日立製作所、大日本住友製薬からヒトiPS細胞を用いた再生医療向け大量自動培養装置を受注、パーキンソン病治療向け細胞の製造に向けた研究用装置

2017.04.10

 (株)日立製作所は、このたび、(株)大日本住友製薬(社長:多田正世/以下、大日本住友製薬) からヒトiPS 細胞を用いた再生医療向け大量自動培養装置を受注した。

 本装置は、無菌性に優れた完全閉鎖系の流路*1 を採用し、病原体や微生物などによる外部からの汚染を低減している。大日本住友製薬は、脳のドパミン神経の変性・脱落が原因とされるパーキンソン病*2 の治療に用いる他家 iPS 細胞*3 由来のドパミン神経前駆細胞*4 の実用化に向けて京都大学 iPS 細胞研究所と共同して取り組んでいる。日立は、本装置の提供を通じて、大日本住友製薬が取り組んでいる他家 iPS 細胞由来ドパミン神経前駆細胞の実用化に向けた研究を支援する。

 なお、日立および大日本住友製薬は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業において、ヒト iPS 細胞を用いたパーキンソン病に対する再生医療の実用化に向けた「細胞自動培養装置の導入に伴う加工プロセス改良時の妥当性評価」について共同で研究を行っている。

 万能細胞とも呼ばれる iPS 細胞は、身体のあらゆる組織や臓器の細胞になることが可能なため、傷病などで傷ついた細胞を補う治療法である再生医療に役立つことが期待されている。2014年には、世界初のiPS細胞を用いた目の臨床研究が日本で行われた。また、同年11月には、再生医療の実用化を促進する法律が施行され、日本国内の再生医療市場は、拡大すると見込まれており、関連産業を含め、2020年には約 1,900億円*5、2050年には約3兆8,000億円*5 になると予想されている。一方、iPS 細胞を用いた治療薬が本格的に普及するには、多くの技術的な課題の解決が必要だ。特に、現在、ほぼ手作業で行われている製造プロセスを自動化し、品質が保証された細胞を安価に供給できることが求められている。

 大日本住友製薬は、1980年代から再生医療分野での研究開発に取り組んでおり、現在は、パーキンソン病、加齢黄斑変性*6、網膜色素変性*7、そして脊髄損傷などの難病の克服に向け、iPS 細胞を用いた再生医療等製品の研究開発をベンチャー企業、大学や研究機関と連携して取り組んでいる。一方、日立は、医薬品を製造する施設に加え、再生医療向けの細胞調製室や、製造に用いる安全キャビネット、製造を管理する情報システムなどを製薬会社へ納めてきた。また、血液などの検体を分析する装置や自動で搬送するシステムを医療機関に提供しており、医薬品製造時の検査に関連するシステムも開発・提供をしている。さらに、細胞自動培養技術の開発において、これまで日立は国家プロジェクトへの参画*8 を通して取り組んでおり、その一部技術は今回の装置に生かされている。

 今回、受注した自動培養装置は、ボトル、流路、培養容器など、すべて単回使用の部品から構成され、大量の自動培養、および細胞観察を無菌閉鎖空間で行えるため、iPS 細胞の培養や神経細胞への分化誘導が効率的に実施できる。
 
 今後、日立は多様な顧客ニーズに応える再生医療向けの製造装置の開発・販売を推進し、医療の発展に貢献する。

*1 完全閉鎖系の流路:外部環境から細菌などの混入を回避する構造で作られた細胞培養容器へ培養液を送るためのもの。
*2 パーキンソン病:脳のドパミン神経の変性・脱落が原因と考えられている神経変性疾患。身体の動きに障害をもたらす。
*3 他家 iPS 細胞:治療を受ける本人の細胞ではなく、他人の細胞から培養した iPS 細胞。
*4 ドパミン神経前駆細胞:神経伝達物質としてドパミンを放出するドパミン神経細胞の前駆細胞。
*5 出典経済産業省 「再生医療の実用化・産業に関する研究会」の最終報告書(2013年)。
*6 加齢黄斑変性:加齢に伴い目の網膜にある黄斑部が変性を起こす疾患。視力の低下を引き起こす。
*7 網膜色素変性目の中で光を感じる組織である網膜に異常がみられる疾患。視力の低下を引き起こす。
*8 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「基盤技術研究促進事業」、内閣府「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」、文部科学省「イノベーションシステム整備事業先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」

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