第15回日本核医学会春季大会ランチョンセミナー :骨転移の診断・治療戦略と核医学

2015.07.31

 

Seminar 1 骨転移診断UPDATE  小泉 満先生(がん研究会有明病院画像診断センター核医学部)
Seminar 2 骨転移をBONENAVIで診る  溝上 敦先生(金沢大学附属病院泌尿器科)

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第15回日本核医学会春季大会ランチョンセミナー

骨転移の診断・治療戦略と核医学

 

[日時] 2015年4月26日
[会場]タワーホール船堀
[共催]富士フイルムRIファーマ株式会社

座長

 

立石宇貴秀先生
東京医科歯科大学医学部附属病院放射線診断科


 

Seminar 1

骨転移診断UPDATE
 

 
  
小泉 満先生
がん研究会有明病院画像診断センター核医学部

 

図1 骨転移の頻度
図2 溶骨型の骨転移像 出典:小泉 満先生 ご提供
図3 造骨型の骨転移像 出典:小泉 満先生 ご提供
図4 骨転移と骨折の比較 出典:小泉 満先生 ご提供
図5 前立腺がんにおけるBONENAVI Version.2の診断能
Koizumi M et al:Ann Nucl Med.2015;29:138-148,Table 4より作表
図6 乳がんにおけるBONENAVI Version.2の診断能
Koizumi M et al:Ann Nucl Med.2015;29:138-148,Table 4より作表
1 骨転移巣ではなにが生じているのか?
 さまざまながんの骨転移巣の組織に破骨細胞が染色されるTRAP染色を行うと、腫瘍と骨の間の破骨細胞が濃染され、破骨細胞の数が増加している様子が見られ、骨転移巣では破骨細胞が溶骨の主体として主要な役割を果たすということが近年知られている。
 骨転移巣では、溶骨が進行していくと同時に、溶骨に対する生体反応として造骨反応が起こる。骨が溶けることによってTGF-βやIGFが遊離し、これらががん細胞を刺激することによって、がん細胞がさらに増殖する、という悪性サイクルが形成されるのである。
 

2 骨転移成立機序と画像診断のモダリティ
 骨転移成立機序の観点から、転移の種類を分類すると、骨の辺縁から拡がる直接浸潤とリンパ行性転移、骨の中から拡がる血行性転移などに分類される。直接浸潤は珍しいケースであるが、肺がんの肺尖部胸壁浸潤がん、上咽頭がんの頭蓋底への浸潤などがあげられる。リンパ行性転移の場合はリンパ節転移後、二次的に骨に浸潤が起こるケースで、これも頻度は高くない。最も多いのは血行性転移で、がんの骨転移の主要経路である。この転移の特徴として、骨髄にがん細胞が到達して増殖することがあげられる。すなわち、骨転移の始まりは、骨髄からといえる。
 一般的に骨転移が多い原発巣は、前立腺がん、乳がん、肺がん、甲状腺がん、腎がんなどで、骨転移の頻度としては図1のとおりである。例えば混合型が多い乳がんについて、当院2013~2014年の新規骨転移45例の内訳をみると、溶骨型、造骨型がそれぞれ8例(18%)、混合型が22例(49%)、骨梁間型が7例(16%)と多彩な転移を示すことがわかる。
 一般的には、溶骨病変の診断にはFDG-PETのほうが優れており(図2)、造骨病変には骨シンチのほうが優れていると言われている(図3)。そのため、肺がんや甲状腺がんのような溶骨病変が多い場合はFDG-PETを、造骨病変が多い前立腺がんでは骨シンチが推奨されると考えられる。
 当院で2013年1月~2014年6月までの乳がん症例(患者ベース)の骨シンチおよびFDG-PETの感度を検証すると、骨シンチは79%(26/33)、FDG- PETで91%(30/33)、CTで76%(25/33)、FDG-PET/CTでは100%(33/33)という結果であった。

 
3 骨シンチ読影のTIPS
 骨シンチによる骨転移の診断において、基本となるのは骨転移の頻度、部位、性状である。また、実臨床での集積のパターン認識と、ピットフォールの知識も併せ持っていれば、日々の診断精度は向上するであろう。
 骨シンチ読影の最大のポイントは、「骨転移は骨髄から」という点であり、骨髄のないところへの転移は非常に少ない、という特徴を理解することである。つまり、転移性骨腫瘍は骨髄で増殖するために、骨の長軸方向に進展しやすい。ただし骨髄炎の画像所見も同様の傾向を示すため、これらの鑑別は重要である。転移性骨腫瘍はドーナツ型で、不均一な分布、赤色骨髄の分布にほぼ一致する、といったTIPSが挙げられる。
 図4は肋骨転移と骨折の症例である。骨転移(左)は肋骨に沿った形で長軸方向に進展するが、外傷骨折(右)は骨に対して垂直方向に進展しやすいという特徴がある。骨髄炎との鑑別においては、骨髄炎は一般的に集積がスムーズな形状になる。また、骨転移は骨の中(骨髄)から起こるが、変性変化は関節面の両側に生じるという特徴がある。

