根本 匠氏
横倉義武氏
佐野雅宏氏
鴨下一郎氏
加藤幸輔氏
西村周三氏
日本医師会、先進医療技術工業会(以下Adva Med)、米国医療機器・IVD工業会(以下AMDD)は、5月31日(金)、ザ・キャピトルホテル東急(東京都千代田区)にて第三回共催シンポジウム「活気ある国家・生きがいの創出」を開催した。
初めに厚生労働大臣を務める根本 匠氏より、2040年を見据え、eHealth、AI、ロボティクスといった最新のテクノロジーを活用・推進して健康寿命の延伸を図っていきたいというビジョンが語られた。
続いて横倉義武氏(日本医師会)は昨今のAI技術の隆盛に触れ、「AIの利活用はゲノム医療、創薬、介護、看護、医療情報など多岐にわたり、多くの患者に利益をもたらしている。一方で技術的特異点など将来的に懸念されるリスクや、個人情報など倫理的な問題も抱える。安全性は十分に確保されるべきで、国際的な動向を踏まえることが急務だ。日本にはAIを活用した医療の先駆けとなれる可能性があり、高齢者の生きがいを作っていける糸口になるだろう」とした。
佐野雅宏氏(健康保険組合連合会)は「昨今の医療の進歩は驚くべきもので、救えなかった患者を救うことも可能となった。一方で高度化は医療費の高額化にも繋がっており、保険行政は厳しい状況にある。国民皆保険制度も危うく、団塊の世代が高齢者となる2022年を控えた今、給付と負担のバランスが喫緊の課題だ。活気、生きがいといったものより、さらに上のレベルが必要」と、保険制度が直面している危機的状況を訴える。
それを継いで、鴨下一郎氏(優れた医療機器を国民に安全かつ迅速に届ける議員連盟)は「QOL(Quality Of Life)を超え、病気を抱えても社会に参画しながら生きがいを持ち続けられるような医療機器が求められている。医療従事者・出資者・研究者がチームとなって、どうか患者さんの生きがいを創出していってほしい」と、現状打開への希望を述べた。
加藤幸輔氏(AMDD)は、今回のテーマを実現するためのコンセプトとして「エコシステム」に触れた。「エコシステム」とは元々、生態系を意味する単語だ。これを医療機器開発においても体制として構築し、アイデアの創出から流通及び販売までの各プロセスに、医師、事業家、ベンチャーキャピタル、政策立案者、製品開発・臨床試験・製造販売の経験者といったそれぞれの分野の専門家が重層的に関わるという姿が志向されている。これが実現できれば、患者に革新的な医療機器をより早く届けることが可能になるという。
つづいて内田毅彦氏(日本医療機器開発機構(JOMDD) CEO)が「Digital/eHealthの展望」というテーマで講演を行った。氏はこれを心不全のモニタリング、外科の進歩、糖尿病自己管理の3分野から紹介。
心不全分野ではボストン・サイエンティフィック社のHeart Logic™(日本未承認)を紹介。Heart Logic™はペースメーカーを利用して、胸郭インピーダンス、心音、呼吸レート、活動レベル、夜間心拍数を観測、心不全のリスクを遠隔モニタリングするプログラムだ。増悪1か月前の検出感度が70%をマークしている。
外科手術分野では「外科手術の発展は現在が第3世代のSurgery 3.0。ロボティクス技術の時代である。今後迎えるSurgery4.0はデータ活用の時代だろう。具体的には外科医の手術スキル習熟支援が挙げられる。手術スキルをVRを使ってインテグレーションし、より短期間にアウトカムの高いトレーニングができる時代になる。VERB SURGICAL社(Google傘下のverilyとJohnson & Johnson傘下のETHICONが共同出資)設立に注目している。」と語った。
糖尿病分野としては「現在がメドトロニック社やテルモ社のreal-time CGMに代表される血糖値を見える化する時代、今後はWellDoc(米で医療機器として承認済)に代表される、疾患マネジメントとコーチングを組み合わせた行動変容アプリの時代が来る」と述べた。
