第119回日本解剖学会総会・全国学術集会で解剖学教育のシンポジウムが開催

2014.04.07
永島雅文氏
小林泰之氏
松尾義朋氏
上山敬司氏
粟田さち子氏
中島康雄氏
長谷川仁志氏
 2014年3月27日、第119回日本解剖学会総会・全国学術集会において、教育に関する共同シンポジウム”人体解剖学および画像解剖学の包括的医学教育:CT・MRIデジタル画像データを利用した解剖学教育システムの構築”が開催された。
 
 同シンポジウムは、放射線科医と解剖学者が一堂に会すという画期的なもの。画像医学の新しい技術を用いた解剖学教育について、7人の演者が登壇し、多くの角度から議論がなされた。

 永島雅文氏(埼玉医科大学医学部解剖学) は同氏が行っている構造系実習を紹介し、解剖学教育において放射線科の画像を使用することの有用性に言及した。この実習により学生は、解剖学の知識が画像診断や治療手技に応用される事例を説明できるようになるという。

 小林泰之氏(聖マリアンナ医科大学放射線医学講座)は、CT/MRIによるボリュームデータを用いた3D表示とデータマネジメントについて講演。CTによるVolume Dataの取得は、装置の進歩により容易となっており、また、優れた画像処理ソフトの低コストでの利用も可能である現状を紹介し、医学教育においてこれらの進歩を積極的に利用すべきと述べた。

 松尾義朋氏(イーサイトヘルスケア)は、画像診断クラウドを応用した画像解剖・画像診断教育システムの構築について述べた。イーサイトヘルスケアでは、「神田塾」と称し、クラウドを利用した、医師対象の画像診断の講習会を開催している。神田塾は、講師と参加者が教育症例を持ち寄って画像診断のディスカッションを重ねることで診断力のスキルアップを図る講習会で、好評を博しているという。同氏は神田塾の経験を踏まえ、このような教育システムの医学教育への導入を提案した。

 上山敬司氏(和歌山県立医科大学解剖学第一講座)は、解剖学教員としてCT・MRIの画像を用いた3次元人体アトラスを作成した経験から、これからの解剖学教材について講演。3Dアトラスでは、主要臓器の形態、位置関係を3次元で表示でき、肉眼解剖実習とは違う見方ができる、繰り返し学習できるなどの利点があり、今後の解剖学教材としての魅力を紹介した。

 粟田さち子氏(群馬大学医学部附属病院核医学科) は、放射線科医である同氏が解剖学実習へ参加しての経験を報告。解剖学実習では、放射線科医が実習前にCT解剖について講義し、学生は撮影したCTを読影する。学生は死後の所見を解剖所見と照合できるようになり、また、このような実習への参加により放射線科医も読影能力の向上が期待できるという面もあると述べた。

 中島康雄氏(聖マリアンナ医科大学放射線医学講座)は、放射線科で撮影した画像を医学教育に用いる際の医療倫理の問題点について言及。医用画像は共有することによって診療、教育、研究に大きく寄与するが、本人特定が出来る画像には注意が必要であり、また、画像が故意に加工された場合は肖像権の侵害にあたる可能性があり、注意を要すると述べた。

 長谷川仁志氏(秋田大学大学院医学系研究科医学教育学講座)は医学教育の問題点について講演。現状では各分野・学年ごとのカリキュラムの連携・連続性が欠如していると述べ、わが国の医学教育は病的であると指摘した。今後は、各分野横断的カリキュラムを作成し統合教育を行うべきと訴えた。解剖学の授業についても、現状では軽んじられる傾向にあるが、統合教育の観点から重視すべき科目であると述べた。

 また、各演者の講演後の質疑応答では、活発な議論が交わされ、シンポジウムは盛況のうちに幕を閉じた。