モーニングセミナー「大腸カプセル内視鏡」
司会:遠藤俊吾氏(福島県立医科大学会津医療センター)、池原貴志子氏(山陽病院)
はじめに、角川康夫氏(国立がん研究センター中央病院)が「大腸カプセル内視鏡の現状と今後の展望」と題して講演。冒頭はクイズ形式で、憩室等の各部位の内視鏡画像を示し、会場の注目を集めた。カプセル内視鏡は消化管内腔を観察する新しいタイプの内視鏡検査であるが、臨床現場では内視鏡挿入困難な場合などに活用されている。苦痛なく受診できるイメージの一方で、下剤の量をいかに減らせるか、カプセルが腸内でとどまり排出されない時の対応について等、課題も多くあると述べた。
次に増田淳一氏(虹が丘病院)は「実地医療における大腸カプセル内視鏡の有用性」で、大腸カプセル内視鏡の導入と臨床成績を紹介した。空気を挿入しないことで病変の形状が変化しないため、大腸CTに比べて平坦病変の描出能が高いことが分かり、検査をためらっていた人を呼び寄せる集患能力を感じているという。半数以上の検査午前中で終了するようだが、読影に時間を要するため読影ができる診療放射線技師が増えると望ましいとし、実際の症例動画を交えて読影について解説した。
野崎良一氏(大腸肛門病センター高野病院)の開会挨拶の後、第1部としてワークショップ1が開かれた。
第1部 ワークショップ1「診療放射線技師による一次読影の現状と課題」
司会:歌野健一氏(福島県立医科大学会津医療センター)、藤原正則氏(亀田メディカルセンター幕張)
高林 健氏(北海道消化器科病院)は、一般的に「大腸CTの未経験者が十分なトレーニングを行うためには、内視鏡で裏付けされた大腸CTの画像で175例以上の読影トレーニングが必要である」といわれていることから、診療放射線技師に高度な読影力が求められることも、大腸CTが普及しない原因の一つではないかと説明した。思わぬ見落としを防ぐためにも読影のダブルチェックが求められる。
岩野晃明氏(徳島健生病院)は、自院で作成しているレポートのポイントを紹介。同院は、レポートが複数枚にわたると、臨床医が全て目を通すのに時間がかかりしっかり読んでもらえない恐れがあるため、1枚に収めるようにしている。また、疑われる部位の位置が分かりやすいように肛門からの距離も表記している。
岩月建磨氏(松愛会松田病院)は、読影する際に同院で用いているオリジナル区分を解説。大腸癌取扱い規約での区分に加えて、さらに上行結腸を2区分、下行結腸も2区分、横行結腸とS状結腸は3区分にしている。診療放射線技師3名により約9年間で5,700件の検査をこなしているが、問題点として日常診療により時間が取れない等の理由で医師によるしっかりとした読影が行わていない問題点を挙げた。
松本徹也氏(大腸肛門病センター高野病院)は、効率的な一次読影の工夫としてCADを大腸展開像に併用して活用していると述べ、あくまで、隆起病変を自動で検出する機能としてCADを利用するという。大腸CTの検査数増加への対応と普及のために、一次読影のさらなる時間短縮を今後の課題とした。
松田勝彦氏(済生会熊本病院予防医療センター)は、診療放射線技師の大腸CT読影精度にに関するいくつかの論文で、十分なトレーニングを積んだ診療放射線技師と読影医の間に読影力の有意な差が認められないと発表されていることを示し、大腸CTの発展には診療放射線技師の読影に対する医師の理解が必要であると述べた。
特別発言として永田浩一氏(国立がん研究センター)は、日本の放射線科医はOECDで最も少なく、消化器科の医師は日常の業務で手いっぱいであることから、診療放射線技師に大腸CTの一次読影をたくせるかが大腸CT発展のキーであるとした。診療放射線技師は内視鏡画像を数多く見ることでトレーニングを積むべきであり、認定制度を設ける等の工夫も必要と結んだ。
第2部「大腸CT検査 ワークステーション(WS)を使いこなす」
司会:本田徹郎氏(長崎みなとメディカルセンター市民病院)、高林 健氏(北海道消化器科病院)