最後に同氏は「日本医療機器市場にはエコシステムが足りない。画期的技術の開発だけではなく、implementation(社会実装)の観点を持って相互協力することが重要だ」と結んだ。
講演後は、ラウンドテーブルディスカッション「臨床・医療行政・患者の視点より」が行われた。座長の西村周三氏(医療経済研究機構)は、現代は様々な分野のアドバイスを得ながら医療を進めていく時代であるとし、「社会に価値を届ける」「Digital/eHealth」「エコシステムの実現」をディスカッションのテーマに掲げた。
医療の価値を社会に理解してもらうにあたって、迫井正深氏(厚生労働省大臣官房審議官)は米国の医療費高騰を例に出し、「日本でも懸念される事態で、コストパフォーマンスが重要になってきている。時代は変化しており、医療も価値観に合わせて変わっていかなければならない」とした。またそのための仕組みについて、富原早夏氏(経済産業省商務情報政策局)はソーシャルインパクトボンドを紹介。行政が社会課題解決型の事業を民間に委託し、成果に応じて報酬を支払うという取り組みだ。富原氏はこれを「Value based healthcareにおけるvalueは国、地域ごとに異なるべきもの。これはそのvalueを実現すべく指標を設け、見合った成果を出すための共通言語だ。成果も可視化されるため、成功すれば投資もされやすくなる」と、産業的な成長の観点から語った。
eHealthに関しては、原 正彦氏(島根大学大学院医学系研究科)が日本は実力での評価、及びクリニカルインパクトを踏まえてコストパフォーマンスを考慮して医療を構築することが苦手であると指摘。優れた技術や製品にフォーカスするエコシステムが望まれるとした。また池野文昭氏(スタンフォードメディカルセンター)は投資家の視点から、「iPhoneなどと同じ感覚で医療に投資するとなると、ニーズでなくテクノロジー軸で評価をしてしまう。医療においてテクノロジーはニーズに立脚しているべきだ。医師のように専門知識があり、かつ開発に興味もあるような人間が、その橋渡しやアドバイスをすることが必要になっていくだろう」と述べた。
講演に引き続き登壇した内田毅彦氏は、エコシステムの実現に触れた。「アイデアを具現化するための医師主導による開発支援は既に行われているが、仕組みを作り上げるには、薬事やトライアルに関するノウハウを伝える中継ぎ役が必要だ。困っている若手の医師や研究者を臨床開発の面からサポートすることで、よいエコシステムを構築できる」と、氏は異なった立場の協力者の必要性を訴える。
そこに池野氏は、「外資系に勤めている方は様々な分野や会社に行っていることが多く、かつ60歳になれば定年で退職することが多い。そうした幅広い知識を持つ方々が定年後、大学へ通って知識をアップデートしつつ、シリコンバレーに倣ってメンターのように若手のスタートアップを教導しつつお金も稼ぐ、という環境を作れば、ノウハウの共有ができるのではないか」と提案。
対して迫井氏は「今の人が先進的か否かの軸で評価する以上、突拍子もないアイデアには光が当たらず、今の環境では不連続のイノベーションは起こらない。また、外国のやり方を取り入れるのにあたり、両方の悪いところを抱えてしまうのは避けたい。日本式のやり方を進めていくのも悪くないのではないか」と述べ、熱い議論が交わされた。
専門家の議論を受けて患者代表の山田竜夫氏は、一般の患者には新製品の存在さえ伝わらないことが多く、ニュースで見るものも一過性になりがちで、正しく評価された製品や治療をどう選んでいいのかわからないという現状を告白。
西村氏はこれに対し、自国民は健康だと思うかというアンケートに健康寿命トップであるはずの日本の「はい」の回答は世界で下から2位だったという例を出し、医療機器も充実し健康にも貢献してはいるが、消費者が納得し理解していない現状があるとし、国民に情報を伝えていく手段が今後の課題だとした。また医療のパフォーマンスの尺度として仏教用語の「和顔施」を挙げ、「人間、生きていること自体が素晴らしい」という健康の概念も含めて開発を進めてほしいと述べ、ディスカッションを締めくくった。
