として指摘。
その背景には、年功序列や日本人の議論を避ける性質、対話不全、専門分化と標準化といった分業が進まない実情、情報開示の遅れや根強い学閥意識があると説明した。そのような現状への対応として、日本が世界から決定的に遅れ始めている事を認識・意識共有し、集約化と標準化を同時に推し進め、人材の流動性を高める必要性があるとした。さらに、「国内の医療需要が頭打ちであるという現実を受け止めて世界に目を向け、階級主義的な自らのバイアスに気付く必要性、トップの緻密な戦略を練ることが重要である」と話し、日本医療および日本社会が進むべき方向性を示した。