第2部では、アミン株式会社/ザイオソフト株式会社、株式会社AZE、富士フイルムメディカル株式会社、GEヘルスケア・ジャパン株式会社、各社によるWS独自機能のプレゼンに加え、第1部で講演した先生方が実際の読影をレクチャーした。司会の本田徹郎氏はTaggingの重要性を強調。読影は、肛門部から盲腸部まで順に仮想内視鏡像を確認し、盲腸部に到達したら肛門部へむけて折り返し、内視鏡像では難しい2方向からの確認を行うことで病変の見落としを防ぐ、と解説した。
第3部教育講演
1題目は、平山眞章氏(KKR札幌医療センター斗南病院)司会のもと、馬嶋健一郎氏(亀田メディカルセンター)が「人間ドックにおける大腸CT検査(一次スクリーニング)」として講演。前処置法として一般的なPEG-C法と、飲用の管理が楽である3%ニフC法(ニフレックにガストログラフィン60mLと水を加え、合計2Lを飲用)を紹介した。同院では2010年より人間ドックで大腸CTを実施しており、今後各地で大腸CTの人間ドックオプションへの導入が普及してほしいと結んだ。
2題目は司会を加藤貴司氏(北海道消化器科病院)が務め、松本啓志氏(川崎医科大学)は「大腸がん検診精密検査としての大腸CT検査(精検法)」と題して、自身が消化器内科医となったきっかけも織り交ぜ、大腸CTは内視鏡等の他検査と比較して品質と価格のバランスがよいと提示。イスラエルで開発された最新機器「カプセル型大腸CT」も紹介した。
第4部ワークショップ2「大腸CT検査前処置の工夫-標準化を目指して-」
司会:木島茂喜氏(自治医科大学)、岩野晃明氏(徳島健生病院)
安田貴明氏(長崎県上五島病院)は腸管内の残渣は偽病変、残液はブラインドエリアを作ることから、前処置の重要性を説いた。PEG-C法による大腸CTの精度検証によると良好な結果が得られているが、2Lの下剤は患者にとって大きな負担となる。そこで、同氏はPEG-Cの飲用量を400mL(PEG溶液380mL+非イオン性の水溶性造影剤を20mL)に減らし、実験を行った。2L飲用時と比較し、遜色ない結果が得られ、非イオン性の水溶性造影剤を用いることで、苦みもないので患者への負担が軽減できると考えられる。
岩月建磨氏(松愛会松田病院)は、前処置として高張法をメインで用いていると紹介。同院では、下剤を患者に在宅で内服してもらうが、腎機能が落ちていたり、遠方から来院する方等に対しては院内で内服するPEG-CM法で対応している。高張法について「泥状残渣や付着便、粘液や気泡などが多く残る傾向にあるが、前処置による特徴を把握し、読影経験を積めば、一定の読影結果は得られる」と考えを述べた。
前崎孝之氏(大腸肛門病センター高野病院)は、大腸CTの標準化とは目的とする病変を描出するための画像基準を設けることであると語った。同院では、ブラウン変法を採用しており、検査前日と当日に分割して下剤を飲用する分割法と、新たに開始した検査当日に下剤飲用を行う当日法を紹介。分割法は手順が煩雑であるため、患者に対して分かりやすく、丁寧な説明を心掛けている。
淵脇崇史氏(鹿児島共済会南風病院)は、等張法を採用している理由として、残渣の移動量が高張法と比較して大きく、読影に支障が少ない点を挙げた。低用量での前処置は、受診者から「服用量が少ないため、楽である」との声もあるようで、負担の少ない前処置への期待を込めた。
藤原正則氏(亀田メディカルセンター幕張)は今後の課題を下剤の減量とし、排便状況を詳細に確認することによって受診者によっては当日等張法の下剤量を減らすことが可能であると述べた。統計データによると、男性は15分間隔、女性は20分感覚で排便をしていると残液が少なくなるため、下剤も少量にできるという。
和田幸司氏(NTT東日本伊豆病院)は、PEG-C法とMP-C法の効果を評価した結果を報告。腸管内液体・固形残渣量、Taggingの質においてMP-C法はPEG-C法に対して非劣性であり、両群で造影剤量や服用タイミング等が異なるため優劣は判断できないが、MP-C法はPEG-C法と同様に大腸CTの有効な前処置法といえると結んだ。
最後に木島茂喜氏(自治医科大学)は、次回の同研究会では「FDG-PET CTによる大腸がん検査」と「救急疾患・IVR領域における消化器管疾患」について取り上げるとし、閉会の挨拶とした。次回、「第9回消化管先進画像診断研究会」は、2016年9月11日(日)、名古屋にて開催予定。