初めに厚生労働大臣を務める根本 匠氏より、2040年を見据え、eHealth、AI、ロボティクスといった最新のテクノロジーを活用・推進して健康寿命の延伸を図っていきたいというビジョンが語られた。
続いて横倉義武氏(日本医師会)は昨今のAI技術の隆盛に触れ、「AIの利活用はゲノム医療、創薬、介護、看護、医療情報など多岐にわたり、多くの患者に利益をもたらしている。一方で技術的特異点など将来的に懸念されるリスクや、個人情報など倫理的な問題も抱える。安全性は十分に確保されるべきで、国際的な動向を踏まえることが急務だ。日本にはAIを活用した医療の先駆けとなれる可能性があり、高齢者の生きがいを作っていける糸口になるだろう」とした。
佐野雅宏氏(健康保険組合連合会)は「昨今の医療の進歩は驚くべきもので、救えなかった患者を救うことも可能となった。一方で高度化は医療費の高額化にも繋がっており、保険行政は厳しい状況にある。国民皆保険制度も危うく、団塊の世代が高齢者となる2022年を控えた今、給付と負担のバランスが喫緊の課題だ。活気、生きがいといったものより、さらに上のレベルが必要」と、保険制度が直面している危機的状況を訴える。
それを継いで、鴨下一郎氏(優れた医療機器を国民に安全かつ迅速に届ける議員連盟)は「QOL(Quality Of Life)を超え、病気を抱えても社会に参画しながら生きがいを持ち続けられるような医療機器が求められている。医療従事者・出資者・研究者がチームとなって、どうか患者さんの生きがいを創出していってほしい」と、現状打開への希望を述べた。
加藤幸輔氏(AMDD)は、今回のテーマを実現するためのコンセプトとして「エコシステム」に触れた。「エコシステム」とは元々、生態系を意味する単語だ。これを医療機器開発においても体制として構築し、アイデアの創出から流通及び販売までの各プロセスに、医師、事業家、ベンチャーキャピタル、政策立案者、製品開発・臨床試験・製造販売の経験者といったそれぞれの分野の専門家が重層的に関わるという姿が志向されている。これが実現できれば、患者に革新的な医療機器をより早く届けることが可能になるという。
つづいて内田毅彦氏(日本医療機器開発機構(JOMDD) CEO)が「Digital/eHealthの展望」というテーマで講演を行った。氏はこれを心不全のモニタリング、外科の進歩、糖尿病自己管理の3分野から紹介。
心不全分野ではボストン・サイエンティフィック社のHeart Logic™(日本未承認)を紹介。Heart Logic™はペースメーカーを利用して、胸郭インピーダンス、心音、呼吸レート、活動レベル、夜間心拍数を観測、心不全のリスクを遠隔モニタリングするプログラムだ。増悪1か月前の検出感度が70%をマークしている。
外科手術分野では「外科手術の発展は現在が第3世代のSurgery 3.0。ロボティクス技術の時代である。今後迎えるSurgery4.0はデータ活用の時代だろう。具体的には外科医の手術スキル習熟支援が挙げられる。手術スキルをVRを使ってインテグレーションし、より短期間にアウトカムの高いトレーニングができる時代になる。VERB SURGICAL社(Google傘下のverilyとJohnson & Johnson傘下のETHICONが共同出資)設立に注目している。」と語った。
糖尿病分野としては「現在がメドトロニック社やテルモ社のreal-time CGMに代表される血糖値を見える化する時代、今後はWellDoc(米で医療機器として承認済)に代表される、疾患マネジメントとコーチングを組み合わせた行動変容アプリの時代が来る」と述べた。
最後に同氏は「日本医療機器市場にはエコシステムが足りない。画期的技術の開発だけではなく、implementation(社会実装)の観点を持って相互協力することが重要だ」と結んだ。
