肝臓・前立腺がん(腫瘍)をとらえる最新治療にあらたな一歩
●研究成果のポイント
・「画像誘導放射線治療技術」や「動体追跡・追尾放射線治療」に使用する医療機器(販売名:金マーカ刺入キット)が6月1日付けで保険適用に。
・金マーカを腫瘍のそばに置くことで、腫瘍のみに放射線を照射することができる最先端の治療技術。
・北海道大学の研究開発成果(高精度放射線治療の研究開発)が着実に進んでいる。
●研究成果の概要
・背景
がんの放射線治療では、①腫瘍への的確な照射、②正常部位への照射回避を目的として、いかに精度よく腫瘍のみに放射線を照射できるかが重要である。肝臓がん、前立腺がんにおいて、これまでは、呼吸や腸の動きによって腫瘍の位置が動くために腫瘍のみに放射線を照射することが難しい場合があった。北海道大学大学院医学研究科の白土博樹教授は、臓器の動きの予測が難しいという人体の本質を見つめ続け、人体の本質に逆らわずに腫瘍に放射線を照射する「画像誘導放射線治療」や「動体追跡・追尾放射線治療」の研究開発を進めてきた。白土教授の同研究開発は世界トップレベルとなり、現在、世界の放射線研究のスタンダードになりつつある。
・研究手法
今回保険収載となった「金マーカ刺入キット」は、肝臓がん、前立腺がん治療で「画像誘導放射線治療」や「動体追跡・追尾放射線治療」を行うための医療機器である。これらの放射線治療では、治療前に腫瘍のそばに金マーカを留置して、金マーカの場所を高精度コンピュータで解析する。治療時に予め計画した位置に金マーカがあることを確認しながら、腫瘍のみを狙い撃ちする仕組みである。これによって、前述の①腫瘍への的確な照射、②正常部位への照射回避を、高い確率で実現することができるようになった。
金マーカは、生体内での安全性とX線透視での十分な視認性を両立することが難しかったが、これを白土教授は、メディキット㈱(本社:東京都文京区、代表取締役社長:栗田宣文)、北海道大学病院の放射線診断科や泌尿器科との10年に渡る研究で実現した。「金マーカ刺入キット」は、放射線治療の精度等を高めるための重要な医療機器である。
・研究成果
今回の「金マーカ刺入キット」は、厚生労働省からの製造販売承認(2012年4月)を受けて、この度の保険収載となった。同キットは医療機器メーカのメディキット㈱と共同で研究開発を手がけてきたが、同キットが保険適用になったことで、がん患者の方々へ高精度な放射線治療を広めることが可能になる。また、従来は安全性への不安で十分な放射線治療が困難だったがんの場合にも、治癒に必要な線量を照射することが可能になると期待できる。
・今後への期待
同キットは、呼吸性移動の大きな肝臓がんの治療や、体が厚い方においても、X線透視で十分に自動認識できる金マーカを体内に留置できるメリットがある。金マーカを刺入する手技には抵抗がある人もいるが、長い目でみると放射線照射時の精度を向上させることが極めて重要であることを、多くの医療従事者・がん患者が理解し、同キットが治療に役立つという理解促進につながることが期待される。
●金マーカ刺入キットの概要
「金マーカ刺入キット」は、X線観察下において視認可能な金マーカと、金マーカを経皮的に前立腺、肝臓領域へ挿入するためのイントロデューサをキット化したものである。キット内に同梱される金マーカは1~4 個となっており、適用部位や目標とする位置精度によって最適なキットを選択可能である。
販売名:金マーカ刺入キット(一般的名称:植込み型病変識別マーカ)
医療機器承認番号:22400BZX00164000
発売元:メディキット㈱
製造販売元:東郷メディキット㈱
特定診療報酬算定医療機器の区分:経皮病変識別マーカ
診療報酬項目:K007-2 経皮的放射線治療用金属マーカー留置術
●お問い合わせ
北海道大学大学院医学研究科内北海道臨床開発機構
広報
TEL: 011-706-7446
URL:http://www.med.hokudai.ac.jp/~htr/index.html
メディキット㈱
総務部
TEL: 03-3839-0732
URL:http://www.medikit.co.jp/
呼吸で腫瘍が動いても、計画位置に金マーカがきたときのみ放射線が照射される。