 
4 BONENAVIの有用性
 CAD(Computer-Assisted Diagnosis)による骨シンチ診断として、富士フイルムRIファーマ株式会社の骨シンチ診断支援ソフトBONENAVIが注目を集めている。これはEXINI boneに日本人データベースを搭載した、日本人向けのソフトウェアで、骨シンチグラムの正規化を行って、ホットスポットを抽出し、Artifi cial Neural Network(ANN)による判断を行っている。ANN値は0~1の値により異常の可能性を示すもので、1に近づくほど異常(転移)の可能性が高いことを示す。また、全身にどれだけ骨転移が拡がっているかということを評価するBone Scan Index(BSI)が算出されることも特徴的な機能である。
 骨シンチは感度は高いが特異度はそれほど高くない、ということが以前からの認識であり、RECIST1.1においては、特に造骨型の骨転移を定量的に評価することは困難だといわれている。しかしBONENAVIのBSIは、前立腺がんの評価においては有用性が高いという報告が国内外で多数検証されている。
 2013年には、特異度の問題を改善した最新版としてBONENAVI Version.2がリリースされている。BONENAVI Version.2の診断能を当院で評価したところ、感度は85%(121/142)、特異度は正常例で82%(40/ 49)、異常所見がみられる場合は81%(99/122)であった。ただし、BONENAVIはあくまで読影をサポートするツールであり、BONENAVIの結果だけに頼るのではなく、読影医による最終診断が重要である。前立腺がんおよび乳がんにおけるBONENAVIの診断能は図5、6のとおりで、きわめて良好な成績であった。造骨型病変で見落としていたものは、微小な病変3例と、膀胱付近の1例であった。乳がんに関しては、骨梁間型の判断にやや弱い傾向がみられるが、こちらもきわめて高い成績であった。BONENAVI Version.2は総じて、Version.1同等に感度、特異度は高いという印象であった。欠損部位などの評価は難しいという点は残るが、BSI骨転移量の自動定量評価については、前立腺がんは特に優れており、肺がん、乳がんについてもまずまずの成績であった。前立腺がんにおいて、BONENAVIはバイオマーカーとしての可能性を十分に確立していると考える。

 
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Seminar 2

骨転移をBONENAVIで診る
 

 
  
溝上 敦先生
金沢大学附属病院泌尿器科

 

1 前立腺がんの進行と治療腫瘍マーカー(PSA)とは
 がんの骨転移が進行すると、骨痛、病的骨折等のSRE(骨関連事象)が悪化し、痛みからくるQOLの低下だけでなく、造血能の低下、ひいてはがん悪液質など深刻な症状に至る。前立腺がんは特に骨転移が多いことがよく知られているため、骨転移への正しい理解が重要であるが、原発部位の前立腺がんと骨転移部位の前立腺がんは、再燃後は大きな違いがある。
 正常な前立腺細胞と同様に、早期の前立腺がんの細胞にもアンドロゲン受容体(AR)が存在するため、ARの働きを抑える抗アンドロゲン剤などのホルモン療法を行う。原発部位の前立腺がんと骨転移部位の前立腺がんのどちらもホルモン療法にはよく反応し、ほとんどの患者は劇的に改善するが、徐々にホルモン療法に抵抗性を示す去勢抵抗性前立腺がん
(Castration Resistant Protate Cancer:CRPC)に変化して再燃するケースがある。CRPCを呈すものの8割近くは骨転移を伴う前立腺がんである。これほどの違いを示す理由としては、可能性は様々であるが、前立腺と骨とではがん細胞の増殖スピードが全く違うということを示していると考えられる。
 CRPCの再燃の評価には本来、腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)、画像診断、症状から総合的に判断すべきであるが、現状はPSAだけでCRPCを判断していることが多い。本当にPSAだけで十分なのか考える必要がある。
 