講演後は、ラウンドテーブルディスカッション「臨床・医療行政・患者の視点より」が行われた。座長の西村周三氏(医療経済研究機構)は、現代は様々な分野のアドバイスを得ながら医療を進めていく時代であるとし、「社会に価値を届ける」「Digital/eHealth」「エコシステムの実現」をディスカッションのテーマに掲げた。
医療の価値を社会に理解してもらうにあたって、迫井正深氏(厚生労働省大臣官房審議官)は米国の医療費高騰を例に出し、「日本でも懸念される事態で、コストパフォーマンスが重要になってきている。時代は変化しており、医療も価値観に合わせて変わっていかなければならない」とした。またそのための仕組みについて、富原早夏氏(経済産業省商務情報政策局)はソーシャルインパクトボンドを紹介。行政が社会課題解決型の事業を民間に委託し、成果に応じて報酬を支払うという取り組みだ。富原氏はこれを「Value based healthcareにおけるvalueは国、地域ごとに異なるべきもの。これはそのvalueを実現すべく指標を設け、見合った成果を出すための共通言語だ。成果も可視化されるため、成功すれば投資もされやすくなる」と、産業的な成長の観点から語った。
eHealthに関しては、原 正彦氏(島根大学大学院医学系研究科)が日本は実力での評価、及びクリニカルインパクトを踏まえてコストパフォーマンスを考慮して医療を構築することが苦手であると指摘。優れた技術や製品にフォーカスするエコシステムが望まれるとした。また池野文昭氏(スタンフォードメディカルセンター)は投資家の視点から、「iPhoneなどと同じ感覚で医療に投資するとなると、ニーズでなくテクノロジー軸で評価をしてしまう。医療においてテクノロジーはニーズに立脚しているべきだ。医師のように専門知識があり、かつ開発に興味もあるような人間が、その橋渡しやアドバイスをすることが必要になっていくだろう」と述べた。
講演に引き続き登壇した内田毅彦氏は、エコシステムの実現に触れた。「アイデアを具現化するための医師主導による開発支援は既に行われているが、仕組みを作り上げるには、薬事やトライアルに関するノウハウを伝える中継ぎ役が必要だ。困っている若手の医師や研究者を臨床開発の面からサポートすることで、よいエコシステムを構築できる」と、氏は異なった立場の協力者の必要性を訴える。
そこに池野氏は、「外資系に勤めている方は様々な分野や会社に行っていることが多く、かつ60歳になれば定年で退職することが多い。そうした幅広い知識を持つ方々が定年後、大学へ通って知識をアップデートしつつ、シリコンバレーに倣ってメンターのように若手のスタートアップを教導しつつお金も稼ぐ、という環境を作れば、ノウハウの共有ができるのではないか」と提案。
対して迫井氏は「今の人が先進的か否かの軸で評価する以上、突拍子もないアイデアには光が当たらず、今の環境では不連続のイノベーションは起こらない。また、外国のやり方を取り入れるのにあたり、両方の悪いところを抱えてしまうのは避けたい。日本式のやり方を進めていくのも悪くないのではないか」と述べ、熱い議論が交わされた。
専門家の議論を受けて患者代表の山田竜夫氏は、一般の患者には新製品の存在さえ伝わらないことが多く、ニュースで見るものも一過性になりがちで、正しく評価された製品や治療をどう選んでいいのかわからないという現状を告白。
西村氏はこれに対し、自国民は健康だと思うかというアンケートに健康寿命トップであるはずの日本の「はい」の回答は世界で下から2位だったという例を出し、医療機器も充実し健康にも貢献してはいるが、消費者が納得し理解していない現状があるとし、国民に情報を伝えていく手段が今後の課題だとした。また医療のパフォーマンスの尺度として仏教用語の「和顔施」を挙げ、「人間、生きていること自体が素晴らしい」という健康の概念も含めて開発を進めてほしいと述べ、ディスカッションを締めくくった。
左から山田竜夫氏、原 正彦氏、迫井正深氏
左から富原早夏氏、池野文昭氏、内田毅彦氏