医機連、2018年度講演会を開催-ME立国のための支援と産業政策の実施を提言-

2018.06.15
生田幸士氏
宮原光穂氏
 一般社団法人日本医療機器産業連合会(以下、医機連)は6月12日、KKRホテル東京(東京都千代田区)において、2018年度講演会を開催した。
 
 初めに、生田幸士氏(東京大学)は「新原理医工学による未来医療社会」と題して、ME(医用工学)の発展のために日本に必要なことを概念、技術、人材育成の観点から講演した。
 日本は医用機器の改良には優れているが、まったく新しいものを考案することは不得手だという。欧米と比べて概念(コンセプト)の発明に対する評価や教育に重きが置かれていないためだ。「創造性こそ研究の要」とする氏にとってはまったく新しいコンセプトを生み出す訓練こそがカリキュラムに必要だと語った。
 日本でもME学科は工学部内に増設されているが、人材育成においては先進国よりも遅れが生じているという。氏が日本に必要だと語る人材とは専門を複数に持つハイブリッドな若手研究者であり、「医工融合型の人材育成」によって学生をそのように導いていくことが肝要だと強調した。
 新の融合への入り口とも言われる医工融合型は医学・工学・薬学・看護のみならず、倫理学・心理学といった教養科目も重視する。それは簡秀技術を身につけるためだと氏は述べる。「簡秀技術は視点を変えたシンプルな解決策のことだ。ただ単にハイテク技術のみを集めては信頼性に欠けてしまう。医療機器の使用条件を深く考え、技術に溺れることのない発想の転換こそが医療福祉工学の実用化の鍵となる」。同氏によれば理学を真理の探究とするならば、工学は真理の応用である。コンセプトを生み出す想像力と、事業として取り組むベンチャー精神を併せ持つ研究者の創出を医工融合による教育は可能にするだろう。

 人材育成のほか、研究者集団がやるべきこととしては医療応用への行政的課題の解決を氏は挙げる。「実用化研究促進のために各企業との提携や共同研究を行う必要がある。トップ名誉教授群が研究のみに尽力できる研究機構プロフェッサー・ユニオンも戦略の一つだ。また、治験・許認可体制の抜本的見直しをも研究として行い産業化へのシステムを作ることはME立国の最終出口となるだろう」。新しい医療機器を考案して実現できる人材と、それを認可する社会。いずれも実現させる支援体制を氏は示した。

 続いて宮原光穂氏(経済産業省医療・福祉機器政策室長)によって「経済産業省におけるヘルスケア・医療機器産業政策」についての講演が行われた。
 従来の医療は安全で奏効率の高い医薬品と機器のみを提供するのみのビジネスモデルであったが、現在は新たなシステムとして予防・生活管理サービスを含めたヘルスケアソリューションへと転換が行われているという。このような構造改革によって専門性の高度化が進展するため、周辺産業も併せて育成する水平分業型産業が必要となってくる。新たなヘルスケア産業の普及に向けては品質評価の環境整備が必要とも氏は語る。
 「ユーザーとヘルスケアサービス事業者の間に民間保険会社や地域包括ケアシステム関係者を入れるBtoBtoC方式によって、継続的な品質評価を可能としていく。既に一部の業種では保険料の還付などで予防投資を促進させているが、今後は地方自治体等とも連携して健康経営を拡大させていく必要がある。また地域から新しいヘルスケアサービスを創出や復興をすることで地域内外の事業者が参入しやすくなる土壌を提供して、地域住民がその効果を享受できる環境を整備することも重要だ」。
 日本のヘルスケアIT投資は他国と比べて大きく出遅れており、今後の施策として氏は①相互理解の促進、②クオリティデジタルへルスの推進、③多様なプレーヤーによる民間投資促進を前提として、個人や医療関係者にとって信頼できる業者の見える化と、ヘルスケアソリューションに関する重点分野の検討会を開催することを挙げた。

 医療機器においてはグローバル市場が拡大傾向にあるため、日本の輸出入額はいずれも増加傾向にある。「世界においても日本は診断機分野で一定の国際競争力を確保している。しかしながら、一般的に成長率と市場規模の大きい治療機器分野はそれに比べて弱い傾向だ。治療機器を扱う欧米の大手企業が新製品を開発するベンチャー企業を買収して量産するオープンイノベーションシステムを構築しているのも一因といえる。日系企業も自社開発だけに頼らず、異業種の参入を積極的に行う必要がある。そのために日本医療研究開発機構(AMED)は開発で重要な分野を絞り込み、その分野のベンチャー活性化などで支援を行う取組が求められる。日本の強みを活かし、開発投資を呼び込むことで優れた医療機器の発明と国内外への普及に繋がっていく」と氏が述べたように日本発のイノベーションを活性化することは世界での健康・医療へ貢献するためにも目指すべきことであろう。AMEDを通じた各機関の連携による医療機器開発支援ネットワークの強化や開発ガイドラインの策定のほか、日本式医療拠点を海外に設立して人材を育成することで販路を広げる活動など、経産省の取組を紹介して講演の結びとした。