図1 ホルモン療法により骨転移が改善した症例
出典:溝上 敦先生 ご提供
図2 再燃後にドセタキセル治療を行った症例
出典:溝上 敦先生 ご提供
図3 フレア現象を呈した症例
出典:溝上 敦先生 ご提供
図4 PSAの変化の模式図
2 骨転移の有無を調べる骨シンチとBONENAVIへの期待
 前立腺がんの骨転移を画像で評価していく際に、我々の施設では主に骨シンチを行っている。多くのケースで造骨性変化を示す前立腺がんの骨転移においては、骨シンチが特に有用である。従来、骨転移の有無については、EOD(Extent of Disease)Scoreという、骨シンチのホットスポットの数によって5段階に分けた指標で評価する。0は転移なし、1は1~5個の骨転移、2は6~20個の骨転移、3は20個を超えるもので、Super scanではないもの、4はSuper scanである。しかし、EODスコアはあくまで定性的なものであり、骨盤部に非常に強い集積を示して、骨転移のEOD scoreが1なのか2なのか判定に苦慮するケースにもよく遭遇する。
 そこで、骨転移量を定量化するツールとしてBONENAVIへの注目が高まっている。BONENAVIは、骨シンチのホットスポットをBSI(Bone Scan Index)という指標で定量的に算出することができる。また、数値化されたホットスポットの経時的な変化を追うことができるという点で非常に優れたツールであり、画像バイオマーカーとしての可能性も大いに期待されている。

 
3 BONENAVIで評価したホルモン療法による骨転移の変化
 図1は、ホルモン療法実施前の骨転移がホルモン療法の開始とともに改善していった症例である。ホルモン療法前のBSIは3.90%であったが、治療後は0.12%まで改善した。再燃してCRPCとなった際には、BSIは4.30%まで悪化している。BONENAVIを用いたことで、これらの経過を数値的に理解することができる。
 図1下は同症例のBSIの経時的変化を、PSA値および骨形成マーカー(BAP)、骨転移マーカー(ICTP)とともにプロットしたものである。治療前はPSA値が約2,163、BSIが3.90%と高値であったが、ホルモン療法開始とともにPSA値は減少し、約半年で最低値3.1まで低下した。BSIも0.12%まで改善している。その後、PSA値は徐々に悪化して41.8に上昇。この時点で再発となっていたのだが、PSA値は2,163→41.8と、当初の1/50程度しかないにもかかわらず、BSIは4.30%まで悪化している点に注目したい。骨シンチを併用していたことで、診断時と同程度まで骨転移が悪化していることがわかったが、もしPSA値だけで評価していた場合、特に痛みもないという状態であれば、PSA値の低さから再燃の程度を軽視してまだ放置されていたかもしれない。

 
4 BONENAVIを用いたドセタキセルの効果判定
 図2は、再燃後にドセタキセル治療を行った例である。ドセタキセルによって骨転移( 赤色)が減少していく様子がよくわかる(図2上)。再燃前にはホルモン療法として様々な抗アンドロゲン剤を使用したが、最終的にPSA値は徐々に上昇していき1,908となり、BSIも同時期に9.72%に急上昇している。その再燃のタイミングでドセタキセルを使用することで劇的にPSA値、BSIともに改善した。ただ後半、BSIが7.72%に下がっているにも関わらず、PSA値が増加していたためCTを撮影したところ、肝転移が出現していたことがわかった。骨シンチは骨転移には有効な手段だが、内臓転移の評価は困難である。各モダリティの長所・短所を理解し、CTによる定期的なフォローアップも重要であろう。 図3はフレア現象を呈した例である。再燃後のPSA値は2,000近くまで上昇したが、ドセタキセル使用開始とともに速やかに低下していった。ところが、ドセタキセル使用直前のBSIが7.66%、使用5ヶ月後のBSIは11.76%まで上昇していた(図3上)。骨転移の指標は5ヶ月程度遅れてようやく下がっていったという結果であった。多くの場合、3ヶ月程度でフレア現象が見られ、半年程度の経過を見れば改善が認められることが多いと思われる。
 
5 前立腺がん再燃、PSA再上昇の機序
 なぜ前立腺がんの再燃時にPSAが再上昇するのか、その機序は次のように考えられる。PSAは男性ホルモンの影響を受けて、正常細胞および前立腺がん細胞から分泌されている。ホルモン療法によって、PSAの分泌量は減少し、がん細胞の数も減ってくる。しかし再燃時には、細胞増殖因子などによってがん細胞から産生されるPSAの分泌量が増えてくる。もう1つ重要なのは、がん細胞自身の総数が増加している点であろう。がん細胞はサイトカインや細胞増殖因子の影響を受けて総数が増えていくため、総数が増えた分だけPSAの分泌量が増えているのではないかと考えられる(図4)
 実際の患者においては、ARの活性化とがん細胞の総数増加、両方の要因があるだろう。図1の場合は、おそらくは、骨転移の中でがん細胞が増加した結果としてPSA値の増加につながったと考えている。繰り返しになるが、PSA値の変化だけを追跡しても、前立腺がんの再燃・再発はわからない。骨シンチを始めとする画像検査を適切に併用して経過を追うことが重要であろう。
 以上の症例から、BONENAVIによる骨転移の定量化は、骨転移の経時的変化をフォローするのに非常に有用である。そしてPSA値だけでフォローするのではなく、必ずBSIや症状の変化など、総合的な情報で骨転移を判断すべきであろう。

(本記事は、RadFan2015年8月号からの転載です)
 
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